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彼女はくノ一! 第五話 (226)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(226)

「……排除するも何も……」
 堺は肩を竦めた。
「もう、友だちですから……。
 それに、変わり者ということなら、うちの両親もそうですし……」
「……そういえば……」
 柏あんなも、堺の言葉に頷いている。
「おじさんたちとうちの両親も……おねーちゃんがしっかりしているのをいいことに、子供ほったらかしにして、あちこちほっつき歩いているし……そういう非常識な大人に比べれば、あの子たちのほうがいくらかましかも……」
「……そちらの家庭の事情はさておき……」
 ……子供にこれだけのことをいわせる両親、というのは、どういうもんなんだろうか……と、有働も思わないでもなかったが、他人の家庭の事情を詮索する趣味もなかったので、その部分へのコメントは差し控えた。
「お二人は、あの人たちに、特に悪感情はないっていうことですね?」
「……うん。そう」
 柏あんなは、頷く。
「……怖いか怖くないか、っていったら、怖いとは思うけど……。
 でも、あの人たち、加納先輩とか楓ちゃん、自分の能力をそんなことに使わないってわかってるし……」
「……それに……さっきあんなちゃんがいってた、危ないって話しも……そのへんに普通にある刃物だって、使いようによっては、武器になるわけで……。普通の自家用車だって、交通ルールを守らないだけで、凶器になるわけですし……。
 潜在的な殺傷能力がある、ということでいえば、あの人たちとぼくらと、もうあまり代わりませんよ……。
 昨日、徳川さんの工場にいた人たちが、どんなに強くても……ぼくには、不意に遭遇する交通事故とか……あと、道を歩いていて、刃物を持ったジャンキーと遭遇する可能性とか、そっちの方が恐いです……。
 加納先輩の関係者とはまだしも会話ができますが、そうした不意のアクシデントは、一方的に曝されるだけですから……」
「……堺君は……」
 堺雅史の言い分は、身も蓋もなかったが……理路整然としている……と、有働は思う。
「彼らが、対話可能な相手だから、あまり恐くはない、という意見なのですね?」
 そう、確認をした。
「……ええ。そうですね……」
 堺は頷く。
「例えばあんなちゃんとは、ぼく、やっても負けると分かっているんで、喧嘩をしようとは思いませんけど……」
 有働から見えない机の下で、柏あんなは堺の臑を蹴飛ばしている。
「……同時に、だからといって、あんなちゃんが空手の有段者だからといって、むやみに恐がることもありません……。
 あの人たちが、ぼくらを襲うとして集まってきているのならともかく……そうでないのなら、むやみに恐がる必要もないかと……。
 昨日の様子では……大半の人達は、他に行き場がなくて、しかたがなくここに来たって感じでしたけど……」
 堺雅史と柏あんなは、玉木やテン、ガクとともに、昨夜、大勢の「彼ら」とともに、長時間、歓談している……ということを、有働も知っている。
 そこでの感触も含めて、堺なりに出した結論らしかった。
「……柏さんも、同じ意見ですか?」
 有働は、今度は、柏あんなに水を向ける。
「……まったく、同じ……というわけではありませんけど……」
 柏あんなは、言葉を濁す。
「……ええっと……。
 楓ちゃんとか加納先輩、それに、才賀先輩なんかも……そうした知り合いについては、どんなに強大な力を持っていても、特に問題はないと思っています。
 そういった人たちが、無茶なことをするとは思えませんから……」
 考え考え、言葉を紡いでいた柏あんなは、そこで言葉を切った。
「……でも、他の人たちについては……一概には……」
 しばらく思案していた柏あんなは、「このことは誰にも、特に、楓ちゃんや才賀先輩の耳には、入らないようにしてくださいね」と前置きして、有働と堺に、昨日の「酒見姉妹が香也を人質にしようとして、失敗した件」について、一通り説明する。
 荒野に口止めはされていたが、興味本位で流布しているわけではないし、有働勇作の耳には、その一件を入れておいていいだろう……と、考えた末、柏あんなは結論した。

「……そんなことが、あったんですか……」
 柏あんなの話しを一通り聞き終えた有働は、そういってため息をついた。
「あったんです」
 柏あんなが、頷く。
「……確かに、まぁくん……堺君のいうとおり、昨日の人たちが、理由もなく他人を襲うとは思いません。
 けど……逆にいえば、その必要が生じれば、彼らは……躊躇せず、無関係の人を、利用したり傷つけたりするんじゃないでしょうか?」
 あんなのその指摘は、重かった。
「……そう、思います……」
 有働も、あんなの言葉を否定する材料を持っていない以上、頷かないわけにはいかない。
「今のところ、利害が対立していないから……それに、下手に目立って、自分たちの正体が露見する機会を作りたくないから……ぼくたち、地元住人にも、それなりに配慮しているわけで……。
 でも、加納君は……」
「そうしたこと……学校とか、この辺に住む人たちに、とばちりが行かないように、気をつけている……。
 それも、理解しています」
 昨日の、徳川の工場での荒野をみていれば、いやでも理解できる。荒野は、できるだけ、誰も傷つかない……という結果を得るために、必死になっている。
「でも……その、加納先輩の理屈って……。
 他の人たち……例えば、この間、学校に侵入して来た人たちにまでが……尊重してくれるもんなんでしょうか?」
 あんながそう続けると、重苦しい沈黙が訪れた。
「……そうか……」
 しばらくして、堺雅史が、その沈黙を破る。
「加納先輩にしてみれば……この町全体が、人質になっているようなものなんだ……。
 だから、昨日も……新しく来た人たちに、できるだけいい印象を持って貰おうと……」
 荒野は、自分の窮状を友人たちに懇切丁寧に説明したりしていない。
 しかし、荒野が達したのと同じ結論に、この三人も達していた。
「……加納君は、優しすぎるのです」
 有働も、頷く。
「彼の性格だと、不利だと分かっていながらも……そういう選択しか、できないのでしょう……」
「……有働先輩、最近、徳川さんの工場にいっています?」
 唐突に、柏あんなが、一見関係無さそうな話題を持ち出した。
「……いえ、ここ数日は……。
 向こうには、玉木さんたちが、詰めていますし……」
 有働は、戸惑いながら、首を左右に振る。
「……じゃあ、一度時間を作って、見にいってみるといいですよ……」
 柏あんなは、悪戯っ子めいた笑顔をみせた。
「……いろいろと……面白いことを、やっていますから。
 監視カメラとか、才賀先輩の会社とか……今の話し聞いて、わたし、初めてその意味が理解できました。
 特に才賀先輩の動きは……有働先輩なんかは、興味を持つと思いますし、わたしなんかよりも、しっかりとその意味を理解できると思いますけど……」




[つづき]
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