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彼女はくノ一! 第五話 (227)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(227)

 最終下校時刻が近づいている、という校内放送があったので、パソコン実習室に居残っていた生徒たちも帰り支度をしはじめる。楓はその放送を聞いて、「あ。今日は、有働さんの声だ」と思った。何人かの放送部員と顔見知りになったおかげで、楓も校内放送の声の主を聞き分けられるようになっている。ぼんやりとそんなことを考えながら、楓も他の生徒たちと同様、手を動かして帰宅の準備をはじめる。支度、とはいっても、筆記用具類を鞄にしまい込み、学校指定のコートとマフラーを着用するだけだが。そうこうするうちに、有働に連れられて姿を消していた堺雅史と柏あんなが連れだって帰ってくる。パソコン部員全員で末端の電源を片っ端から落とし、戸締まりをしてから、実習室の前で解散、ということになる。ほぼ全員がそのまま玄関へと向かったが、楓一人が別の方向、美術室へと向かう。楓が帰りにそこに寄るのはデフォルトなので、会見知りの部員たも別れの挨拶こそすれ、「どこへ行くのか」とは聞かない。いつもと違うのは、今日だけはいつも行動を共にしている茅の姿がなく、楓一人きりだということだ。

 冬本番のこの時期、窓の外はすっかり暗くなっている。照明がついたまま、誰もいない廊下を歩いて、楓は美術室に向かう。
 美術室前で、中からでてくる香也と樋口明日樹と鉢合わせになった。明日樹はそのまま香也と楓を少し待たせ、美術室の鍵をかけ、その鍵を今度は三人で連れ立って職員室に返しに行く。いくら顧問が生徒を放任して、美術準備室内に香也が持ち込んだ私物の画材などが放置されていても、鍵の管理まで杜撰、というわけにはいかないのであった。
「……こうしてみんなで帰るのも、もう何回できるか……」
 職員室に向かう途中で、樋口明日樹はそんなことを呟く。
 明日樹は三年に進級したら、部活から引退する……と以前から公言している。三学期の実質的な授業日数も、残り少なくなっていた。
「でも……毎日、朝来る時とか、顔はあわせますし……」
 楓としては、そんな当たり障りのないことしか、いうことができない。
「そう……なんだけど……」
 明日樹は、ため息をつく。
「それだって、あと一年だし……。
 こっちは、先に卒業しちゃうから……」
 そういうと明日樹は、楓と香也を置いて、職員室に入っていった。

 明日樹が職員室から廊下に戻ってくると、楓が自分の携帯の液晶を覗きこんでいる。
「……メール?」
 楓が特に深刻そうな表情もしていなかったので、明日樹は、気軽に尋ねた。
「ええ」
 楓は、携帯をコートのポケットにしまい込みながら、答えた。
「ガクちゃんたちから。
 ちょうど買い物で商店街に出ているから、一緒に帰ろうって……」
「荷物持ちってこと?」
「いえ……。
 テンちゃんもガクちゃんも、最近では自転車で出回っているし……。
 いつも、荷台とか後ろの座席にめいっぱい荷物積んで、帰ってくるんですよ……」
 狩野家も今では住人の人数が多いので、食料品の消耗もペースが早い。真理がいる時も毎日のように車で買い物に出ていたし、真理不在の最近では、テンとガク、それに羽生が交代で買い物を受け持っている。羽生も、真理が留守の間は、バイトのシフトを、朝に出勤して夕方に帰ってくる昼勤に調整していくれていた。
 楓と孫子は、「学校があるから」という理由で、買い物を免除されている。そのかわり、掃除や洗濯はできるだけやるようにしているが……。
「……人数が多いと、いろいろと大変だ……」
 楓の説明を聞いても、明日樹は芸のないことしかいえなかった。明日樹が家事を行う時といえば、両親が旅行にいった時くらいなもので、それも、大半は姉の未樹がやってしまう。
 何となく想像できるけど、実感はできない……というのが、明日樹の実感だった。

「あっ……来た来た」
「こっちこっち……」
 商店街の外れで自転車を止めて待っていたテンとガクは、香也たち三人の姿を認めると、大きく手を振った。楓の話し通り、自転車の荷台と後部座席に荷物が山となって置かれている。
「……わぁ……本当だ……」
 その荷物が、予想よりも多かったので、明日樹は少し引き気味になる。
「いつも……こんなんなの?」
「何?
 ああ。荷物のこと?」
「今日は、いつもより少ないくらいかな……」
 明日樹の問いに答えながら、テンとガクは自転車のハンドルを持って手で押していく。
「二人とも、いつもお買い物に行っているの?」
 明日樹が、重ねて尋ねる。
「にゅうたんが仕事の帰りに買ってくる時もあるし、いつもってわけではないけど……。
 平日は、だいたいボクらの担当かな……」
 ガクが、頷く。
「朝、お掃除と洗濯やって家出て、たまに図書館によって本を返したり借りたりしながら徳川さんの工場に寄って、そこでいろいろやって晩ご飯の時間までに帰ってくる、というのが、最近のパターン……」
 テンが、淡々と説明する。
「……はぁー……なるほど……」
 明日樹としては、気の抜けた声を出して、頷くよりほかない。
 ……学校に行ってないとはいっても……思ったより、規則正しい生活をしているんだな、と、明日樹は思った。
「……偉いね……二人とも……」
 何となく目をそらして、そんなことをいう。
「徳川君の工場って……例の、撮影?
 あっ。ほら、あれの……」
 そういって明日樹は、ちょうど手近な液晶に映し出されたシルバーガールズのスポット映像を指さす。
「うん。それもあるけど……。
 他にも、いろいろと作っているものがあって……でも、詳しい内容は、まだ秘密」
 テンが、そう答える。
「……あら、今、帰り?」
 どこからか現れた才賀孫子が、帰路を歩きながら話している四人に合流してくる。
「あっ。どうも」
 孫子の出現に気づいた楓が、ちょこんと頭を下げた。
「……どこかに行ってたんですか?」
 明日樹は、制服姿の孫子に尋ねる。孫子と明日樹は同学年だが、孫子にはどうしても敬語を使ってしまう。
「行ってたっ、ていうか……営業回りを、ちょっとね」
 孫子は肩をすくめて答える。
「……登記とか書類上の手続きが済んだら、すぐに稼働できる状態に持って行いっておきたいので、色々と下準備を行っている所です……」
 ……こっちはこっちで……絶対、年齢不相応な発想と行動力だよな……と、明日樹は思う。




[つづき]
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