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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(143)

第六章 「血と技」(143)

 シャワーを浴び、ベッドに場所を移してもう一度交わった後、そのまま眠りについた。茅の時とは違い、シルヴィが相手だと、乱雑な動きをすることになんの躊躇も感じない……という自分の心理を、荒野は「身勝手だな」と思い、行為が終わった後にシルヴィにもそう告げると、「利用しあっているのはお互い様じゃない」と、にべもなく返された。
「……コウは……あの子に預けておくわ。
 しばらくは……」
 シルヴィは、火照った体を冷ましながら、そう呟く。
「……しばらく?」
 その呟きを聞いた荒野は、眉を顰めた。
「コウの最初の子は……シルヴィが、産む。
 コウの子供なら、コウと同じよ……」
 そういって、シルヴィは、自分の腹部をいとおしそうに撫でさすった。
「殿方の愛情は気まぐれで、いつまでもつなぎ止めておけないけど……血の絆は、永遠だわ……」
「……今ので、できたのか?」
 荒野は、シルヴィが撫でている腹部をみながら、複雑な表情をする。そういう約束で同衾したわけだから、そのことについて今更どうこういうつもりはないのだが……心境としては、かなり複雑だった。
 さぁ、と、シルヴィはほほ笑む。
 荒野は、その笑みの中に底知れない深遠をみたような気がした。
「可能性は、ゼロではないけど……実際にどうなのかは、なんともいえないわね……」
 若い荒野には、その笑みの中にあるのは、姉崎の……というよりは、女性が先天的に持つ、深遠のように思えた。
「……正直、そういう実感は、ないんだけど……」
 シルヴィとこうしているのは、熟考して選択した結果だったが……荒野には、まだ、人の親になる、という覚悟も実感も、ありはしない。
「……それでいいのよ、コウは……。
 まだまだ、コウ自身が、子供なんだから……」
 そういうシルヴィの笑みは、ますます柔らかいものになる。
「子供ができたら……わたしが、責任を持って育てるし、姉崎にとっても、コウたちを積極的に支援する根拠ができたことになる……」
「……種馬扱い、というのも、なんだか味気無いもんだな……」
 荒野は、そうぼやいた。
「……あらぁ?
 わたし、相手がコウでなかったら、そもそも、こんな提案もしないけど……」
 シルヴィが、わざとらしい仕草で目を丸く見開いて見せる。
「……いや……。
 わかってる、つもりだけど……」
 荒野にしてもシルヴィにしても、相手の性格、その基本的な部分を熟知しあっている同士だ。
 以心伝心、とまではいかなくとも、お互いの思考法は、ある程度推測がつく。
「……それで……例の情報は、ちゃんと渡してくれるんだろうな……」
 気まずくなった荒野は、話題を変えた。
「もちろん。
 心当たりに、追跡調査を頼んでいるところよ……」
 この手の話題になると、シルヴィの目付きも、いつもより鋭いものになる。
「……手持ちの情報も、フィルタリングかけているところだけど……断片的なものばかりで、どれも確実性に欠けるわ……」
 シルヴィは、研究所を襲った連中の中で、身元が判明している者、その前後で姿を消した一族の関係者などを洗いだし、一人一人の痕跡をたどらせている、という。
「ただ……何分、十年以上前のことだし、生存者自体が極端に少ないから……」
 そちらの線は、望み薄だ、と答えた。
「……あと……肝心のBad kidsの方だけど……」
 茅が描いた似顔絵を元に、ここ数年の入出国のデータなども照合したが、芳しい結果は得られなかった、という。
「この国で生まれたか、それとも、うーんと小さい時に来て、育ったか……」
「……国内には、姉崎の手は届かない、か……」
 荒野は嘆息する。
「じじいとかロートル連中が、もう少し協力的ならなあ……」
「長老の反応は? 相変わらずなの?」
「ああ……。
 好きにしろって突き放されているよ、相変わらず……」
 荒野は、ゆっくり首を振る。
「あの悪餓鬼ども……おれたちだけではなく、一族全体にとって脅威だと思うんだが……」
「コウは……古株連中に、試されているのよ。
 やっかみ半分、かもしれない……」
 シルヴィは、そう指摘する。
「コウが、ここではじめたことは……その存在を秘匿することを、自らの存在理由とする、旧来の一族価値観とは、まっこうから対立する……」
「そのことは、おれも考えたこと、ある……」
 荒野も、頷く。
「じじいにしてみれば、そういううるさ型の手前、あんまり大っぴらにこっちの支援をするわけもいかないのかもな……。
 なんていったって、長老だし……」
 多分に名目上のこととはいえ、仮にも一族のトップが、今までの一族のあり方を否定しようとする荒野の活動を公然と支援することは……涼治の立場を考慮すれば、まずありえないことだった。
「……おれが勝手に動いている段階では、若い者の軽挙ですむ……って、こったろ?」
「……わかっているじゃない……」
 シルヴィも、頷く。
 理解はできるが……反面、若い荒野は、そうした古い因習やしがらみを、馬鹿馬鹿しく思う気持ちもある。
「ま、国内の捜査は……将来、こっちの手駒が、使えそうな人が確保できたら、自前でやるよ……」
 間に合えば、いいが……と思いながらも、現在の荒野には、それ以上の、現状で打つべき手がない。
「……やつらを育てたり、バックアップしたりした連中のあては?」
「……そちらも……」
 シルヴィは肩を竦めて、顔を左右に振った。
「……例の研究所の生き残りも……ほとんどが、早い時期に死亡しているし……数少ない生き残りは、佐久間が保護してたから……」
 それは……文字どおり、「保護」だったのだろう。
 あんな事件があった直後なら、佐久間が疑心暗鬼に駆られていてもおかしくはない。他の一族を完全に信用しきれなくて、情報を完全にシャットアウトした時期があっても……。
「……で、その佐久間のカーテンがなくなった頃には……数少ない生存者は散り散りになっていた……ということか……」
「……佐久間も……当時は、複雑だったようね。
 そのまま一族から分離して、一般人の中に姿をくらましてしまえ、という一派もいたそうだし……実際に脱落者も、相当数、でたようだし……」
 ようするに……事件の生存者どころではない、混乱期も存在した……ということらしい。
「そんなんじゃ……当時の記録をたどるのは、難しいか……」
 納得すると同時に……荒野は、ため息をつく。
「……この間、ガス弾に使用された容器を徳川が調べたんだが……あれも、なんの変哲もないプラスチック製で、材料と簡単な設備……小さな町工場程度の設備がありさえすれば、誰にでも容易できる代物だったって……」
 今度は荒野が、シルヴィに説明した。
「……中身は、いうまでもない……。
 やつら、どこででも手に入れられる、足のつかないものばかりを使って、最大限の効果をあげやがった……」
 あの時の襲撃で、代替の効かない要素は「佐久間現象」くらいなものだろう。その現象も、見事に一回利用したきりで「使い捨て」にしている。現象の能力とモチベーションを考えたら、もう少し扱いに注意して、長く使いそうなものだが……悪餓鬼どもは、あえてそれをしていない。
 荒野が今、こうしていられるのは……たまたま、理解者に恵まれただけだ。そうでなければ……荒野たちは、一般人に、追われてここから逃げ出している筈だった。
 現在の荒野たちににとって、損害、というのなら、これ以上大きな損害は、ない。
 場合によっては、かなり長期にわたって、方々を流れ歩かなければならないし、全員で固まって移動するのも目立つから、いくつかのグループに分離していた可能性もある。
 そうなれば……悪餓鬼どもにとっては、各個撃破の好機となる。
 そうならなかったのは、あくまで、荒野たちが「幸運」だったから、だ。
「……まったく……やっかいな連中を、作ってくれたもんだよ……」
 荒野はそう、ぼやいた。





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