第六章 「血と技」(3)
「柏さん……。
悪いけど、説明をするのはまだ先になりそうだ……」
荒野は、佐久間現象が去った方向……校庭、を見ている。外は、大粒の雨が降りしきる土砂降り状態だった。
脅威は……敵は、完全にいなくなった訳ではない。
「茅……このあたりに敵は、いないな?」
質問の形をとった確認。荒野が気配をっても、特に怪しい人影はない。
茅も頷く。
「……それじゃあ……。
おれは、おれと対戦することを目的に来たヤツらの、相手をしてくる……。
論より証拠……。
おれたちが一体どういう存在なのか説明をするにしても、最初に実物を見せておいたほうがいいだろう……」
言い終わると荒野は、軽やかに跳躍し、先程茅が開け、開いたままになっていた窓枠を踏み台にし、雨の降りしきる校庭へと飛び出して行く。
実習室の中にいた生徒たちが、息を呑んだ。地上まではかなりの距離があり、普通に考えれば、自殺行為だった。
しかし、荒野の動きは止める間もないほどに素早く、特に一度窓枠を踏んでからは……一瞬にして、視界から消えた。
それを見た生徒たちが慌てて窓際にかけよると、荒野の姿は校庭の真ん中あたりに落下している最中だった。
高度は、荒野が踏み台にした窓から、二十メートルくらい、上、で……荒野は、その高さまで自分の脚力のみで到達した、ということになる。
校庭の真ん中に落下しながら、何故か、くるくると器用に体を回転させていた……。
「……索敵。
それに、敵攻撃への対処……」
他の生徒たちと一緒に、際にいた茅が、静かな声で解説をする。
「……自由落下時は、もっとも敵に狙われやすい、無防備な状態とされている。荒野は、それを逆手ととって、わざと隙を作ることで、敵の攻撃を誘発……同時に、上空という視界の開けた場所に身を置くことで、戦況を把握……」
校庭の真ん中、という開けた場所に落下しつつある荒野は、手足を振り回して、八方から同時に投擲された敵の武器を弾いたり受け止めたりしながら、校庭に散っている人数を確認する。
『……そんなにおれとやり合いたいというのなら……』
やってやろうじゃないか……と、荒野は思う。
どの道、もう後戻りはできないのだ。
幾つかの投擲武器を手や歯で受け止め、校庭の真ん中に降り立った荒野は、即座に、着地点から一番近い敵に向かって走りだす。
荒野の動きと、荒野の動きが周囲の大気に与える衝撃とが、激しく降りしきる雨を、跳ね上げる。疾走した軌跡が、水しぶきのカーテンとなって長い尾を引く。
躊躇せずに最短距離を選択し突進したので、荒野が、着地点から最短の距離にいた敵に接触、瞬時に撃破するのに、二秒と要しなかった。荒野の突進に対応する間もなく、その敵は、真上に、三十メートル以上、無造作に放り投げられる。
落下中に敵から奪った武器は所持していたが、荒野はあえてそれを使用しない。血を流せば、どうしても凄惨な印象を与える。今日は、実習室から成り行きを見守っている生徒たちがいた。ガクとノリに「正義の味方のように戦え」といった手前、荒野自身が「手段を選ばない」方法を選択する訳には、いかないのだった……。
先程の佐久間の言葉を信じるのなら、この場にいる敵の目的は、「荒野への挑戦」。
であるならば、それが、どれほど身の程知らずな挑戦であったのか、知らしめてやれば用件は事足りる。
反撃する間もなく真上にほうり出される……などという醜態をさらせば……いくら荒野という「別格」が相手であっても、技自慢の職人気質が多い一族の中では、後々まで悪し様に言われ、さぞかし肩身が狭くなることだろう……。
同じように荒野は、常に目標との最短距離を直線的に進んで、第二、第三の敵を撃破する。
荒野が通った後には、高々と上がった水しぶきのカーテンが残り、時たま、水しぶきのカーテンが通った後には、黒い人影が高々と打ち上げられた。
「……あれが……加納先輩なの?」
柏あんなが、いった。声が、震えている。
答えるものは、誰もいない。答えが、分かりきっていたからだ。水しぶきのカーテンをあげ、校庭を縦横に高速で移動する物体は……移動速度から見ても、とても人間とは思えなかったが……確かに、よくみると、ヒトの形をしていた。それも、自分達と同じ制服を着、特徴のある、白っぽい髪をしている。
第一、実習室にいた生徒たちは……荒野が、窓から校庭に飛び出すところから、目撃している。
見まちがいようが、ないのだ……。
その荒野の後を追うようにして、荒野と同じような水しぶきのカーテンを背負った移動体が、出現しはじめていた。
荒野の攻撃を隠れて待ってばかりもいられない、ということらしい。
それら、新たに出現した移動体は、長い棒状の物体を持っていて……その先には、荒野の頭髪と同じような色合いの金属片が、鈍い光を放っていた……。
鑓……それも、もっとも実践的、といわれる、十字鑓、だった。宝蔵院流が始祖、とされる。
「鑓と長刀。 鑓の穂先は両刃、長刀は片刃で薙ぎ倒す」、つまり、長い柄の先に、両刃の穂先が、十字型にしつらえてある。斬る、突く、薙ぐ……加えて、両刃、であるが故に、「引いて」も、横に伸びた刃が対手の背後を襲う。
リーチが長く、極めて殺傷能力が高い得物を持つ一団。
鑓持ちの一団は、荒野とそう変わらない年頃の連中で、今の荒野についてこれる、ということは……いずれ、野呂の血に連なるものだろう。
一族の中でも、野呂は荒事を好まない、とされているが……そうした風評は、あまりあてにはならない。実力を隠し、油断を誘うために、故意にそうした噂を流している……ということは、一族の中では、よくあることだ。
十字槍の少年たちは、二手に分かれ、左右から同時に荒野を攻撃してきた。三メートルほどの長柄の槍だったので、同士討ちになる恐れはない。タイミングも、まあ、うまくいっているほうだろう。
相手が荒野でなければ……十分に、左右から串刺しにできた筈だった……。
「あれが、荒野。加納、荒野。一族で、二番目くらいに強い、荒野。
何でもできる加納本家の血を、最も濃く受け継ぐ者。
その荒野が、茅のためにこの町にいる。この町で、茅に普通の生活をさせるために、懸命に、一般人の振りをしてくれているの……」
自分を串刺しにする筈の穂先を、荒野は、速度に急制動をかけることで、あやうくかわす。
反射神経には定評のある野呂の者たちが、荒野の動きを追えない。
荒野は、彼らが穂先を突き出してから速度を緩め、荒野の胸先、数センチの所を十字型の穂先が、かすめる。左右から突き出され、衝突し合い、交錯する。十字型の穂先が重なった上に、荒野の踵が、体重と速度を乗せて、降りる。
重なり合っていた穂先のほとんどが、澄んだ音をたてて、折れる。
突き出した穂先に、いきなり下方向の力を加えられた槍の一団は、揃って前のめりにつんのめった。
使い手の制動を失った槍の柄を、荒野が両手で掴む。一瞬、地面を強く踏んだかと思うと……。
荒野は、両手に束にして持った槍の柄を、いっぺんに、真上に向けた。
柄を手放すのが遅れた何人かの少年たちが、空中に放り出される。
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つづき]
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