2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(4)

第六章 「血と技」(4)

「あ。玉木か? 徳川なのだ。
 今、テンとガクがお客さんの襲来を感知してな、出撃準備をしている所なのだ。加納も許可も得たのだ。放送部のほうも、スタンバっておいた方がいいのだ。
 これは、見物になるぞ……」
 徳川篤朗は、携帯電話に向かってしゃべっている。
「……It's Shawtime! なのだ……」

 篤朗の背中では、テンが、出来上がったばかりのプロテクターを、ガクに着付けしている。
 風防グラス付きのヘルメット、脛当て、手甲……。
 ガクの体の曲線に合わせて抜き出した合金板と緩衝材を幾重にも集積して作った、ガク専用の装甲だ。出来上がったばかりで、塗装もしていない。ので、装甲の表面が、合金の色そのまま、つまり、メタリックな疑似鏡面状になっている。
「いいかい、ガク……ライフル弾の直撃くらいは止めるようには出来てるけど、できるだけ、当てないように……。
 装甲自体は無事でも、当たると、ガクが痛いから……」
 テンは、それらの防具をベルトでガクの体につけながら、くどくどと「使用上の注意」を繰り返して言い聞かせる。
 ともすれば、猪突猛進しがちなガクの「性格」をフォローするため、最優先に開発した防具だった。だからといって、この防具を過信してさらに無茶をされても、困る。
「……さ。これで、拳をぐっと握ってみて……」
 テンにいわれた通り、ガクが拳に力を込めると、手甲から、半球形のカバーがせり出して、ガクの拳を包む。
 ガクは、「おおー」と歓声をあげた。
「これを使えば……ガクが全力でぶん殴っても、拳を痛める心配はない……。
 だけど……これは、出来る限り使わないでね……」
 テンは、ガクに言い含める。
 ガクが全力で殴ったら……相手が生物の場合、殴られた箇所はミンチになる。
「それと……拳は守れても、腕から肩にかけての負担が、この装備でどれくらい緩衝できるのか、まだ実験データ、とれていないから……」
 全力を出さないこと……は、相手だけではなく、ガク自身を守るために必要なことでもある、と、テンは説明した。
 ……いずれ、ガクが全力を出しても大丈夫な装備を開発出来るのかも知れないが……それには、まだ時間が必要だった。
 テンの説明を、ガクは素直に頷いて聞いていた。ガクも、決して理解力がないわけではない。
 ただ……。
『今日の相手……あまり強くない人たちばかりだといいな……』
 テンは、そんなことを願っている。
 ガクも、冷静な時は、テンのいうこうを聞いてくれる。しかし、一旦頭に血が昇ると……。
『……疲れて動けなくなるまで、見境なく、暴れ続ける……』
 そのことを話した時、荒野は、「……二宮の中に、時たまそういう気質の者がいるよ……。おれたちは、バーサーカー・タイプって呼んでいるけど……」とコメントしてくれた。そう教えてくれたはいいものの……荒野も、その「バーサーカー・タイプ」が見境なく暴れるのを防ぐ、有効な手だては知らないようだった。
 後は……。
『ガクがムキになる前に、どうにか出来る人たちばかりであることを……』
 テンは、祈った。
 殺気を放っていたのは、数十名以上の多人数、だった。
 島を出てきてから間もない二人は、「多人数の他人の悪意に晒される」ということ自体、初めての経験であり……実は二人とも、ひそかに動揺している。
 荒野たちやこの間の秦野三人衆は、向き合った時に「脅威だ」とは感じたが、相手の方に悪意はなかった。
「……ねーねー。ノリの分の棍も、使っちゃっていいかな?」
 内心の動揺を隠して、ガクは、ことさらに快活な声を出してテンに確認した。
「いいよ。使えるものは、すべて使い潰すつもりでやっても……」
 テンは、ガクの言葉に頷く。
「……その代わり、殺しちゃ、駄目。必要以上に傷つけるのも、駄目……」
「……ボクらが怪我をするのも、駄目、でしょ?
 もういいよ、それ。何度も聞いた……」
 ガクが、口唇を尖らせる。
「それ、本当に、重要なことだから……。
 ボクたちが……危険な存在じゃあない、ってこと、証明し続けること……」
 テンが、念を押した。
 荒野たちは、今、別の敵と交戦中で、動けない。楓と孫子には、何故か電話もメールも繋がらない……。
 よって、ガクとテンは、二人きりで、自分たちの身と商店街の人々を守りながら……圧倒的多数の敵を、公衆の面前で、制圧しなければならない……。
 ……テンは、緊張で震える手で、自分の為に用意した装備を身につけはじめる。ヘルメットと、肘当てと、膝当て。ガクと比べると格段に軽装だが、テンは、ガクとは違い、敵と正面からぶつかり合うつもりはない。打撃力は、ガクだけでも十分なほどなのだ。だからテンは、ガクへの指示と、敵の牽制に徹するつもりだった。
『こうなると……ノリがいないのが、痛いな……』
 ノリは、三人の中で一番機動力がある。三人の中で一番攪乱役に適しているのは、ノリ、だった。
 負けるつもりはないが……不安要素には事欠かないのも確か、だ……。

「……なんだなんだ! なにが起こっているんだ!」
 徳川から連絡を受けて駆けつけた玉木が、ゴスロリ・ドレスにメタリックなヘルメットと防具をつけたガクとテンの姿をみつけて、
「うおぉっ!」
 と、のけぞった。
「……かっこいいー……メイドール3みたい……」
「本当? この恰好、かっこいい? メイドール3みたい?」
 いきなり勢いづいたガクが、玉木の方に身を乗り出す。
「……調子に乗らない!」
 テンが、そのガクの襟首を掴んで、引き戻した。
「だ、だって……かのうこうやも、メイドール3みたいにしろって……」
「そういう意味じゃない!」
 弱々しく抗議するガクを、テンがぴしゃりと押さえ込む。
 二人がそんなことをいいあっている間に、玉木は、徳川から事情を聞く。
「……荒野君所にも来ているのか……」
「才賀や松島には、連絡がつかないのだ……」
「同時多発……これは、前にいってた、敵さんの襲撃が予定より早かったと考えるべきか……。
 ……よっしゃあ! 放送部は、全面的に君たちをバックアップして……この戦いを、楽しいイベントに作りかえる!」
 玉木珠美はそう宣言して、「イベントは、起きるのではない! 起こすものだ!」とか、喚きはじめる。
「でも……その前に、っと……。
 失礼……」
 玉木は、徳川から見えない位置で、二人のスカートをチラリとめくって中を覗き込んだ。
「ちょっと、後、五分ほど、出撃を待ってて! すぐ戻ってくるから!」
 玉木珠美は、慌てて二人分のスパッツを買いに出かけた。

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのじゅうさん]
WEB ADLUT SAERCH ラグさ~ちすてーしょん X-area18 官能小説検索サイト アダルトサイト お勧めサーチ 読み物交差点 エロブログタイプ アダルト専門 アダルトサーチジャパン アダルト検索NaviNavi ALL-NAVI


Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ