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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(5)

第六章 「血と技」(5)

 荒野は、穂先を失った鑓の柄を束にして持ち直し、それで周囲を薙ぎ払った。一瞬早く、鑓から手を離すことで、荒野に空中にほうり出されずすんだ少年たちが、まとめて横方向に吹っ飛ばされて行く。

 鑓の少年たちを一掃した荒野は、校庭の真ん中に立って、あたりを見渡す。まだ戦意を喪失していない者がいれば、相手をするつもりだった。
「……久しいな、パイロン……」
 無造作に荒野に近づいてきた男がいる。
 ジーンズに米空軍のフライト・ジャケットを着込み、片手に鉄扇を携え、それでトントンと自分の肩を軽く叩いている。
「二年……いや、もう三年になるか……。
 いずれにせよ、そんな顔をするのはやめろ……ここは、平和すぎて退屈で死にそうになる国だ……」
 太い眉に、いかつい輪郭。年齢は二十前後か。
 荒野は、「その呼び名は好きじゃあない」と言い返そうとして、自分がくないを咥えたままであることに気づいた。
 先程、落下中に受け止めたものだった。
「はっはっ……なんだ、そんな物騒なもん、咥えていることに気づかなかったのか?
 文字通り、剣呑、ってやつだ……」
 荒野は、咥えていたくないを手でとり、それを無造作にベルトに差し込む。
「その呼び方は、勘弁して欲しいなぁ……舎人さん」
 荒野は、その男……舎人にいった。
 荒野が荒事にまみれて過ごしていた時代に、知り合った男だ。正直、あの頃の知り合いには、あまり再会したくない。このタイミングで、ということになれば、なおさらだ。
「そういうなよ、パイロン……。
 今のお前さんは、その呼び名がよく似合うぜ……」
 パイロン……中国系の者が、時折、荒野をそう呼んた。漢字では「白狼」と書く。荒野は、なんだか恥ずかしいセンスを感じるので、そう呼ばれるのが好きではない。
「で……舎人さん。
 そっちの方は、どう? もう、二宮の名乗りは許された?」
 舎人は、二宮の傍流の出で、以前、荒野と別れた時は、二宮姓を名乗れるように、と、一族の仕事を手伝っていた。
 舎人には、血が薄い割りには、二宮の特性がよくでていた、と記憶している。
「ああ……おかげさんでな……。
 こうして、お前さんの足止め、って仕事まで、任されるようになった……」
「……いいのかい?
 ここで口を滑らせて……」
 荒野が、尋ね返す。
 荒野を商店街にいるガクとテンに合流させないための仕掛けだとは予測していたが……二宮舎人は、あえてそのことを荒野に伝えている。
「いいってことよ……。
 二宮にしても、佐久間には貸しを返したい、でも、お前さんの恨みは買いたくない、ってことで……おれみたいな半端者にお鉢を回してきたんだ……。
 佐久間に対して、一応の仕事はしたって事実さえ残れば、結果には期待していないってことさ……。
 でなけりゃあ……」
 おれみたいな半端者には、お鉢は回ってこないさ……と、二宮舎人は続けた。
 その顔には、苦笑いとも自嘲ともとれる薄笑いが、はりついている。二宮舎人自身、自分が、荒野に対抗できるとは、考えていないのだろう……。
 舎人の側から見れば、二宮がこれまでに作った貸しのカタとして、かなり分の悪い仕事を押し付けられている……ということになる。
 そして、術者として「二宮」の姓を名乗りことに魅力を感じている舎人は……分が悪い、と知った上でも、この仕事を断る訳にはいかない……。

 同情……というのは、荒野の立場上、できないが、それでも、正常な自己評価一つできず、増長し、佐久間の扇動に乗ってむざむざと佐久間の駒と化し、荒野に向かってきた軽率な若造どもよりは、よっぽど共感ができる。
 また、かつて肩を並べて仕事をした者と、後になって敵対する……というのは、一族の間では別段、珍しいことでもない。
 こうやって、長々と荒野と話しているのも……時間稼ぎのうち、なのだろう……。
 荒野は簡潔に、
「……仕事なら……是非もない……」
 とだけ、答えた。
「荒野……。
 おれだって、お前さんに勝てるとは思っちゃいないけどよ……。
 それでもせいぜい、足止めはさせてもらうぜ……」
 そういって、二宮舎人は、もう一本の鉄扇をジャケットの中から取り出す。舎人の鉄扇は、通常のものより肉が厚く、広げれば九ミリ弾程度は平気で遮る。攻防の両面で性能を発揮する得物だった。
 反面、リーチが短く、重たい……という欠点はあるものの、二宮のパワーと速度をもつ者が振り回す限り、その欠点はかなりカバーできる。
「……いくぜ……」
 二宮舎人が、短くいう。同時に、荒野の懐まで一足に距離を詰めている。
 荒野の掌底が、二宮舎人の正中線に沿って何十と連発される。
 二宮舎人にとって、荒野の行動は織り込み済みだったようで、あらかじめ鉄扇を開いて荒野の掌底を受け止める。「だん!」とか「だがん!」という重い打撃音が連なり、「だららったたたたっ!」と聞こえた。
 衝撃を逃がすため、二宮舎人は五メートルほど一足で後ずさる。自分で後退しなければ、惨めに吹っ飛ばされていただろう。
「……相変わらずの、馬鹿力め……」
 二宮舎人が、額に冷や汗を浮かべながら、つぶやく。
 鉄扇を重ねて受け止めても、衝撃を逃しきれていない。手が痺れて、感覚がなくなっている。防御用の鉄扇が、本来の役割を果たしていない。
「茅のおにぎりを食べたばかりでね……。
 今は、割りと満腹なんだ……」
 荒野は軽口を叩いて答えたが、目は笑っていなかった。

「だが……悪いな、荒野……」
 二宮舎人は、そううそぶいて、荒野に突進する。
「おれも、囮なんだ……」
 二宮舎人の突進と同時に、八方から荒野の手足めがけて、鎖分銅が投げ付けられる。本来は、鎖についた分銅を相手の頭部に当て、昏倒させる。あるいは、鎖を武器にからめ、使用不能にするための得物だ。
 何人か、荒野の動きを牽制できる位置に潜伏し、時期を伺っていたらしい。二宮舎人の役割は、本人が「囮」といったとおり、荒野への包囲網が完成するまで、荒野の気を引くこと……だったのだろう。
 包囲網が完成し、荒野への同時攻撃が可能な位置への人員の配置が終わった今、二宮舎人は、両手の鉄扇を振りかざして、荒野に襲いかかった。

「だけど……悪いな、舎人さん……」
 荒野は、手足に鎖が絡み付くままに任せ、二宮舎人の鉄扇だけを避けた。
「おれも……今回は、かなり本気で怒っているんだ……」
 二宮舎人の鉄扇を避けた荒野は、そのまま身を低くすると、その姿勢から、いきなりダッシュをし始めた。
 あまりにも素早い動きだったため、二宮舎人は避ける間もなく、みぞおちで、荒野の頭突きを受け止め、悶絶する。くの字型に折り曲げた二宮舎人の体に腕を回してホールドし、手足に鎖を絡み付かせたまま……荒野は、以前となんら遜色が無い速度で、校庭を疾走しはじめる。
 一瞬、後ろの方で悲鳴みたいな声が聞こえたが……すぐに、遠ざかった。

 荒野は、出て行った窓から、実習室に入ってきた。
 手足に鎖をからみつけ、肩に、青い顔をしている大男……二宮舎人を乗せて、校庭から一足で「飛び」込んでくる。
 窓に張り付いた生徒たちは、言葉もなく何に食わぬ顔をしている荒野のを見つめる。
 ……唖然、というか、呆然、っていうか……。
「……腹減った……」
 帰還した荒野の第一声がそれだったので、固唾を呑んで荒野を見つめていた生徒たちは、いっせいにこけそうになった。

[つづき]
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Comments

今回もめっちゃ面白いッスよ

めっちゃ楽しいッスよ 次回が早く見たいッスよ あの~……… 申し訳ないっすけど 二宮なんていうんですか?(^^ゞ しゃじん?それともくろうど?

  • 2006/07/15(Sat) 13:13 
  • URL 
  • 倉敷 文人 #-
  • [edit]

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