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髪長姫は最後に笑う。第六章(6)

第五章 「血と技」(6)

「……なぁ、荒野……」
 すかさず、二宮舎人がつっこんだ。
「……ついさっき、おにぎり食ったばかりだから満腹だ、って……いってなかったか……」
 しかし、二宮舎人は相変わらず自分より一回り体が小さい荒野の肩に担がれたままだったので、そのツッコミのあまり様にはならない。
「流石に、あれだけ動くとねえ……。ああいうの、久々だったし……」
 二宮舎人を担いだまま、荒野は窓枠から、たん、と実習室に床に降り立つ。
 そして、二宮舎人を降ろそうとして、中腰のまま凍りついた。
「舎人さん……学校内、土足厳禁。
 降ろすから、靴、脱いで……」
 その場にいた中で、茅と荒野自身以外の全員が「……どこまで本気でいっているのだろうか……」と、思った。
 とりあえず、二宮舎人は憮然とした表情をして素直にスニーカーを脱ぎ、大きな背中を丸めるようにして、床に降りたつ。
「はい。結構……」
 荒野は実習室の後ろに縛って転がしている侵入者を指さした。
「……それから、舎人さん、あの連中の回収とか、校庭の証拠隠滅なんかの手配もお願い。
 それ頼むために、ここまで抱えてきたんだから……」
「……人使いが荒いなあ、お前……」
 といって頭をポリポリ掻きながら、二宮舎人は自分の携帯を取り出す。

 ずいぶんと長く感じたが、時計を確認してみると、荒野が窓から出て行って再び窓に飛び込んでくるまで、三、四分くらいしか経過していない。そのうち、二宮舎人とのやりとりに半分前後費やしていた。残りは、校庭中をかけずり回りながら、人を放り投げたり、槍の穂先を踏み砕いたりしていた、という計算になる。
 五分にも満たない外出で、荒野はずぶ濡れになっていた。茅から手渡されたハンカチで簡単に顔周りを拭いただけで、荒野は実習室のパソコンに向かう。
 制服の上着はたっぷりと水を含んでおり、荒野がキーボードを叩くと、その上にぽたぽたと水滴が落ちた。
「……おっと……」
 あわてて、荒野はキーボードの上から身を遠ざけるように軽くのけぞり、マウス操作に切り替える。
 運良く、荒野が取りついた末端は、ブラウザが立ち上がっていて、商店街のサイトを表示していた。
 荒野は、マウスを操作して「イベント情報」のページを表示し、そこからさらに、「ストリーミング」のページへと移動する。
「おお……やってるやってる……」
 荒野が呟く。
 いつの間にか、荒野の周りを取り囲むように、生徒たちが集まっている。
「……なんだこれ? ゴスロリ集団?」
「っていうか、ナイフとか斧とかもっているよ……。
 ゴスロリ集団っていうより……ゴスロリ軍団?」
「なんか、それと、この二人が戦っている……のか?
 って、この二人、子供じゃないか……」
「なにこれ、スプラッシュスター?」
「おい! みろよ! このゴスロリ軍団!
 よく見るとみんな同じ顔をしている!」
『……なんてこった……』
 荒野はこめかみを軽く揉んだ。
『佐久間……女の秦野、なんて……どうやって、ここまで引っ張り出してきたんだ……』
 秦野は、世界中にコロニーを作り、女子供はそこから一歩も外に出さない。『女の秦野』の目撃例は、荒野が知る限り皆無である。秦野は、自分たちのコロニーの中で、性別によって徹底的に仕事を分化する社会を独自に築いているらしいのだが……秦野のコロニー内に潜入した記録はほとんどのないので、実際の所はよく分からない。
 これは、秦野が佐久間並の秘密主義である……わけではなく、秦野が、密林
中とか砂漠の真ん中とか、とにかく人里離れた過酷な自然環境の地にコロニーを築くのを常とするので、そんな辺鄙な場所までわざわざ出向いていくほど無駄に好奇心が強い人間は、一族の中では少数派であるから、に過ぎない。

 二人と秦野ゴスロリ軍団……が、戦っているのは、どうやら、商店街アーケードの上、らしい。
 どうやって秦野ゴスロリ軍団をそこまで誘導したのかは知らないが……確かに、建物が密集している駅前付近で、二人と秦野ゴスロリ軍団が戦うことができ……しかも、被害を最小限に止められそうな場所は、そんな所しかないだろう……。
 銀色に輝く奇妙なプロテクターとヘルメット、モノトーンのフリルとリボンをたっぷりとあしらったテンとガクが、画面狭しと飛び回っている。
 秦野ゴスロリ軍団は、秦野の兄さん方と同じで綿密……というか、それ以上に息のあった、一糸も乱れぬ連携動作で、二人を追いつめかけては突破されている。
 一見して動きがいいテンとノリの方が優勢にみえるが、テンとノリに吹き飛ばされたり武器を取り上げられたりしている秦野ゴスロリ軍団も、すぐに新しい武器を構えて戦線に復帰している。
 だから、時間が経てば経つほど、疲弊しにくい秦野ゴスロリ軍団のほうが優勢になるだろう……。
 数と連携、それに、仲間が何人倒されようが表情一つ変えずに任務を全うする非情さ……が、秦野の武器だった。どうやって戦闘ルールを承諾させたのか知らないが、秦野ゴスロリ軍団が、銃器を使用していないことだけが救いだった。
 秦野の兄さんたちは……実戦の際、大抵、軽機関銃と十分な弾薬を携帯して戦闘を行う。
 周囲の被害もさることながら、それをやられていたら……二人は、あっという間に潰されていただろう。
 テンとガクが身に付けているプロテクターが、ある程度の防弾性能を持っていることを、荒野は知らない。

「……っと、だいたいの状況は、わかった……。
 茅は、ここに残ってて。こっちのほうが安全みたいだ。
 おれは、ちょっと向こうにいって様子を……」
「……先輩!」
 荒野の言葉を遮るように、柏あんなが叫んだ。
「いい加減、説明!」
 柏あんなが今にも荒野の鼻に噛みついてきそうな顔をしていたので、荒野は心持ち後ずさった。
「あ。いや。誤魔化すつもりは……。
 っていうか、今、ちょっと、急ぎの用事があるから……。
 そ、それにだな、一連の事情なら、茅や有働君もだいたいの所を知っているから、先にそっちに説明をしてもらって……」
『……こいつ……』
 荒野がしどろもどろになるのを、二宮舎人は興味深い表情で見ていた。
『こんな表情も、出来たのか……』
 こんな小娘相手にビビリが入っている今の荒野は、当然のことながら、パイロン、の呼び名は、まるで似つかわしくない。
 しかし、こっちの荒野のほうが、二宮舎人にも、好ましく思えた……。
『さっきの、剣呑、よりは……』
 年齢相応だ、と、思う。
「……その説明は、わたしにも是非聞かせて貰いたいものだな、加納君……」
 いきなり渋いおっさんの声が聞こえてきたので、荒野と自分のスニーカーを抱えた二宮舎人が、ぎくり、とした表情で、その声が聞こえてきたほうに振り返る。
「一体……先ほどの、校庭でのあれは……なんなのだね?」
 加納荒野の担任、大清水潔先生が、そこに立っていた。
「わたしは、たまたま宿直だったわけだが……公務員の直さんは、現実逃避して、いつも以上に熱心に競馬の予想をしはじめていたぞ……。
 それから、そちらの靴を抱えている方は、一体、どこの方かね……」
 間の悪いことに、その時、数人の人影が実習室に入ってくる。
 槍使いの少年たちの顔も混ざっていたから、二宮舎人の手配で、気を失って実習室内に転がっているヤツラを回収に来た連中だろう。
 さらに悪いことには……そいつらは全員、土足のままだった。

『……万事、休す』
 荒野は、冷や汗をかく。
 荒野が、今日で一番……スリルを感じた、瞬間だった。

[つづき]
目次

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Comments

驚き!

めっちゃ驚いた! まさかあの先生まで来るとは そういえば、 先生といえば二宮荒神はどこにいるのでしょうかね~ 次回も楽しみに待ってるッスよ

  • 2006/07/16(Sun) 19:17 
  • URL 
  • 倉敷 文人 #-
  • [edit]

荒神の出番。

今頃は、別の土地で別口の仕事やっていると思うけど……。
荒神が大暴れするエピソードは、一応予定はあるけど、かなり先。
あれの相手を務めても見劣りしないヤツ、というのもかなり貴重なんで、将来、そういうのとぶつかります。

  • 2006/07/16(Sun) 21:00 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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  • 2009/01/24(Sat) 23:24 
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