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彼女はくノ一! 第五話 (90)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(90)

 コート姿の才賀孫子がやってきたのは、ちょうど雨が本降りになり始めた頃で、才賀孫子は傘を差していた。まだ人通りの少ないアーケードの中に入って、傘を畳み、すぐに玉木珠美の姿をみつけて、真っ直ぐに歩いてくる。コートの裾からスカートのひらひらがはみ出ていて、帽子もきっちりがぶっている。メイクもばっちりと決めている。どうやら、盛装の上にコートを羽織って家を出てきたらしい。
 玉木珠美の周囲には、徳川篤朗や放送部員の有志もいて、才賀孫子が近づいてくるのに気づくと、徳川と玉木を除いた全員が小さくどよめいた。シュルエットだけをみればフォーマルなものに近い今日のファッションを、孫子がしっかりと着こなしていることは、コートを羽織っていてさえ、容易に予測できた。背筋をしゃんと伸ばし、堂々とした姿勢を崩さないのはいつものことだが、そういう恰好をしてメイクをしている孫子はかなり大人びて見えて、、学校での孫子とはまた違った魅力を放っていた。もともと孫子は、黙って立っていても自然にひと目を引きつけるような所があった。こうして盛装すると、孫子が本来持っているそうしたカリスマ性が、一層際だつような気がした。
 コートを羽織っていて、中の服がほとんど見えない状態であってさえ、ともすれば道化じみた印象を与えがちなゴシック・ロリータ・ファッションを、孫子なら、しっかりと、様になるように着こなしているのだろう……と、玉木は容易に想像できた。

 孫子に声をかけられた玉木は、今回のコンテスト関係者の控え室として使用している、近くの不動産屋の二階へと、孫子を案内する。そのビルのオーナーは、一階に店を開いている不動産屋なのだが、たまたまそのビルの二階が丸々位置フロア空いていたので、格安の使用料で提供して貰っている。
 エントリーを受け付けてからいくらも立っていないのに、コンテストの参加者は既に三十名を超えており、その中にはかなり遠くから泊まり込みで出場してくれる人もいる。商店街としても、そうした人々に対しては、極力便宜を払う体勢を取っていた。希望者には近場の宿を割安で利用できるように手配しているし、出場者の休憩所も、出来るだけゆったりとくつろげるスペースを確保するようにしている。もう少しエントリーしてくる人数が増えたら、別の休憩所も確保する予定だった。もちろん、そした手配には、コンテストの出場者から徴収する参加費以上の予算を必要とするわけだが、そのあたりは必要不可欠な経費として、商店街側もかなり余裕をみて予算を組んでいる。
 彼女たちは、商店街側からは、これといって人を集める施設を周辺に持たない商店街に客足を呼ぶ、大事な観光資源として位置づけられており、従って、かなり丁重に扱われるし、できるだけ快適に過ごして貰うよう、配慮していて、休憩所には珈琲と紅茶が入ったポットや、マンドゴドラから提供されたケーキなどが用意されており、セルフサービスで自由に飲食することができるようになっていた。

 商店街のシャッターが開きはじはじめると同調するようにして、駅から人が吐き出されはじめる。普段、この駅を使用しないような人たちが続々と降りてくる。朝から降り始めた雨が徐々に激しくなってきたが、それでも電車が到着する都度に駅から出てくる人の数が衰えることはなかった。
 そのうち、年末のイベントと同じように、駅前広場に急遽しつらえられたセコいステージで、羽生譲の司会のもと、名誉実行委員長、ということになっている孫子により、開会が宣言され、商店街主催の「ゴシック・ロリータ・ファッションコンテスト」が正式に開始される。昨年末と違うのは、天気予報で「大雨の恐れがあり」とあったので、ステージ周りの雨よけをかなり大きめに張ったことくらいだった。と、いっても、鉄パイプの骨組みに業務用の青いビニールシートを張っただけの簡単なものだったが。
 羽生譲の司会は昨年末のイベントでの実績が買われての登用で、ちゃんとギャラも支払われる。舞台度胸があり、機転が効く羽生譲は、こういう役は打てつけうってつけだった。
 オープニングセレモニーが終わり、ステージから降りた孫子は、早々に帰り支度をはじめた。
 その後、ステージは、コンテストにエントリーした中から、希望者に、自己アピールをする場として使用される。その様子は、オープニング・セレモニーに引き続き、ネットでもストリーミングで配信されていた。専属のカメラマンを手配する人手もないので、幾つかの固定カメラからの送られてくる映像をそのまま配信しているだけだったが、その割には、時間がたつにつれ、ステージ中継ストリーミングのアクセス数は増え続けた。
 その「出場者の自己アピール」が、予想以上にバラエティに富んだものになったからだ。

 コンテストの対象はあくまで「ファッション」であるが、出場者の中にはプロの、あるいはプロの卵の、モデルや芸能人がプロモーション活動の一環として参加してきている例も少なからずあり、そうした人々に一定の時間ステージを開放して何事かやらせる、というのは、そうした出場者にとってもメリットになり、商店街にとってもいい賑やかしになった。
 そうしたプロやセミプロは、コンテストの結果は二の次で、自分の本業のアピールをしていった。
 それ以外の出場者は、たいがいはマイクを片手ににこやかに挨拶や当たり障りのないことを述べるだけだったが、中には少数ながら、持ち込んだ楽器を演奏する者、楽器をかき鳴らしながら歌を歌う者、踊る者、マジックショーをはじめる者、出場者二人組でステージにたって漫才をはじめる、とか、芸を披露する者がぼちぼちと出はじめて、その度にステージ・ストリーミングへのアクセス数が増加し、当然のことながら、会場周囲も盛り上がった。なにしろ、そうした芸達者も全員ゴスロリ、である。ゴスロリがサキソフォンを吹き鳴らしたり、フォークソングの引き語りをしたり、レゲエを踊りはじめたり、カードマジックをしたり、ぼけたり突っ込んだりしているわけで、なにをやらせてもミスマッチに見え、しかし、そのうちに目が慣れて、芸そのものとか、容姿とか着こなしとかの方に目がいくようになる。いや、最後のはファッション・コンテストとしては順当なのか。
 そんなことをしている間にコンテスト出場者やその取り巻き以外のゴスロリ娘たちの姿もかなり増えてきて、雨にもかかわらず、商店街の周囲はかなり賑やかなことになった。
 羽生譲は、途中から貸衣装屋さん提供のお仕着せを着てやってきたテンとガクと交代で司会をこなすようになる。
 司会、とはいっても、ステージ上の出場者が交代する合間に簡単な紹介をするだけ、だから、休憩時間のほうがよっぽど長いのだが、拘束される時間も長いので、テンとガクという交代要員を確保できたのは、羽生譲にとってもありがたかった。テンは完璧な記憶力を持っているし、テンもガクも、大勢の前に出ても物怖じしない性格なので、大きな問題が起こることなく、予定されていたプログラムは、着実に消化されていった。

 羽生譲に司会を返し、休憩に入ったテンとガクが商店街に出て行った時……。 二人は、多数の人間から浴びせられる敵意に満ちた視線をほぼ同時に感じとり、自分たちの詰め所も兼ねている、電気屋さんの事務所に飛び込んでいった。
 ガクは、敵意の主たちと交戦するつもりで、その準備をするつもりだった。
 テンは、自分たちの置かれた状況の微妙さを理解していたので、とりあえず荒野たちに連絡を取って、指示を仰ぐつもりだった。

 結局、二人は、連絡がついた茅に「正義の味方のように戦えるのなら、正々堂々、せいぜい派手にやれ」という指示を受け、たまたま徳川篤朗が持ち込んでいた、開発中の装備試作品を身につけることになる。
 それが、その装備の実地試験にもなり、同時に、結果として、二人の初めての実戦……初陣、にもなった。

[つづき]
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