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第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(91)
玉木が二人にスパッツを買い与えてそれを履かせ、近くにいる放送部員を招集して、中継の準備をする。「絶対に後悔させないから」と玉木に強くいわれたこともあり、放送部員たちは不審な顔をしながらも、慌ただしく準備をはじめる。幸い、午前中から降りはじめた雨が強くなってきたので、駅前特設ステージでの催物は、今日は中止になったので、そちらで使用するはずだったカメラなどの機材を流用することができた。
ばたばたと俄に騒がしくなる中、玉木は、「二人みたいなのが本気でこの人ゴミの中で暴れ出したら、大惨事になる……」ということに、ようやく思い当たる。
玉木の不安を聞いたガクは、ことなげに答えた。
「敵の目的は、ボクたちだもん!
ボクたちと戦うために、ここまで来たんだもん!
ボクたちと戦いたかったら、ここまでおいでっていえばいいんだよ!
でないと、ボクたち、絶対に戦いません! って……」
ガクのその発言を聞いた玉木は、
「……出来れば……一緒に、周りの建物やなんかも、壊さないように、頼んでも貰える……」
という要求を、つけ加えた。
その時の玉木は、泣きそうな顔をしていた。
「……ねーねー、おねーさん……」
そんなわけでガクは、中継の準備ができたのを見計らって、商店街の雑踏に戻った。そして、殺気を隠そうともしない女性に声をかける。
「……おねーさん、ボクたちと戦いに来たんでしょ?
そのことについて、幾つかこちらから、条件を出させて貰いたいんだけど……」
ガクの隣には、テンも立っていた。
交渉をすること、については、テンは特に反対する理由を思いつかなかったが、ガクほどには楽天的な見通しも持っているわけでもない。
そして、交渉が決裂した時、ガク一人では荷が勝ちすぎる……と、思っていた。だから、ガクに好きにしゃべらせながらも、テンはすぐ隣に立って、様子を伺っている。
「あら。可愛いお嬢さん。
……戦い?
お嬢さん、どうしてそんなことを……」
銀ピカヘルメットをつけたままのガクに呼び止められ、唐突にそんなことをいわれても、その女性は特に不審な顔をすることもなく、にこやかに答えた。
「とぼけたって、分かるよ。
その汗の匂い、狩りをする前の、血が滾っている時の匂いだし……」
ガクは、恬然と答える。
「……それに、おねーさん、この間の秦野のおにーさんたちと、似たような匂いがする……」
「……そう。
わたし、そんな匂いがするの……」
その女性は、ころころと笑った。
「……確かに、わたしは秦野といいますけど……。
そう……わたし、狩りの前の、血が滾っている時の汗を、かいてますか……」
「うん。
獲物を見定めた時の、肉食獣がよくそんな匂いさせている。
そのへんの匂い、ほ乳類は、だいたい共通しているから……ボクには、その手のことで、嘘は効かないんだ……」
ガクがそういって頷くと、その女性は本当に面白うそうな顔をして、笑った。
「面白いお嬢さんね……。
それで、その、幾つかの条件、ってなんなの?」
「幾つかって、いうか……たった一つの、絶対に外しちゃいけない約束事があって、それを実現するためには、どうしても幾つかの細かい条件が派生してしまう、っていうわけなんだけど……」
ガクが説明しはじめると、その女性は頷いて先を即した。
「その、たった一つの、絶対に外しちゃいけない約束事っていうのはね、無関係の人を巻き込まないこと。
人や建物を、無闇に傷つけちゃいけないってことなんだ……。
ボクたち、ここの人たち好きだし……」
そういってガクは、両手で商店街を行き交う人たちをぐるりと差ししめす。
隣にいるテンも、ガクの言葉に頷く。
「……だから、誰にも迷惑にならないようにやる分なら……おねーさんたちの、相手をしてもいいよ。
その代わり、場所は、この上ね……。
この上なら、比較的広いし、他に人はいないし……」
「……なかなか、興味深い提案ね……」
その女性は、先ほどから、ガクとテンの表情を観察している。
「それで……その提案を呑むことで、わたしたちにどんな得があるのかしら……」
「正直、おねーさんたちには、メリットがないと話しなんだけ……」
その質問を予測していたガクは、あっさりと頷いた。
「でも、ボクたち以外の、無関係の人には迷惑をかけない、っていうこと……それに、やるんなら、今すぐ、この上ではじめるって……この二つの条件を呑んでくれない限り……ボクたちは、戦わない。
絶対に、戦わない。死んでも、戦わない……」
「それ、本当だよ、おねーさん……」
それまで交渉をガクに任せていたテンが、そこではじめて口を開いた。
「ガクが出した条件を呑んでくるつもりがないのなら……おねーさんたちが何をしてきても、無抵抗でされるがままになっている。
あ。あるいは、ボクがガクを殺して、ガクがボクを殺しちゃうのもいいな。
そんなの、簡単だもん。
こうやって……」
ぶん、と、いつの間にか手にしていた六節棍を、テンはガクの頭に向けて、正面から振るう。
そして、ガクの頭に衝突する寸前、六節棍からガクのヘルメットまで一ミリ以下、という距離で、ピタリと止める。
「ガクと一緒に、いっせいのせ、で、頭を潰し合えばいい。
その程度のこと、ボクらなら簡単だよ……」
テンが顔色も変えずにそういうと、身じろぎもせず、テンの六節棍が間近に迫るのをみていたガクも頷いた。
「……本当、面白いお嬢さんたちね……」
その女性は、屈託のない笑顔をみせた。
「見ず知らずの他人のために、我が身を犠牲にする。しかも、そのことにまるで疑念を挟まない……
それ、一族の考え方ではないわ……」
「ボクたちは、確かに一族から出た者だけど、一族ではないよ……」
テンが答える。
「じっちゃんにいわれたんだ……。
一族の思惑なんか、軽く越えてみせろ、って……。
ボクたちは、一族を越えるんだ……」
ガクも、テンの言葉にそうつけ加え、真面目な顔をして頷いた。
「本当……面白いお嬢さんたちだわ……。
佐久間の甘言にあえて乗って、ここまでやって来た甲斐があった……」
その女性……秦野、は……。
「……いいわ。
そちらの条件、全て呑みましょう。
お嬢さんたちのような面白い子たち、みすみす失うのは、大きな損失ですもね……」
二人の提案を、あっさりと受け入れた。
[
つづき]
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