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第六章 「血と技」(8)
大清水先生が突然出現したことで、荒野はその場に棒立ちになった。
だが、よくよく考えてみれば、いくら週末で学校が休みであるとはいえ、こうして実習室が開放されているのだから、たとえ最低限の人数であっても、職員も登校しているのだろう。でなければ、生徒の立ち入りも禁止されている道理であり……しかるに、そのことに荒野は、たった今まで思い当たらなかった。
「……あ……あ……あ……」
と荒野は、つい先ほどまで校庭で勇姿を見せていたのと同一人物であるとは思えない無様な吐息をついた後、
「……先生! すいません!」
深々と、大清水に向かって頭を下げる。
「……加納君。
君は、なにか、謝らねばならないようなことをしたのかね……。
わたしには、校内に侵入した、凶器を持った不審者を撃退してくれたようにしかみえなかったが……」
荒野に頭を下げられたほうの大清水教諭は、つまらなそうな顔をして、たった今実習室に土足で入ってきた連中に冷たい視線を向ける。
大清水教諭に睨まれた連中は、身をすくめて硬直し、ぎこちなく頭を下げたりしていた。
「もちろん、無条件に暴力を肯定するものでもないし、しかも、刃物まで持ち出すのはどうかと思うが……ケンカぐらい、若い頃は誰でもやるものだし……。
君はむしろ、彼らから凶器を取り上げて、不祥事を防ごうとしてくれたのでは、なかったのかね……」
そういって大清水教諭は、荒野の腰のあたりを指さした。
「君は、その、取り上げた刃物を、使おうとはしなかったではないか……」
大清水教諭が指さしたあたりには、荒野が腰に差したままのくないがあった。
どうやら、一部始終をしっかりと目撃されたらしい……と、荒野は判断する。これは……もはや、誤魔化しの効く段階ではない……。
「そのことは、必要なら、また後で説明します……」
荒野は、顔を上げずに続ける。
「でも、今は……この場を、去らせてください!
おれ、ちょっと、今すぐ行かなければならない所があるんで……」
「もちろん、説明はしてもらうつもりだが……。
加納君。
あれも、君の関係者かね……」
大清水教諭は、パソコンに液晶画面に映っている、ストリーミング画面を指さす。
「君は、あれを止めに行くつもりかね……」
「止めたいのは、山々ですけど……」
荒野は、頭を下げたままため息をついた。
「おれが止めて、止まるやつらじゃあ、ありません。
ですから、あそこにいって……せめて、周りに被害が出ないように、見張ってこようと思っています……」
「……そうか……」
大清水教諭は、荒野の言葉にあっさりと頷く。
「では、行きたまえ。
あの様子では……警察などには、取り押さえられないだろうし……君になら、なんとかできるかもしれない。
その代わり、週明けにでも、じっくりと話しを聞かせてもらうぞ……」
「……先生……」
荒野は、頭を上げられなくなった。
「おれ……。
週明けに、また……学校に来ても、いいんですか?」
「……加納君……学校とはな……学科も大事だが、それ以上に、集団生活や社会生活を学ぶ所だ……」
大清水教諭は、その場にいる全員に言い聞かせるように、淡々と話す。
「君ら生徒にとっては、細かな、くだらない校則がたくさんある、窮屈な場所だろう。
だがな、社会にでれば、それ以上に細かな、くだらない規則が、明文化された物も、されていない物も含めて、びっしりと網のように張り巡らされている。学校とは、そうした、個人を抑圧しようとする社会という装置の、雛形でありシミュレーションの場だ。
だから教師も、よい教師であろうとすればするほど、生徒に対して抑圧的な存在になる。
加納君。
君は、見たところ、かなり特殊な生徒のようだが……それでも、この社会とか学校とかに張り巡らされた、無形、無数の規則に従い、そこから逸脱しないように努めている。それに合わせようと、自分を変えようと、している……。
そうでは、ないのかね?
そうした努力をしている限り……君が学ぼうと努力している限り、君は生徒であり……わたしは教師だ。
今後もせいぜい、抑圧的な教師であり続けるつもりだよ、わたしは……」
「……行きます……。
行かせて、貰います……」
それだけいうと、荒野は実習室から廊下へと、音もなく駆けだしていく。
「さて……加納君に関しては、火急の用事があるから後で話しを聞くつもりだが……その他の者に関しては、知っていることをしゃべって貰うぞ……。
加納茅君と、それに、有働君は、何か知っているといっていたな……。
それに、靴を抱えた、そこの君にもだ。
後、土足でここまで来た人たちは、ちゃんと自分たちの足跡を掃除するように。モップとか掃除道具は、そこのロッカーに入っている……」
走っていく荒野は、背中で、漏れ聞こえてくる大清水教諭の声を聞く。
荒野は下駄箱で靴を履き替え、学校を飛び出す。
外は相変わらず土砂降りだったが、傘はささない。どのみち、全身ずぶ濡れの状態だったし、どのみち、全力で商店街に向かうとなると、傘は邪魔になるばかりで役には立たない。
荒野は、一足で近くの民家の屋根に飛び乗り、そのまま商店街の方向に一直線に走りながら、携帯を取り出し、少し考えてから、結局、玉木に電話をいれた。
あの様子がストリーミング中継されていた、ということは、必要な手配をした者があの場にいた、ということであり、そして有働は自習室にいた、となると、玉木が商店街の近辺にいる可能性は、かなり高かった。
『カッコいいこーや君?
今まで、なにしてたの!』
コール音が一回、鳴り終わる前に電話に出るなり、玉木は叫んだ。
「すまん。こっちにも来客があってね……。
敵さん、戦力の分断まで視野にいれて、かなり周到な用意していたらしい……」
『だ……大丈夫、だった?』
「なんとか……片付いたっていうか……」
荒野は、大清水教諭の対応について、玉木にどう説明するべきか迷ったあげく……。
「玉木……。
おれ、本気でこの町から、離れたくなくなってきた……」
ようやく、それだけをいうことができた。
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つづき]
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