第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(92)
放送部員たちが周囲のビルに分散して、アーケードの上を睨むようにカメラを配置し終わるのとほ同時に、テンとガクが姿を現した。ゴスロリドレの上に銀ピカのヘルメットとプロテクター姿の二人は、遠目からでも見間違えようがない。
「……あー。現在カメラテスト中。
今、二人が上に出て来ました。そちらから、見えますか?」
『見えるのだ』
「なんだ、徳川かよ。玉木はどうした?」
『イベント実行委員会の方に、根回しにいったのだ……。
この椿事をいったいどう説明するのか非常に興味深い所ではあるが、ぼくは居残りでシステムの調整なのだ……』
「……そーかそーか……。
で、あの二人のコスプレが、そんなに椿事なのか? ……って……。
をいっ! あれ!」
放送部員たちが見守る中、商店街アーケード上のがらんとした空間に、次々と黒衣のスカート姿が出現する。それも、一人二人、というわけではなく、次から次へとテンとガクの対面に現れて、黒い人だかりを作った。
『……ちゃんと、カメラにも映っているから、夢ではないのだ。
どうだ、見て損はしなかったであろう?』
電話越しにそういう徳川の口調は、何故か嬉しげに響いた。
『……It's Show Time!
なのだ……』
「……確かに……椿事だな……これは……」
『……放映の許可、取ってきたよ!』
「おい! 玉木かよ!
お前、どっから……」
『そのほうが連絡に都合がよかろうと、いくつかの回線を繋いで同時通話が可能なようにしてみたのだ……』
なんでもないことのように、徳川の声が答える。
『……ねーねー。
ボクたちの声も、ちゃんと聞こえてる?』
銀ヘルメットの人影が、カメラの中で手を振っている。
『おお。ちゃんと聞こえているぞ、テン……。
通信関係は万全なのだ』
『……向こうは、万全以上だよ……。
あれだけの人数全てが、一心同体なんだから……』
『それは……どういう意味なのだ?』
『これから実際にみてみれば、嫌でも分かるって。
レギオンっていうより、テュポーンかヘカトンヘイレスって感じ……』
『……なんだかよく分からないが……ともかく、放映の準備は整ったのだ。いつ開始してもよいぞ……』
『うん。ちょっと待ってね……』
「……はたののおねーちゃんたちー……。
そっちはもう準備はいいー!」
銀ピカヘルメットのうち、小さなプロテクターをつけている方が、そう声を張り上げて手を黒衣の女たちに手を振った。
「もう、はじめるの?
いいわ。今、準備しまぁす!」
遠目には黒衣、に見えたものは、カメラを望遠モードにして細部が見てとれるようになると、ゴシック・ロリータ・ファッションのドレスであることが判明する。そのゴスロリドレスの裾がいっせいにひるがえり、形の良い太ももが露になる。その太ももには、ナイフとか角材とか斧とかがくくりつけられていた。黒衣の女たちは、スカートを翻した時と同じように、同じ動作を同一のタイミングで、自分達の太ももにくくりつけた武器を手に取った。
まるでシンクロナイズドスイミングを見ているようだった。
「……ごめんなさいねー……ちゃんとした武器、用意できなくて……。
今回はお忍びだから、一般人と同じく関税があるルートで来たもんで、こんなもんしか用意できなかったの……」
なんか、呑気な口調でとんでもないことを口走っているような気がする。
あれで、「ちゃんとした武器」でないというのなら……「ちゃんとした武器」なら、一体どういうことになるのだろう?
第一、あれだけの人数がいて、「お忍び」って……。
わらわらとアーケードの上に集まって来たゴスロリドレスの集団、銀ピカヘルメットのテンがいう「はたののおねーさん」とやらの人数は、今ではざっと見て三十人以上になっている。
しかも、全員が全員、同じ顔、に、見えた。
絶世の美女、というわけではないが、誰にでも好感を持たれそうな、まるでクローン人間か何かのように全く同じ顔が、揃ってにこやかな表情を浮かべている。
「……なんなんだ、これは……」
ある放送部員が、呻いた。
『だから、損はさせないっていったでしょ?』
電話越しに、玉木の声が聞こえた。
『商店街側の許可は、今、取ってきたから……しっかり、カメラを廻してよね……』
『……準備が、整った……。
行くよ! ガク!
さっきもいったけど、この間みたいに、不用意に近づかないように……』
『……分かっているよ……。
いっくぞぉー!』
銀ピカヘルメットのうちの一人が、黒衣の女たちに突進する。
同時に、「ぴんぽんぽんぽーん」という間の抜けたチャイムが鳴り響いた。
『……あー、テステス。
雨の中、商店街にご来場いただきありがとうございます。
天候不順のため、当初、駅前特設ステージで進行しておりました、第一回ゴシック・ロリータ・ファッションコンテスト関係のイベントを一時中断させていただいております。なお、商店街のサイトにおきまして、コンテスト参加者様のPR映像などは、引き続きご覧になれます。
現在、中断中のコンテストに代わり、商店街アーケード上に置きまして、特別アトラクション、シルバーガールズ、バーサス、シャドウレイディを開催中です。現在、その模様を、ネット上、並びに商店街内に設置してあるディスプレイ内でリアルタイム配信しております……』
玉木の声で、放送がはじまった。
真っ先に敵に突っ込んで行くのは、いつだってガクの役目だ。
『……だけど、今度は遠くから……』
少々慎重さに欠ける所があるが、ガクも学習能力がないわけではない。
以前、三人組の秦野と模擬戦をやった時の経験から、学んでいることもある。
ガクは、棒状にした自分の六節棍を振りかざしながら、片手でノリの試作品の六節棍を取り出し、関節を繋げないまま、黒衣の女の一人に向かって、振る。
最初に振りかざしていた六節棍に気を取られ、身を逸らして回避しようとしていた一人の秦野の手元に、予期せぬ方向から向かってきたノリの六節棍が絡みつく。
六節棍の関節部は、ワイヤーで接続されている。そのワイヤーの部分が、その秦野の手首に巻きついていた。
「……いやぁあっー!」
気合とともに、ガクが、その秦野の体を、ぶんっ!、と、大きく力任せに振り回す。
棍の部分を連結していない状態では、かなりリーチが長くなる。ましてや、ノリの試作品の六節棍は、棒状に連結した状態でさえ、二メートルを優に越える。関節部のワイヤーを完全に延ばした状態なら、その五割増し、といった所だろうか。
それだけの長物に手首を捕らわれ、ガクによって振り回されたその秦野は、完全に体を宙に浮かせ、弧を描いて、密集した仲間たちの体をなぎ払って行く。
「……なんだよ、これ……」
呆然と、カメラを構えていた、ある放送部員が呟いた。
おそらく、この映像を見ている全ての人が、そう思っていた事だろう。
銀ヘルメットの子供……は、どうみても、彼らの常識の範疇に収まる存在ではない……ことは、確かなようだった。
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つづき]
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