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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(9)

第六章 「血と技」(9)

「……すまん、玉木。
 一度、切る。敵は……」
 そういいながら、荒野は腰に指したままのくないを無造作に投じた。そして、投げたくないの後を追うように、進路を変えた。
「……おれの足止めを、まだ、諦めていないようだ……」
 荒野は、疾走しながら、玉木の返事を待たずに通話を切り、携帯をポケットに収める。
 薄笑いを浮かべた佐久間現象の顔が、見る間に大きくなった。
「……よくも……」
 荒野が投じたくないを避けた佐久間現象に迫りながら、荒野は、常時持ち歩いているパチンコ玉を指弾で弾いた。
「……おれの前に……」
 佐久間を相手にする時は、常時攻撃をしかけ、相手に精神を集中する余裕を与えては、いけない……。
 佐久間現象は、荒野の指弾も全て避けた。しかし、その隙に、荒野は佐久間現象の間近に迫っている。
 佐久間現象の、瞳孔がやけに小さい三白眼が、すぐ近くに見えた。
「……顔を出せたなぁ! 佐久間ぁ!」
 荒野は、身に染みついた挙動で、掌底と蹴りとを、何十発と浴びせかける。
 佐久間現象は、荒野の攻撃の半分以上を回避し、四割以上を自分の手足でブロック、直接、体幹部や頭部にまで届いた荒野の攻撃は、全体の一割以下に過ぎなかった。
 それでも、ごく短時間に荒野の攻撃を受け止めた佐久間現象の体は、十メートル以上も吹っ飛んで行く。クリティカルヒットは少なかったから、たいしたダメージは与えられなかったはずだが、荒野の攻撃を全ての勢いを殺すこともできなかった。
 荒野は、吹っ飛んだ佐久間現象を、追う。
 その鼻先に迫ってきたくないを、荒野は片手の指で受け止める。
 吹き飛ばされながら、佐久間現象は、次々と荒野に向かって投擲武器を投じた。
 荒野は、受け止めたくないを持ち直し、それで投擲武器を弾きながら、さらに佐久間現象に迫る。
 荒野に追い詰められながらも、佐久間現象の表情に焦りの色は見えない。
『……まだ……伏兵が、いるのか?』
 ふと、荒野の脳裏に疑念がよぎった時……。
「……はっ、ははっ……」
 佐久間現象が、乾いた笑い声を上げた。
「……楽しいじゃないか! 加納荒野!
 まさか、あの仕掛けが、あんなに短時間で突破されるとは思わなかったよ! 君達は、強敵だ! それでこそ、ぼくの天敵だよ!」
 佐久間現象は、地に足をつけて立ちすくむ。
 特に構えを取っていない、自然体……。
 だが、その姿は、荒野の警戒心を呼び覚ました。
『……こいつ……』
 そうして、荒野を待ち構える佐久間現象から……それまでには感じることがなかった、ピリピリとした、術者気配を感じた。
 それも……。
『おれと互角か……それとも、おれ以上……』
 幼少時はともかく、現在の荒野が「自分以上」と認める術者は、わずかに二人しかいない。
 二宮荒神と、加納涼治。
 もともと有り余る素養を持ち、なおかつ、かなり早い時期から「最強」の手ほどきをうけた荒野は、単体で脅威を感じるほどの術者には、あまりお目にかかった経験がない。
 ましてや、佐久間現象は、荒野と同年配だ……。
「……君にもわかるかい? 感じるかい?
 加納荒野……」
 佐久間現象は、たちすくんだまま、笑っている。
「……わかるだろう?
 加納である君と、佐久間であるぼくとは、対局の存在……。
 天敵同士なんだよ……。
 そして……」
 佐久間現象が、動いた。
「……ぼくは、怒っているだよぉ! 加納荒野ぁ!」
 それまで、荒野を嘲笑するように薄笑いを浮かべていた佐久間現象が、初めて怒気を露にする。
 佐久間現象の動きは荒野にも追い切れないほどに素早く、今度は、佐久間現象の攻撃全てを受け流し切れなかった荒野のほうが、吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされた荒野が身構えるよりも早く、佐久間現象が荒野に追いすがる。
 荒野は手持ちのパチンコ玉全てを佐久間現象に向かって投げつけるが、佐久間現象は的確にパチンコ玉を弾いて荒野に肉薄した。
「……なんで、あの状況で……」
 佐久間現象は瞬時に間合いを詰め、荒野と顔がくっつかないばかりに迫っていた。
 荒野も足場を固めて、急遽、身構える。
「……あんなに信頼されているんだよぉ! お前はぁ!
 孤立する筈だろう! 普通!」
 打ち合いに、なった。
『……忍の、戦い方じゃあねぇなぁ……』
 荒野の、頭の隅のどこか醒めた部分が、そんなことを思っている。
 荒野が感情的になっているように、佐久間現象も感情的になっていた。
 二人とも、体が覚えている体技を、感情のままに繰り出している状態だ。
 冷静に、効果を計算して使っているわけではない。
 勢いだけは凄いが……これは、術者同士の戦いではない。
『要するに……ガキの喧嘩だ……』
 荒野は、今の自分たちの姿をそう評価し、ふ、と頬を緩める。
「なにがおかしい! 加納荒野ぁ!」
 その荒野の表情を余裕の現れととったのか、激昂した佐久間現象の動きがさらに激しくなる。
 荒野のガードをかいくぐって、何発かの掌底が、立て続けに荒野の水月にはいった。
 荒野は息を詰めながら、反射的に腕をひらめかせる。
 今度は、荒野の掌底が佐久間現象の側頭部を掠めた。
 荒野と密着し過ぎた、と思ったのか、佐久間現象は心持ち、上体を逸らせた。
 その顎に向けて、荒野のつま先が跳ね上がる。
 直撃はしなかったものの、風圧を受けた佐久間現象は、その場に尻餅をついた。
「……今の自分の姿が、おかしくなったんだよ……
 佐久間現象!」
 その場にへたり込んだ佐久間現象に追い打ちをかけることなく、荒野は叫んだ。
「おれの知り合いに……機会がある度に、際限の無いどつきあいしてくれる二人組がいてなぁ!」
 一度尻餅をついた佐久間現象は、追い打ちをかけてこない荒野に怪訝な顔を向けながらも、慌てて起き上がり、身構える。
 佐久間現象の態勢が整ったことを認めた荒野は、即座に攻撃を再開した。
「……あいつら、なんであんなこと繰り返すんだろう、って、いつも不思議に思っていた!
 でも……楽しいよなぁ!
 ……全力を出しても、それでも壊れない相手がいるってことはぁ!」
「……た、楽しいわけねぇーだろぉ! 加納荒野ぁ!」
 佐久間現象と加納荒野、両者の攻撃は、計算されて組み立てられたものではないといえ、次第に激しさを増している。
「なんで……あれで、孤立しないだよ、お前!」
 佐久間現象の声は、震えていた。
 怒りで、ではない。
「……なんだ。
 お前も、周りの人に気味悪がられた口か?」
 荒野は、楽しそうに、笑った。
「甘えるな、佐久間現象ぉ!
 そんなもん、おれたち、一族の者なら、誰でも経験しているんだよぉ!
 今回のおれはな、たまたま運が良かっただけだ! たまたま、周りに、恵まれていただけだよ! こんな幸運、百回に一回もない!
 単なる確率の問題を、うらやましがって僻んでいるじゃねぇ!」
 荒野の攻撃が、以前より頻繁に佐久間現象に当たるようになっている。

[つづき]
目次

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Comments

マジ楽しいッスよ!

まさかまさかの展開が特に、佐久間の人って感情的になったりとか、とにかくめっちゃ面白いッスよ

  • 2006/07/18(Tue) 22:43 
  • URL 
  • 倉敷 文人 #-
  • [edit]

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