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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(10)

第六章 「血と技」(10)

 佐久間現象の上体が、ぐらりと揺れた。
 気力が、尽きかけているのか……と、判断した荒野は、さらに手数を増やす。
「……おれたち一族は、確かに、怪物だ!」
 佐久間のガードをくぐり抜けて、さらに何発か、荒野の攻撃が、佐久間の顔を変形させる。
「相手がおれたちを認めてくれようが、くれまいが……おれたち自身が変るわけでは、ないんだぞ!
 生まれは……今さら、変えようがねーだろ!」
 佐久間現象の動きが鈍い。防御が間に合わず、荒野の攻撃を、立て続けに受けるようになっている。
 佐久間現象が、沈む。膝をつく。
「……自分の居場所が欲しければ……」
 佐久間の顔の形は、今や完全に変わっていた。
 荒野の膝が、佐久間現象の水月に潜り込む。
「……自分自身で……」
 だらり、と、力無く前に傾いだ佐久間現象の顎を、荒野のつま先がきれいに打ち抜いた。
「……作ってみやがれ!」
 佐久間現象は、大の字になって、倒れる。
 もはや完全に意識を喪失している佐久間現象に向かって、荒野はぽつりと呟いた。
「……寂しくなったら……また喧嘩を売りに来い……」
 荒野は、佐久間現象の首筋に、念のために針を打ち込んで動きを封じ、携帯電話を取り出す。
「……あ。先生? 悪いけど、今、出てこられる?
 商店街? ああ、知っている。おれもそっちに行く途中だだけど、ちょっといろいろあって怪我人がでちゃって……うん。大丈夫、ぶちのめして気を失っているから、ほっといてもそのうち目を覚すとは思うけど、何分この雨だし。うん。後は、打撲と小さな切り傷が、たくさん……。うん。そいつだけじゃなくて、実はおれも……」

「……また、いい顔になったな、荒野……」
「……うるせー……ちゃんと前見て運転しろって……先生……」
 三島百合香は十分もせずに、荒野がしてした人目の少ない裏道に車で駆けつけてくれた。
「……で、それが、お前の喧嘩相手か?
 お前がそんなんなるんだ、やっぱ相手は一族関係者か? ん?」
「……拗ねたガキだよ。
 ……先生。
 おれ、今、ひどく疲れているんだ……。
 詳しい事情の説明は、またの機会にさせてくれ……」
「いいけどな、別に……。
 ちゃんと聞かせてもらえれば……。
 いつでも澄まして涼しい顔をしているお前さんを、どうやったらそんな顔にできるのか、是非お聞きしたいだよ、こっちは……」
「……ガキさ……いけすかないガキに、いいように引っかき回されたよ……」
 荒野は車の窓から外をみながら、三島百合香に答えた。
「……そもそもの最初から、幾つかの違和感を感じてたんだ……。
 周到な構想と、詰めの甘さのとが混在していて……最初は、裏に何か特別な事情があったのかと思ったけど……」

 荒野が感じていた違和感とは……戦力の分断と各個撃破、という方針を定めながら、その方針を徹底していない詰めの甘さ、との齟齬に起因する。
 第一、駆り出された戦力が、実戦経験もろくにない年少者と、今まで荒野たちの世界に顔を出したことがない、秦野の女たち、である。
 第一線で活躍している人材は、二宮舎人くらいなもので……後は、後方の予備戦力……いわゆる、女子供しか、でてきていない……。
 いくら基本戦略がよくできていても……それを実行するための人材に不安があれば、それだけ目的を達成する可能性が目減りするのは、自明のことだ……。
 冷静に状況を分析すれば、荒野でなくとも、この程度のことは予測がつく……
 などという説明を三島にすることが……今の荒野は、ひどく億劫な気分だった……。
「……じゃあ、行き先は、商店街でいいんだな?」
 何も言わずに物思いに沈んでいるようにみえる荒野に、三島百合香が声をかける。
「ああ。電気屋さんの裏手につけてくれ。
 あそこの事務所に、玉木と徳川がいるそうだから……。
 こいつとおれの手当も、そこで頼む……」

「佐久間はあっけなく加納に捕まっちゃったね……」
「ぼくらの思惑通りに動くような傀儡繰りだ。別に意外な結果ではないよ……」
「加納も、意外に脆いところがあるね……」
「脆いよね、あれも……」
 くすくす笑い。
「……一つのゲームは終わった。それでは、次のゲームをはじめよう……」
「はじめよう! はじめよう!」
「さて、一発の銃声が開始を告げる!
 ……というのも、劇的ではあるが、ありきたりだ……」
「第一、うるさい!」
「うるさい! うるさい!
 それに、たった一発、というのも、いかにもあっけなさすぎる」
「あっけなさすぎ! あっけなさすぎ!
 ……一ダースならどう?」
「怖くなる!」
 笑い声。
「でも、実際の所、多すぎるな。
 ……一ダースでは……」
「半分! 半分!」
「そうだね。半分を、さらに半分づつ。君が三発。ぼくが三発」
「三発づつ! 三発づつ!」
「さあ、これだ。ちょっと重いけど、ちゃんとあの子たちの所まで投げられるよね?」
「投げられる! 投げられる!」
「さて、この六発が、いかなる反響を呼び起こすのか!」
「涙と感動!」
「笑いと興奮!」
 笑い声。
「でも、最初の涙、ってのは確実だよ……。
 なんてったってこれ……」
「催涙弾! 催涙弾!」
 爆笑。
「さあ、投げるよ!」
「「一個目!」」
 爆笑。
「「二個目!」」
 爆笑。
「「三個目!」」
 爆笑。

 三島の国産車は荒野がぼんやりと窓の外を眺めている間にも商店街の方に近づいていった。
 もともと、歩いてもいくらもかからない距離まで近寄っていたのだが、雨がいよいよ激しくなってきたことと、身動きの取れない佐久間現象を抱えていること、それに、荒野自身が心身両面で疲労を感じていることなどの理由で、三島の車に乗せてもらていた。
 ぼんやりと外を眺めていた荒野は、近くのビルを飛び越えて放物線を描いている幾つかの物体を認め、シートの上に身を起こした。
「先生! ここで止めて!」
 三島の車から飛び降りた荒野は、走りながら茅に電話をかける。
「茅! 楓を非常召集!
 誰かが……何者かが、テンとガクの上にガス弾を投げ込んだ!」
 荒野の目は、この視界の効かない天候下にあっても、煙の尾を引いて空中を横切る六つの物体を認めていた。

[つづき]
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