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彼女はくノ一! 第五話 (94)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(94)

 荒野から連絡が入った時、茅は実習室の看板に「六主家」とか「姫の仮説」とか板が書きして、大清水教諭と生徒たちを前に自分たちの現在の境遇について、かなり詳細な説明をしているところだった。
 茅は荒野からの電話をとり、しばらく耳を傾けた後、
「……分かったの」
 といって、すぐに通話を切り、楓の電話に書けなす。
 出ない。
 才賀孫子の電話にかける。
 やはり、出ない。
「あの……緊急なの?」
 柏あんなが、おそるおそる茅に声をかける。茅は無言で頷いた。
 他の生徒たちも、かなり心配そうな顔をして、茅を取り囲んでいる。
「出ないの。さっきから、何度もかけているんだけど……」
「楓ちゃんも、才賀先輩も?」
 茅は、また頷いた。
「あの……狩野君には?
 あの二人、家にいる時はいつも、狩野君のそばにいるような気がするけど……」
 茅は目を見開いて、「あっ……」と小さな声をあげ、狩野香也の携帯に電話をかける……。

 テンとガクの二人と、秦野の女たちとの奇妙な戦いは、もう随分続いている。一進一退を返し、傍目には、完全に膠着状態に陥っているようにみえた。第一、同じようなことを延々と繰り返しているだけで、見た目的に変化に乏しい。確かに、これだけ土砂降りの中、あれだけ動けるというのは、凄いのだが……。
 そんな訳で玉木は、二人対大勢の戦いの映像はさりげなくストリーミングからファイドアウトさせはじめる。コンテスト関係者が用意した映像素材はまだまだあり、他にも放映する予定だった映像に割り込ませてその戦いの映像を入れていた、という遠慮もあった。

「……テン、ガクを連れて、そこから逃げろ!
 今からそこに、ガス弾が落ちて行く!」

 だから、荒野から唐突にその連絡が入った時、ネットにも商店街にいる据え付けられたディスプレイも、二人と秦野たちの戦いの様子を、流していなかった。
 たまたま、ではあるが……思い返してみると、そうであってよかった……と、玉木思う。
 数年前、某カルト教団が通勤時の地下鉄構内に毒ガスを散布した事件を覚えている人は、少なくはない。その頃、玉木自身はまだほんの子供だったが、前後の数日間は、テレビがその教団関連の話題で持ちきりだったことを記憶している。そして、それから数年、意味が理解できるような年齢になるまでに、いろいろな情報源から、事件についての知識を得てきている。そんな玉木でさえ、「ガスは怖い」という先入観を持っている。もっと年配の、当時の事件を理解できる年齢で、リアルタイムで接してきた人々は、もっと過敏に反応するだろう。
 今現在、正体不明のガス弾が商店街めがけて落下中である……などという情報を不用意にアナウンスしたら、それなりの騒ぎが持ち上がったに違いない……。

『……かのう、こうや?』
『あれ? ガク? ……お前、テンの携帯もってんのか……』
『ぼくが、いくつかの回線をまとめておいたのだ……』
 徳川篤朗の声が会話に割り込んで、解説をする。
『徳川……か……。
 い、いや、それより……』
 荒野が、狼狽えたような声をあげる。
『……あそこ!
 国道の方から、かなり高い位置に……煙を吹いているものが……ええと……三個、以上。後ろの方は、煙でよく見えない!
 秦野のおねーさんたち!
 一時、中止! 退避! 全員で、退避!』
 これは、ノリの声。
「カメラ、上を探して!」
 そのノリの声に重ねるようにして、玉木が叫ぶ。

 放送部有志の即席カメラマンたちは、二、三人づつに分れてアーケードを見下ろす位置に建っている建物のベランダや外部階段、屋上などに配置されていた。上から見下ろすロングショットだと構図が単調になりがちだったが、ガクとテンがした「危ないから、あまり近寄らないほうがいいよ」という忠告を守って、被写体とは少し距離を取った。二人と秦野の戦いが実際にはじまった後では、素直にその忠告に従っておいてよかった、と、思っている。
『……あそこ! 国道の方から、かなり高い位置に……煙を吹いているものが……ええと……三個、以上。後ろの方は、煙でよく見えない!
 秦野のおねーさんたち!
 一時中止! 退避! 全員で、退避!』
『カメラ、上を探して!』
 反射的に、即席カメラマンたちは、シルバーガールズの一人が長い棒で指さした方角にカメラを向けている。
「……あ、あれ……」
「本当だ……」
 かなり高くから、ポツンと煙の尾を引いて落下してくる一群の物体を、放送部員たちはカメラに収めた。何人かは、ズームアップでその物体を追っている。

『とにかく! これを聞いているやつら! とりあえず、早く逃げろ! あれ、正体がわからないんだ!』
 荒野の声が、徳川から渡されたヘッドセットから聞こえてくる。
『……駄目……』
 弱々しい玉木の声が、荒野の声にかぶった。
『……あれ……毒ガスだったりしたら……』
 指摘されてはじめてその可能性に思い当たった放送部員たちは、手近にいた仲間と顔を見合わせる。他の放送部員たちは、玉木ほどの想像力は持たなかったようだ。
 恐れるよりも、玉木が指摘した可能性がピンと来なくて、キョトンとした表情をしている者が多い。
 玉木の言葉を裏付けるように、あれだけいたシャドウレイディ……秦野の女たちの姿も、いつの間にか消え失せていた。
『ガク! なに、愚図愚図してるの! 早く逃げて!』
『で、でも……もし、毒ガスだったら、早く取りのけないと、商店街の人たちに……そんなの……正義の味方じゃあ……』
『そんなこといっている場合じゃ……も、もう……あ。落ちた!』

 放送部員たちが具体的な行動を起こす前に、ガス弾は、夥しい煙を吐きながら、次々とアーケードの上に落下してきた。比較の対象がない遠い上空にあった時は、細い線でしかなかったが、地上に降りてみると、煙を噴出する勢いはもの凄かった。
 数秒も要せずに、周囲は白煙に包まれる。
『……ガクー!』
 周囲のビルの窓枠に器用にぶららさがっているシルバーガールズの片割れが、煙の中に取り残された相棒に呼びかけた。
 そうしているうちにも、白い煙だまりは刻々と膨れあがっていく。
『……だ……』
 無線越しにシルバーガールズのもう一人、ガクの声が漏れ聞こえている。ガクは、激しく咳き込んでいる。
『……だいじょ……目と喉に……即死するような……』
『分かった、分かったから、早く逃げろ!』
『駄目だよ……ガスの発生源を除けば、この雨なら流れて……死ぬことがないのなら、ボクらが……』

 この時点で、時間差を置いて投擲された後続のガス弾が落下中である、ということに気づいている者はいなかった。
 運悪く……その、後続のガス弾の一発は……煙の中で喉と目、鼻をやられ、しかし、それでも手探りで、はいずりまわりながら、ガス弾を探していたガクのヘルメットを、かすめた。

[つづき]
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