第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(95)
荒野が茅に電話をけてくるてから、数秒の間を置いて、それまでお店紹介とかコンテスト出場者のプロモーションビデオとか呑気な映像を流していた実習室のパソコンが、いきなり商店街のアーケードを上から俯瞰する映像に切り替わった。
画面が切り替わったのを確認し、それまで一族関係の基礎知識を講義していた茅が、俊敏な動作でパソコンの前に移動し、珍しくいらだった様子で、楓たちに何度も電話をかけ直す。
ばらまらと八方に散っていく黒衣の女たち、それに、逃げて行くテン……を、映している。
何故か、銀ヘルメットの一人は、その場に留まっていた。
パソコンの音声は、テンとガクが前後に交わした会話も、そのまま流している。
『ガク! なに、愚図愚図してるの! 早く逃げて!』
『で、でも……もし、毒ガスだったら、早く取りのけないと、商店街の人たちに……そんなの……正義の味方じゃあ……』
「……なんだよ、あのチビ……」
茅の後で、成り行きを見守っていた男子生徒が、呻くように呟く。
「正義の味方って……格好つけている場合かよ……自分が死んじまったら、元も子もないだろうが……」
柏あんなが「香也にかければ」とアドバイスした時、二筋の煙を吐きながら、二つの物体が落ちていた。風がないせいか、勢いよく吹き出している割に、白い煙は、あまり広い範囲には広がって行かない。もこもこと半球状に大きくなていっく。白い煙が、大気よりも比重が重いことは確かなようだ。
制服の姿の荒野が現れ、その、育ちつつあるもこもの中に、姿を消す。
その直後、白い煙の尾を引いた第二弾が、やはり二つ、もこもこの中に消え……マイクが大きな打撃音とガクの短い悲鳴を拾う。
どうやら、ガクのヘルメットに、落下物が当たったらしい。ヘルメットに内蔵されていたマイクが衝突音を拾ったので、かなり大きな音として響いた。
しかし、すぐにガクを肩に乗せ、脇に白煙を吐き続ける制服の塊を小脇に抱えた荒野が、もこもこから出てきたので、見ていた生徒たちは安堵のため息をついた。
荒野は、ガスを吐き出すボンベを制服で包んで脇に抱えているらしい。
そのまま、荒野は足を止めず、駅のほうに走りだしている。
そのすぐ後を、銀ヘルメットのテンが追いかける。
荒野とテンが走り去った後に、新たな煙の筋が二つ、突き刺さる。
『ガク、大丈夫なの?』
パソコンが、テンの声を流す。
『……テンか? 直撃……では、なかったらしい……』
答えたのは、かなり荒れていたが、明らかに荒野の声だった。
『テン、ガクを、安全な場所へ……』
テンは、荒野の肩から、グッタリとしているガクの体を両手で受け止める。
『かのうこうやは?』
『……こいつを、捨ててくる。
そうだな……この辺だと……川、か……』
荒野はがらがらの声でそう答えた後、制服の包みを持って、駅の方に駆け出した。
例によって飛ぶような速度で、あっと言う間にカメラのフレームから消える。
文字にすると随分長いようだが、一実際には荒野が茅に電話をかけてきてから今まで、まだ、一分もたっていない。
『……はい、もしもし……。
……え?
はい。楓ちゃんも才賀さんも、こっちにいますけど……。
……んー……。
今、ちょっといろいろあって、二人とも忙しかったから…… 』
そんなさなか、電話に出た香也は、いつもにも増して不明瞭な発音で、最初のうち、なにをいっているのか聞き取りずらったが、なんとか楓に代わってもらう。
そうしたやりとりの最中にも、パソコンの画面の中で、事態は進行する……。
『……うわぁ!』
テンの悲鳴が聞こえたので、茅がそっちのほうに目を向けると……画面の中で、テンに抱えられたガクが、暴れだしていた。
二人は、近くのビルの屋上にいるようだ。
テンのマイクが、切れ切れに、ガクの譫言のような意味不明の声を拾っている。
『……こんな、時に……』
抱えていたガクに突き飛ばされたテンが、悔しそうな呻き声を上げた。
『……誰か! ガクを取り押さえるの、手伝って!』
画面の中のガクは、明らかに錯乱した様子で、闇雲に六節棍を振り回している。闇雲に、といったところでも、ガクが渾身の力を込めて振るうのである。テンのマイクが拾った、ガクの棍が風を切る音が、異様に大きい。
テンは、ガクの棍を避けながら、自分の六節棍でガクの動きを牽制していたが、ガクの方はあまりテンの存在に気をかけていないようだ。と、いいうより、何もない虚空にむけ、棍を振り続けている。あるいは、ガクだけに見える「不在の敵」が、そこにいるのかも知れない。
力任せのガクの動きに比べると、テンの動きは、明らかに、切れが鈍い。ガクを傷つけたくない、しかし、今の状態のガクを放置したくはない、という苦衷が、テンの動きを鈍くしている。
『ガク……このままだと、体力が尽きるまで、目につくものすべてぶっ壊し続けるよ!』
テンは、誰かに訴えるように、叫んでいる。
今のガクは、ガスによって目や鼻が効いていない。それに、頭を強打したため、耳の方も、かなりあやしい。意識もはっきりとしていないことは、ぶつくさ口をついて出る言葉が、まるで意味を成していないことからも、簡単に推測できる……。
「よりによって……バーサーカー・タイプか……」
生徒たちの後から画面をのぞき込んでいた二宮舎人が、うっそりと呟く。
何かの拍子に理性を失うと、前後の見境いなく、体力が尽きるまで暴れまわる……という体質の者が、二宮の中に、稀にいる。そのような二宮を「バーサーカー・タイプ」と呼称している。
「……やばいな……。
それも、あいつは能力的には、並の二宮を遥かに上回る、ときている……。
銀ピカのおじょうちゃん! すぐにそっちに向かうから、それまでその屋上から逃がすな!」
二宮舎人は、手に持っていたスニーカーを履いて、窓を空け、そこから飛び出す。
「……楓、力を貸して……。
……ガクが、制御不能になっているの……」
茅は、電話に出た楓にいった。
「すぐに行きます!
……でも……どこに?」
「商店街。そこに、荒野もいるの……。
でも、荒野、別の敵と交戦中。
もともと、テンとガクが相手をしていた敵だったのだけど……アクシデントがあって、ガクが一度気を失って……意識を取り戻したら、ガクはバーサク・モードに……。
荒野は今、ガクが抜けた穴を埋めているの……
楓……お願い。
茅、ガクが暴れたら、止めるって約束したの……」
荒野は今、ガクがやろうとした仕事……ガス弾の撤去を、行っている。
「……ガクと約束したの。ガクが暴れたら、ガクを止めるって……」
[
つづき]
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