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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(11)

第六章 「血と技」(11)

 ガス弾、という言葉を聞いた時、徳川篤朗はかなりきな臭い物を感じた。ケミカル系、といえば、俗称ABC兵器のうちの三番目。
 安価で効果的な……歴とした……大量殺戮兵器、である。
 商店街のサイトとアーケード内のディスプレイには、現在、玉木の指示でお店の案内とかコンテスト出場者の映像とかが流れているが、この土砂降りの雨の中、放送部員たちはまだ外で「シルバーガールズ対シャドウレイディ」の撮影をしており、その映像データはリアルタイムでサーバに送られてきている。
 徳川は設定を変更し、外の映像を、この事務内にあるパソコンのディスプレイにだけ、表示させるようにした。
 案の定、外のカメラマンたちは、煙を吐きながら落下してくるその物体を、カメラに収めていた。
 まずいことに……それらは、どうも、ひとつふたつだけではないらしい……
 徳川が、携帯電話の通信網を違法改良して結びつけたシステムに、荒野が「逃げろ!」と繰り返し叫んでいる。そういいながらも、荒野自身は、こちらに向かっているらしい……。
 ガスの正体が分かっていない今の時点で、こっちに向かってくるというのは……無謀だな……と、徳川は荒野の行動を、評価する。
 テンとガクが「はたののおねーさん」と呼んでいた女性たちは、既に姿を消している。
 ガクは、どうやら身を挺してガス弾を取り除くつもりらしい……荒野以上の、自殺行為だ……と、徳川は思った。
 そう思っている徳川自身、逃げようとはしていない。別に、自己犠牲の精神に富んでいるわけではなく、化学兵器についての詳細な知識を持っている分、あのガスが毒性の強い物であったなら、今さら逃げても手遅れだ、と知っているから、無駄な足掻きをしていないだけだ……と、本人は、思っている。
 そして、忙しくキーボードをタイプし、今徳川が観ている、アーケード上の映像を、学校の実習室のLANにだけ開放するよう、設定し直す。
 その作業をしているうちに、最初のガス弾が着地した。かなり上空から落下してきたらしく、落下時にかなり大きな音をたて、徳川の所まで聞こえてきたほどだが……アーケードの構造材は、なんとか耐えきった。
 徳川は、防犯カメラの映像を盗み見る。その音に対して、不安そうに上を見上げる人は多かったが、今のところ、アーケード上にもうもうと吐き出されている白い煙は……もちろん、降りてきてはいる筈だったが……あまり、影響はみられない。
 どうやら、僅かな量で即死する、という性質の気体ではないらしい。この土砂降りの雨も、かなりのガスを流してくれている筈だ。
 毒性がない、と決まったわけではないが……まずは、結構……と、徳川は思う。
 そのうち、テンの必死の呼びかけにも関わらず、もうもうと嵩を増し続ける白い煙のそこに残ったガクが、盛大に咳き込みながら、切れ切れにガスの性質を報告してくる。
 その断片的な情報から……どうやら、催涙ガスらしい、と、徳川は判断する。
 暴徒鎮圧用の、刺激性のガスだ。喉や目の粘膜を刺激し、身動きが取れないようにする。実際、まともにその手のガスを浴びると、気力が根こそぎ奪われる、という。その中でも、まだしゃべり、動こうとしているガクの体力と気力は……称賛に値する、と、評価した。
 それ以上に、ガスの正体を確かめずにそうして身を浸すのは、無謀だ……とは思ったが。
 ガス弾の中身は、催涙ガスらしい、という情報を、徳川が荒野に伝えようとした、その時……。

 先ほどの落下音とは違う、大きな、鈍い音がした。

 茅に電話した後、テンへ連絡をすると、何故かガクの声が答えた。なんだかよくわからないが、徳川が通信システムを、継続的に同時通話になるように、いじくったらしい。多分、違法になる類の改良だろう。
 とりあえず、テンへの通話を切らないでおけば、主だった者への通信も同時に行える、と知った荒野は、通話を続けながら商店街に急行し、アーケードの上に飛び乗った。
 正体不明のガス弾が落下してくる、というのは、荒野にしてみれば十分に非常事態であり、人目を気にしている余裕はない。
 荒野がアーケードの上に降り立ったちょうどその時、その、正体不明のガス弾が、アーケードの天板に落下した。ちょうど骨組みにでも当たって跳ね返されたのか、大きな鈍い音がしたが、天板を貫通はしなかったようだ。
 あっという間に白い煙が立ち上り、膨れあがる。
 ガクは、あえて残ったようだ。
 逃げろ、と言い続けるテンに、ガクは、ガス弾を除去する、と言い張っていた。
 馬鹿が。正義の味方だと。クソ。死んだらそれどころではないだろ……と、荒野は思い、その後、そのガクがいる方向を目指して、煙の中に飛び込んだ。
 途端に、目が開けていられなくなる。鼻、それに、喉も、痛い。
 携帯電話から、「逃げろ」と言い続けるテンと、荒野と同様の症状を訴えながらも、残って今出来ることをやる、といい張っているガクとのやりとりが、えんえんと続いている。
 催涙ガス、か……と荒野は思う。
 そして、ガクに向かって……目を開けて立っているだけで辛いはずだ……無理、するな……と、祈るように思った。足の下にある商店街にまで、ガスの被害が及んでいないことも、祈った。
 昼下がりの現在、夕方のピークにはまだ間があり、それに、この雨のおかげで、来る来る途中でちらりと見てきた印象では、商店街の人出は今一歩、というところだった。
 積極的な集客イベントを起こしている玉木たちには悪いが……この雨は、恵みの雨かも知れない。
 客足を減らし、催涙ガスを洗い流してくれるのだから。今現在も、滝のような土砂降りだが……出来れば、もっと降って欲しい所だ。

 催涙ガスなら……視界は効かないが、息を止めて動けば、なんとかなる……。
 今は、ガクの救出が第一優先で、その次が、ガス弾の処理だ……と、荒野は思った。
 荒野は、複数のガス弾が落下中であることを確認していたが、それらが三回にわけて時間差を置いて放出されたことまでは知らない。これだけのガスが噴出しているのだから、すでに、全てのガス弾は落下し終わったのだろう……と、荒野は思っていた。
 ハンカチで口と鼻を塞ぎ、目を細くして、慎重な足取りで、ガクの姿を探していると……。
 意外に近くで、先ほどとは違う、かなり大きな音がした。
 同時に、ガクの声も、聞いたような気がする。
 テンが、異常を察し、しきりにガクに呼びかけるが、ガクは返事をしない。

 荒野は、その音がした方に移動する。
 すぐに、延々と煙を吐き出すガス弾をみつけた。要するに、ラグビーボール大のボンベなのだが、その弁からもの凄い勢いで白い煙が吐き出されている。
 荒野は、制服の上着を脱いでそのボンベを包み込み、さらに、ガクの姿を探す。
 ボンベから五メートルほど離れた地点で、側頭部の形が変わった、銀色のヘルメットがみつかった。
 荒野は、姿勢を低くして、ガクの姿を探す。
 ヘルメットからさらに十メートルくらい離れたところに、なにか黒い塊が寝そべっている。ここからでははっきりと断定はできないが……おそらく、ガクだろう。
 落下してきたガス弾が測頭部をかすめ、もんどりうってあそこまで吹き飛ばされた……と想定すれば、辻褄は合う。
 実際に、その地点にまで足を運んでみると……確かに、力を失ったガクが、倒れていた。
 荒野は、ガクの体を肩に担ぎ上げる。
 一旦、この煙を脱出。ガクの身柄を安全な場所にまで移動した後、このガス弾を処理する。

[つづき]
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