第六章 「血と技」(7)
「なにせ、ネットで世界中に配信されちゃうんだから……」
とっいって玉木珠美が手渡してくれたスパッツを、テンとガクはいそいそと履いた。
「世界中、といえば、英語とかその他の言語で、『これはなんのイベントか?』という問い合わせのメールが幾つか届いているのだ。
英語の説明ページをつくっておいた方がいいのだ……」
パーテーション越しに、徳川篤朗がそう声をかけてきた。
玉木珠美は、今回のイベント映像が、事情を知らない外国人によってどのように鑑賞されるのか、想像してみようとした。
「……町おこし……って、英語で、どういうんだろう?」
「ぼくは、英語は、日常会話と技術用語くらいしか分からないのだ」
玉木珠美の徳川篤朗がそんな会話をしていると、玉木が招集をかけた放送部有志たちが、どやどやと電気屋さんの事務所に入ってきた。ご隠居の仕事をサポートしたり、人員整理を手伝ったりと、商店街の周囲で雑用をこなしてくれた。昼食ぐらいは近場の大人が手配してくれたが、基本的に全員無料奉仕の完全ボランティアだった。
いきなり玉木に招集を食らって当座の仕事を放り出してきた放送部員有志は、揃って、
「いったい何が起こっているんだ?」
と招集をかけた玉木に詰め寄った。
「わはははは。
何だか分からない敵が攻めてきたんで、この子たちがそれを迎撃するんだよ!」
玉木が、身支度を追えたテンとガクを指さして答えると、放送部有志は、一斉に首を傾げる。テンとガクは、ゴスロリドレスの上に、銀ぴかのヘルメットとプロテクターをつけた姿だった。
「玉木……その子たちの恰好の、モトネタなんだ?」
アニメがゲームのコスプレかなんかだと思っているらしかった。
「この子たちは、オリジナルなのだ……」
それまで向かっていたパソコンから顔を上げ、徳川篤朗が説明を加える。
「……自分たちの存在証明をするために、この子たちは戦おうとしているのだ」
集まった放送部有志は、ますます困惑顔になって顔を見合わせる。
「ええい! 詳しい説明は後だ!
要するに、もうすぐ突拍子もない、空前絶後のイベントが起こるから、それをカメラに収めるんだよ! 全世界に発信するんだよ!」
一向に動こうとしない放送部有志たちの態度に業を煮やした玉木が、喚きはじめる。
「中継の準備だ!
説明してないからわけが分からないのも無理ないけど、絶対後悔させないから、さっさとカメラの準備をしる!」
「そ、そりゃあ……別に、構わないけどよ……。
雨が激しくなったんで、ステージの方のイベントは、今日はもう中止だっていうし、そっちの固定カメラ引っぺがし来ればいいわけだし……」
ある放送部員が、こめかみのあたりを人差し指でコリコリ掻きながら、おずおずとそう答える。
放送部員たちも、いい加減玉木の「臨機応変」には慣れているので、そのこと自体にはもはや驚かなくなっている。
「……で、その、空前絶後ってのは……確実に、このすぐ近くで起きるの?」
「起こるよ、確実に!」
いきなり、ガクが、大声で答える。
「あんなにいっぱい……攻撃的な汗の臭い、させて……」
心なしか、ガクの顔色が青ざめている。
「安心しろ、ガク。ボクも一緒だ……」
テンが頭を寄せて、こつん、とガクのヘルメットと自分のヘルメットをぶつけた。
「いい。ここのスイッチをいれると……遠くにいても、ボクの声が聞こえる……。
ちゃんと無線を組み込んでおいたから、離れることがあっても話しはできる……」
何かというと猪突猛進する性向があるガクのために、テンが組み込んでおいたものだった。島で動物を相手にするのとは違って、力任せなだけでは通用しない……ということは、この町に来てからのガクの実績が物語っている。
ガク自身が常に冷静な判断力を保持することができるようになるのが一番いいのだが、今まで培ってきた性格が、そう、早急に改善されるわけでもない。
だから、それをフォローするために、テンは、ガクとの通信を保持することを重視した。
「ガクは、強いよ……。
強すぎるくらいだ……。ボクの指示に従えば、その強さを完全に引き出してみせる……」
マンガみたいな恰好をした二人の様子が、かなり真剣に見えたので、その場にいた放送部員たちは今までとは別の意味で、顔を見合わせる。
彼らは、思った……。
今、ここで……一体、何が、起きようとしているのか……。
「あっ!」
いきなり、玉木が大声を上げる。
「あっ、あっ、あっ!
でも、駄目! ここじゃあ、駄目! ここじゃあ……」
お客さんや、商店街に、被害がでる……という可能性に、玉木ははじめて思い当たった。
玉木とて、荒野やテンとガクの敵が、こんなに早くに来襲してくるとは、予測していたわけではない。
「じゃあ……ここいらで、戦っても大丈夫そうな場所、教えて!」
玉木が何を心配しているのか察したテンが、真剣な顔になって、聞き返す。
テンは、玉木と有働が提示し、荒野がしぶしぶ受け入れた「地元を味方につける」という戦略を理解している。
「ここらへんで……人がいなくて……開けた場所……」
額に掌を当てて、玉木が考え込む。駅前に、そんな都合のいい場所が……。
「あるではないか。この、すぐ上に……」
徳川が、掌を上にくけて、人差し指をちょいちょいと上に向ける。
「……幅、約二十メートル、長さ約三百メートルの、細長い、人が入り込まない場所が……」
玉川は、徳川の顔を数十秒、まじまじと見つめる。
それから、唐突に理解の声を上げた。
「……アーケード! の、上!」
「……問題は、どうやって、その敵とやらをそこまで誘い出すか、なのだ……」
「そんなの、簡単だよ!」
冷静になったガクが、あっけらかんと答える。
「敵の目的は、ボクたちだもん!
ボクたちと戦うために、ここまで来たんだもん!
ボクたちと戦いたかったら、ここまでおいでっていえばいいんだよ!
でないと、ボクたち、絶対に戦いません! って……」
「……出来れば……一緒に、周りの建物やなんかも、壊さないように、頼んでも貰える……」
玉木が、小声でテンとガクに頼み込みはじめた。
「それさえ約束してくれたら……どんなに派手にやってくれても、いいから……」
その時の玉木の表情を擬音で表現するなら、
「……あうぅー……」
って感じだった。
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つづき]
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