第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(240)
確認してみると、ほとんど県内にしか放送していない、UHFのチャンネルだった。放映している番組のほとんどをキー局から供給されるコンテンツに依存しているが、一日のうち数時間ほどはその局が製作した番組も放映している。
この週末、夕方の枠は、地元からの生中継が売りの生活情報番組で、県内をぐるぐる回っている。予算がほとんどかからないし、それに、放映した地区の受けが良くなるから、毒にも薬にもならない代わりに一定の視聴率が確保できる……と、いうような番組だ。
『……でも……テレビに、なんて……』
出ちゃっていいんだろうか? と、楓は思った。
一瞬、荒野に連絡すべきかとも思ったが、なにせ生放送、なわけで、今更慌ててもどうしようもない……とはいっても、やはり全く報告をしないのも、問題がある……の、か?
などと少し悩んだ末、楓は、とりあえず、この放送について簡単に記述し、荒野あてにメールを送信する。
「……これで……どんどん、引くに引けなくなりますわね……」
楓が携帯を取り出してキーを叩きはじめると、孫子がそんなことをいいだす。
「加納やあなたたちがおとなしくしていても、あの子たちや周囲の者は、それぞれの思惑で、さらに多くの人を巻き込みながら、動き出している……。
加納も……もう、一族がどうのという、狭い枠組みを越えたところで考え、自分の先行きを選択しなければならない……」
独り言のような口調だったが……明らかに、楓に聞かせるための言葉だった。
孫子は、無駄なおしゃべりに興じる性格ではないし、ここには、楓しかいない。
「……うまく……みんなが、幸せになれる選択が、できるでしょうか?」
楓は、手を止めて、孫子に話しかける。
「……やってみなければ……わけりませんわ……」
孫子は、ゆっくりと首を振った。
「不幸になりたいと思って日々を送っている人は、少数派でしょう。
だけど、すべての人が、幸福なわけではりません。それに……能力的に秀でた人が、そうでない人よりも幸福だということでも、ありません。より多くの努力した人が、そうでない人よりも報われているとも、限りません……。
不公平なことですが……それが、現実です……」
楓は、孫子の言葉を噛み締める。
孫子と楓のスタートラインを思い返してみれば……その言葉は、まぎれもなく現実だった。
「……でも……」
楓は、ゆっくりと、いった。
「幸せになろうとすることは……出来ます……」
「精一杯、そうすることですわね……」
孫子はそういって、柔らかく笑った。
孫子にも、こんな表情ができるのか、と、楓は思った。
「後で、後悔しないように……」
「……はい」
楓はいった。
「後悔は……絶対に、したくはありません……」
その後すぐ、羽生譲が帰宅してきたので、その会話はそこで途切れた。
さらに少しして、テンやガクも帰宅し、例によってプレハブに籠もっていた香也も、居間に呼び出されて夕食となる。
「……先生がご飯作ると、みんなが幸せになるよな……」
その夕食の席で、羽生がいった。
「先生、マジでいいお嫁さんになれるよ。
料理はうまいし、一緒にいて退屈しないし……」
「だったら、その相手を差し出せっつーの。
容姿端麗頭脳明晰高収入で絶倫パイパーなベッドテク持ちだったら誰でも歓迎だぞ」
「……そんなことをいっているから、行き遅れるんです……」
会話が普通に漫才になるあたり、いつもの二人、だった。
「……でも……」
「本当、おいしい……」
酒見姉妹も、味噌汁に一口、口をつけただけで、絶句してしまう。
「普通にやることやっていれば、誰が作っても、その程度の味にはなるんだよ……」
姉妹に料理を教えていた三島は、そう答える。
「慣れればたいした手間ではないんだから、コンビニや外食ばかりではなく、自分でいろいろ試してみろって……。
いくつかの基本を押さえれば、後はその組み合わせなんだから……。
特に和食は、いい出汁さえできれば、煮物に味付けに、かなり応用が効くぞ……」
「「……はい……」」
酒見姉妹は、同時に頷いた。
「……テンちゃんとガクちゃん、さっき、テレビに出てましたね……」
楓は、テンとガクに話しかける。
「うん。
今日、徳川さんの工場にいたら、突然、玉木のおねーちゃんが行こうっていいだして……」
「……玉木のおねーちゃん、サプライズだとかいって、ギリギリまで伏せておくんだかからな……」
二人の反応は、割合に平静なものだった。
「「……て、テレビ!」」
代わりに、酒見姉妹が大声を出す。
「「……そ、そんなに……目立って……」」
「……テンちゃんたちは、別に、完全に一族というわけでもありませんし……」
二人の代わりに、考え考え、楓が答える。
「それに……人やお金を集める、という目的もありますから、そのためには仕方がない面もあるかと……」
荒野に送信したメールに、反応がない……ということは、特に問題はない、と、荒野が考えている……ということなのだろう。
と、楓は、そう判断している。
「「……そ、そうですか……」」
酒見姉妹は、一応頷いたが、完全に納得した表情ではない。
「そう……。
特にシルバーガールズは、人の注目を集めるのが目的、みたいな所があるし……」
テンが、静かな口調で答える。
「シルバーガールズは、ボランティア活動全般の、イメージキャラでもあるんだから……。
CMキャラが目立ちたくない、っていうのも、何かおかしいよね……」
ガクは、悟ったような顔でそういう。
「……でも……あの局、全国ネットではありませんよね……」
楓は、そう指摘すると、。
「今の時点では、全国にアピールしても、あまり意味がありません」
孫子が、反駁する。
「……まずは、地元であのキャラクターの知名度をあげることでしょう。ボランティアの看板なんですから、当面は、動員数に影響を与えるような存在でありさえすれば……」
「玉木のおねーちゃんも、そういってた……」
孫子の言葉に、ガクが頷く。
「コンテンツの内容がしっかりしていれば、ファンは自然に増えるし……今までの手ごたえからいっても、最初の予想以上にいい絵に仕上がっているって……」
「……生身でSFX的なアクション、できちゃう人たちだもんな……」
羽生も、頷く。
「そりゃあ……いくらでも、見ごたえがある絵が撮れるだろう……」
「……今、一番弱いのが、脚本だって、玉木おねーちゃんがいってた。その次に、合成とか特殊効果の専門家がいないこと……。
今は、シーン数も少なし、一本あたりの時間が短い、スポット的な映像しかやってないけど……これ以上の展開をするとなると、やはり、一貫性のあるストーリーが必要になるって……。
映像を加工することに関しては、これからボクとガクが新しいソフト組んでどんどん作業効率上げていくつもりだけど……脚本とかそっちの方は、やはりある程度、経験とか実績のある人を見つけてこなければ、難しいかなって……」
「……そこの、ノッポのねーちゃんなんかどうだ?
マンガなら、まるっきり未経験ってわけでもなかろう?」
三島が、そういって羽生を指さす。
「……せんせ。
箸の先で人を指さない……」
指名された側の羽生は、そういって憮然とした顔をした。
「マンガとかアニメのメソッドは、それなりに分かるけど……特撮は、また微妙に違う世界だからな……」
羽生は、やんわりと三島の指名を躱した。
「そうそう。
今、欲しいのは……特撮に詳しくて、在りものの映像を巧く編集して、筋の通ったドラマに仕立て上げることができる……とか、そういう人で……」
テンが、羽生の言葉に同調する。
「……ああ。
そうか。突発的に素材が増えるんだよなあ……今までの例からみると……」
羽生も、頷く。
シルバーガールズが出張る事件には、可能な限り玉木率いるカメラマン軍団が追いかけている。
「……でも、それって……この分で行くと、どんどん使えそうな映像だけが溜まっていく……っていうことなんじゃないか?」
「そう……だね。
そうすると、今までのでてた条件に、そうした膨大な映像を、効率よく使いきれる人……という条件を、つけ加える……」
ガクが、そういう。
「……そんな都合がいい人……」
……いるだろうか? といいそうになって、楓は、はっ、とある人物に思い当たる。
「……います……わね。
特撮にやたら詳しくて、とんでもない情報処理能力と臨機応変な判断力の持ち主が……」
孫子が、そういって頷いた。
「……茅様!」
「加納茅……」
楓と孫子の声が、重なる。
[
つづき]
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