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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(156)

第六章 「血と技」(156)

 帰宅して着替えると、二人してすぐに台所に立つ。
 ここ数日、荒野は「家事は茅の分担」という取り決めを無理に押しつけられていた形だが、この日は太介のおかげで朝、二人でいつも以上の量を調理していることもあり、「たまにやる分には、いいリクエーションだよ」と荒野が手伝いを申し出ると、茅は、あっさりと頷いた。
 米を研ぎ、炊飯器をセットして、茅と一緒に料理の下拵えをする。荒野に南瓜を一口大に切り分ける仕事を指示した。
 確かに、南瓜の皮は分厚く、それに包丁をいれるのは、ちょいとした力仕事であり、茅よりも荒野に向いていた。
 荒野が南瓜と格闘している間に、茅は浅蜊の味噌汁を作る準備をしている。玉木の所で購入している浅蜊は、すでに砂を吐かせているということだったので、そのまま鍋にいれて水を入れ、火にかける。浅蜊は、具自体がいい出汁を出すので、手間がかからなくていい。
 続いて、荒野が細かく切り分けた南瓜も鍋にかける。南瓜は甘みが強いので、特に下味はつけないで、そのまま水気がなくなるまで火にかける。
 それから、茅は荒野に玉葱やパプリカなど、何種類かの野菜を荒野に線切りにするように指示し、茅自身は何種類かの調味料を合わせて小皿に置き、豚肉を取り出して一口大に切り分けて、薄く衣をつけ、ざっとソテーして皿に戻す。
 袋入りの水煮の竹の子を笊にあけ
て水気を切り、荒野が線切りにした野菜と一緒に、油をひいてよく熱した中華鍋にあけ、炒めあわせる。
 ざっと火が通った所で、先ほど衣をつけてソテーした豚肉と合わせ調味料を鍋に入れ、荒野に、浅蜊の鍋の火を止め、味噌を溶き入れるように指示する。
 荒野が味噌を溶き終わった鍋をテーブルの上に降ろすのと、茅が炒め終わった物を大皿にあけるのはほぼ同時で、茶碗や箸などを用意し終わるのと同時に、炊飯器が鳴り、ご飯が炊けたことを告げた。

 二人きりの食事の時は、荒野はもっぱら聞き役に回る。ついこの間まで、外の世界をほとんど知らなかった茅の口から、今では毎日のように新しい名前が出てくる。学校と家とを往復するだけの地味な毎日ではあるが、茅は着実に校内に知り合いを増やしていた。知り合いが増え、対人関係が複雑になる、ということは、茅の世界がより密度を増していく、ということであり、そうした傾向を荒野は歓迎した。また、茅の話しぶりもおおむね上機嫌であり、現在の生活を茅が気に入っていることも、荒野は実感していた。
「……茅」
 良い機会だ、と思ったので、話しが一区切りしたところで、荒野は前々から抱いていた疑問を茅にぶつけてみる。
「その……そういう人付き合い、負担にならないか?」
 茅は……荒野や一般人よりもよっぽど「高密度に」外界を知覚している……らしい。
 その気になれば、対面した相手の内面までも「読ん」だり、また、ある程度、「干渉」することも、可能だ。それは、茅のその能力は、自己申告だけでなく、佐久間現象との一件でも、実証されている。
 そうした能力を持つものが……多様、かつ、精神的に未成熟な一般人がひしめき合う「学校」という環境下に長時間、居つづける……と、いうのは……常時、自分の特殊さを自覚させられる、ということでもある。
 そのような状況は……とても、窮屈なのではないか?
「二つ目の人間の国では、一つ目小僧は珍しがられる。
 一つ目小僧の国では、普通の人間が珍しがられる」
 荒野がそんな意味のことを尋ねると、茅はこのような答え方をした。
「茅は……確かに、様々なものが見える……見えすぎるの。
 おそらく、荒野が今、予測している以上のものを茅はみている。
 でも、それは……」
 単なる個人差、だと思うの……と、茅は、いう。
「一族も、一般人も……それに、テン、ガク、ノリたちも……能力や資質には個人差があり、千差万別なの。
 だから……茅も、人と違っていても、いいの……」
 荒野には……それが、茅の本音なのか、それとも、強がりでそういっているのか、よく判断出来なかった。
 そこで、重ねて尋ねてみた。
「例えば……茅には、この世界は、どう見えるんだ?
 ええと……その、普通の人とは……どういう風に、違ってみえるのか、っていうことで……」
「まず……一般人の五感で受け止められる世界は……茅が知覚できるものよりは、ずっと、粒子が荒いと思うの……」
 茅は、臆することなく、しかし、慎重に言葉を選んで、荒野に説明しはじめる。
「……視覚、聴覚、嗅覚……全てが、日を追うごとに、鋭敏に……きめ細かい所まで、区別できるように、なっていっている……」
「……そんなようなことも、いっていたな……。
 あれ、まだ進行中なのか?」
 荒野が確認すると、茅はこくりと首を縦に振った。
「進行中……。
 加えて、時間がたつほどに……加速度をつけて、肌理が細かくなっている……」
 茅は、常人よりももっと密度の濃い世界を生きている……という話しは、以前にも少し、話して貰った。
「……茅……」
 荒野は、箸を止めていた。
「おれ……何もできないけど、何かできることがあったら、いつでもいってくれ……。
 あー。
 無理を、するな。一人で、抱え込むな……」
「荒野なら、そういうと思ったの」
 茅は、荒野の言葉に頷く。
「でも……大丈夫。
 もう、茅は一人ではないから……。
 それから……これは、能力というよりも、その応用なんだけど……」
 知り合いが近い将来に行うであろう行動を、かなり高い確率で、読めるようになった……と、茅は告げる。
「占いとか、未来予知とかではなくて……過去の行動を記憶し、そこにパターンを見いだす。過去のデータとその人の性格から、確率的にもっとも多い選択を予測する……人力による、シミュレート。
 あくまで、機械的な、推測なの」
 もちろん、陽動を予測する人物のことを知っていればいるほど、的中率は高くなる。それと、近い将来のことほど、明瞭に見える。
 今では、学校で知り合った生徒たちが五分後に何をしているのか、かなり高い確率で、予測することが出来る。
「……なるほど……」
 荒野は、そんな非独創的な呟き以外、この場でいうべき言葉を思いつかなかった。
 完璧な、記憶力。脈拍や呼吸数、それに体温の変化まで、正確に見抜いてしまう知覚。さらに、「人間」に対する、飽くなき好奇心……。
 今の茅なら……その程度の芸当は、何の苦もなく、やってしまえそうだった。
「普通の人たちは……あまりにも、シンプルなアルゴリズムで動いているの」
 茅は、抑揚のない声で、そう告げる。
「あの村から連れ出されて、いろいろな人たちに会って……最初のうちは、なんて薄っぺらい……類型的な、思考パーターンの持ち主が、こんなにいるのだろうか?
 ……と、そう思っていたけど……彼らの方が、正常な存在であり、茅の方が、イレギュラーな化け物なの」
 茅は一瞬、うっすらと微笑んだ。
 荒野に、不快感を与えるような笑みだったが……すぐに、元の表情の読めない顔に戻る。
「荒野……。
 知っている?
 フランケンシュタインとマイ・フェア・レイディは、実は、同じ構造を持つ……。
 ヒトが、ヒトを創る話し……そして、被造物が、創造主を裏切る話しなの……」




[つづき]
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