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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(157)

第六章 「血と技」(157)

 食後のお茶を飲んでいる時、楓からのメールが着信した。
「……テレビ?」
 不審に思った荒野は、電源を入れる。
 以前、茅が一日中テレビにかじりついていた時期もあったが、今では電源が入っている時間は、極端に少なくなっている。茅も荒野も、ゆっくりテレビをみているような余裕がなかなか作れないのが、現状だった。
「……こういう、ことか……」
 楓のメールにあった、ローカルテレビ局にチャンネルを合わせて、荒野は一人頷く。
 そこには、レポータの質問に受け答えする玉木が映し出されており、その背後では、「シルバーガールズ」の装備に身を包んだテンとガクが六節棍を構えたり、ポーズをとったりしている。プラカードやポスターを広げてカメラの前に出ようとする放送部員たちの姿も、何人か見えた。
 自分でも以外なほどショックに感じなかったのは、遅かれ早かれこのような日が来るであることを、予期していたから……かも、知れない。
「シルバーガールズ」は、目立たなくては、意味がない。ゆえに、機会がありさえすればマスメディアへの露出も積極的に行うだろう。それでなくとも、背後で玉木が主導しているのだから、この程度のことをしても、別に、おかしくはない。
 商店街へは年末にも取材の申し込みがあった、と荒野も小耳に挟んでいる。あの時は、楓も孫子も露出を嫌ったので、取材を断ったわけだが……今では、事情が違ってきている。
 また、商店街の人たちにとっても、たかがローカル局とはいえ、マスメディアで宣伝されれば、うれしくない筈はないのであった。
 ましてや、バレンタイン本番を来週に控えたこの週末は、商店街のイベントにしても、最後の盛り上げ時、である。ここで、テレビ中継が入れば、それまでイベントの存在を知らなかった周辺の住人に対する、大きなアピールになる……。
 商店街からの中継は五分も続かずに終わり、CMの後は、カメラはスタジオを映し出し、中年男のキャスターが、無味乾燥なローカルニュースを読み上げはじめた所で、荒野はリモコンでテレビを消した。

「……なんだか、どんどん大袈裟なことになっていくなぁ……」
 玉木の動きも、だが、孫子の会社も、有働が主導するボランティアも、本来なら荒野たちとはあまり関係が無い、周辺の住人を大勢巻き込みはじめている。
 最初のうち、その影響力は、せいぜい、荒野たちが通う同じ学校の生徒たちくらいまでにしか及んでいなかったが……今では、その範囲は、日毎に大きくなっていく……。
 元はといえば、「茅が安心して住める環境にする」というのが荒野の目的だった訳だが、その目的が、もっと大きな範囲にまで拡大解釈され、「一族と一般人が混在出来る環境を作る」ということに、なってしまった。
 荒野が一族の首長たちの前で自分の意志を表明したことが、一族内部に潜在していた、一般人との融和を求める勢力に、居場所を与え、玉木や有働、孫子の動きとの相乗効果が出始めた……という、時期なのだろう。
 こうした風潮が、いつまで続くのか……この土地で、許容され続けるのか、荒野には、判断出来ない。
 しかし、一度弾みがついたものは、容易なことでは止まらないだろう……という、かなり確実な予感もあった。
 荒野は、そうした懸念を茅に説明し、
「この先……おれたちは、どこまで、行くんだろう……」
 漠然とした不安を、口に出して茅に示した。
「荒野……」
 茅は、荒野に尋ねる。
「……怖いの?」
「怖いな」
 荒野は即座に、呆気なく首肯した。
「……おれたち……。
 所詮、自分たちの都合で、ここまで大勢の人たちを巻き込んでしまっているわで……。
 ここまでして、いいんだろうか?
 そんなことをする資格が、おれたちにはあるんだろうか?」
 自分一人、あるいは、茅や楓など、周囲の数名について、防波堤になる……というぐらいの覚悟なら、荒野とて、とうの昔に腹を括っている。
 しかし、現在の状況は……玉木や有働などの一般人の友人たちも少なからず、深入りさせてしまった。さらにいうなら、もっと大きな範囲で、結果としてこの地域社会をも、変質させつつある。
「誰にも、無理強いはさせていないし……」
 茅の回答は、明確で力強かった。
「なにより、彼らが自発的にやっていることなの。
 彼らの選択を、わたしたちが安易に否定するのは、間違いだと思うの。
 それに……」
 茅たちにも、生き残る権利はあるの……と、茅は、続けた。
 荒野は……数秒、考える。
「茅は……現在のこの状況を、生存競争的な観点でみているのか?」
 考えて……結局、荒野はその疑念を口にした。
「……そうなの」
 茅は、頷く。
「茅だけなら……隠れていれば、いい。
 だけど……茅の子供たちや、それに、テン、ガク、ノリたちも……これから生まれてくる、全ての異能の者に……今までのように、その正体を一生隠して過ごせ、というのは……絶対、間違いだと思うの。
 茅の子供には……荒野の子には、そんな世界を残したくないの……」
 荒野は、必死になって思考を巡らし、茅の思惑をトレースする。
「……茅は……。
 つまり、一般人と一族が平和に共存できる社会なら……一族以上の能力を持つかも知れない、茅と同等の資質の持ち主も、安心して生活できる……。
 そのような社会を作る布石、あるいは、テストケースとして、現在の状況を容認し、あるいは、利用している……。
 そういう……ことなのか?」
「そうなの」
 荒野が短時間に高速で思考を回転させた結果、出した仮説を、茅はあっさりと首肯した。
「……そこまでのスケールでは……考えたこと、なかったな……おれ……」
 半ば、あっけにとられながも、荒野は、そう呟く。
「もっと全然……目先のことしか、目に入っていなかった……」
「荒野は、それでいいの」
 茅は、重ねて頷く。
「今の荒野の立場では、短時間で決断を迫られることが、多い。
 そういう立場に立つ者が、あんまり長期的な視野にばかり拘泥していると、かえって足下を掬われるの。
 才賀のいう、戦略と戦術の違い。
 優れた現場指揮官が、大局を見ることに長けているとは限らないし……また、長けている必要もないの……」
「……なるほど……」
 荒野は、頷いた。
「分業……か……」
 そういった後、不意に、喉の奥から、笑いがこみ上げてくる。
「そう……だな。
 おれ、確かに、そういう難しいこと、とことん考え抜くのは苦手だし……そういう面倒なこと、考えるのは、茅にまかせるよ……」
 しばらくして、そういった荒野の口調には、笑いが滲んでいた。
「ある種の、フィクション……マンガや映画などの映像作品や、小説などの題材として……ミュータント・テーマがあるの。多くは、種という概念を誤解したところで、物語の根本的な部分が設定されているので、科学的には、必ずしも正確なものではないのだけど……。
 そうした物語の中に描かれる、人間以上の存在、ミュータントは……ごく少数の例外を除いて、一般人から迫害されているの。
 こうした設定は、多く、人種差別などの現実を託したメタファーだったりすのだけれど……それでも、茅や、これから現れる茅のような人たちを……一般人に、迫害させるわけにはいかないの……」
「……わかったよ、茅……」
 荒野も、にやにやと笑いながら、頷く。
「目指すは、一般人社会との共存……それも、次の世代にまで引き継げるだけの、強固な土台を、おれも作っていきたい……。
 時間はかかるだろうけど……ひょっとしたら、一生かけても間に合わないかも知れないけど……でも、やりがいのある仕事だと思う」
 そういってから、ふとあることに気づき、荒野はぼそりと付け加えた。
「……ようやく……おれにも、何かを作れそうだよ……」





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Comments

10行目、
> そこには、レポータの質問に受け答えする玉木が映し出されており、その背後では、
 自分でも以外なほどショックに感じなかったのは、

「その背後では、」の後の部分が抜けているのでは。

  • 2006/12/13(Wed) 23:28 
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