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彼女はくノ一! 第五話 (244)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(244)

 翌朝、テンとガクはいつもの時間に目を覚ますと、真っ先にカーテンを開け、窓の外を確認した。
そして、「……わぁ……」と、歓声をあげかけたまま、途中で絶句してしまう。
窓の外は一面の銀世界、二人がはじめて目にした積雪だった。昨夜、降るだけ降ったおかげか、上を見上げれば見事に晴れ上がって、雲一つない抜けるような青空が広がっている。
 テンとガクは、顔を見合わせ、次の瞬間には窓を閉め、パジャマを脱ぎ散らかして、外出の準備をはじめている。
 着替えて、足音を忍ばせながら廊下にでると、パジャマ姿の楓と鉢合わせになった。
「そんなに急いで、どうしたんです?
 こんなに朝、早く……」
 楓はそういって、首を傾げる。
眠りの浅い楓は、ざわついた空気を感じて、いつもより数分早く布団から出て、様子を見に来た所だ。テンとガクが起きているのは別に不思議ではない。が、二人がスポーツウェアではなく、普段着であること、それに、妙に興奮した様子であることについては、不審に思った。
「……雪だよ、雪!」
ガクが、勢い込んで楓に訴える。まだ早朝、といっていい時間であることは失念していないらしく、興奮は隠せないものの、声は潜めている。
「……雪?」
「確かに、積もっていますわね……」
楓が怪訝な声をあげるのと、背後から孫子の声がするのとは、ほぼ同時だった。
「……五センチ以上、積もっているようですから……今朝のトレーニングは中止ですわね……」
 孫子がいい終わらないうちに、テンとガクのポケットの中が震動して、メールが着信したことを告げる。
「……本当だ……」
 ポケットから携帯を取り出し、液晶画面を覗きこんで、テンとガクは頷く。
「茅さんから。
 雪が降ったから、朝のランニングは中止だって……」
 茅から、その旨の同報メールが着信していた。
 楓と孫子はパジャマ姿だから、流石に今は携帯を持っていないようだが、それぞれの部屋に帰れば、同じ文面のメールが着信していることを確認できるだろう。
「……ぼくたち、朝ご飯の時間まで、近くで遊ぶつもりだけど……」
 テンは、楓と孫子に向かって、そういう。
「雪なんて、話しに聞いたことがあるだけで、実際にみるのは初めてだし……」
「わたくしは……簡単に朝食の下拵えをしてから、少し休みます……」
 孫子は、すかさず答える。
 これで、最近の孫子は何かと多忙だ。睡眠時間も、とれる時に取っておいた方がいい。
 朝食の時間までには、まだ少し猶予があった。
「……えっとぉ……」
 楓は、少し考え……。
「着替えてから、外に行きます……」
 ……結局、テンやガクと同じく、外に出ることにした。
 どのみち、この時間には目を醒ますような習慣になっているし、体にもそのリズムが刻まれている。今から無理に横になっても、さほど深く眠れるわけでもない。
 テンとガクはそのまま外に出て行き、孫子は台所へ、楓は自室へと向かう。「朝食の下拵え」といったところで、いつも簡単にすましていることを反復するだけだから、と、孫子は楓の協力をやんわりと拒んだ。
 それで、いちど自室に帰った楓が着替えて外に出ると、玄関から一歩踏み出したと同時に、顔に雪玉をぶつけられた。
 二月になってからようやく初雪が降るような地方だから、ベタ雪ではない。楓は、顔の前にとっさに腕をかざし、そこに、雪玉は当たってくだけた。あるいは、雪に慣れていないテンとガクが、強く握って固めなかったせいもあったかも知れないが、楓の腕に遮られた雪玉は、さらりと崩れる。
「……当たった、当たった!」
 とか騒ぎながら、テンとガクが、少し離れた場所で、飛び跳ねてはしゃいでいた。
「……こ……のぉ……」
 楓は身をかがめ、足下にある雪を集めはじめる。もちろん、テンとガクに投げ返すためだ。
 日曜の朝、早い時間……雪の上には、新聞配達の原付がつけたらしい、轍の跡、それに、テンとガクの足跡以外に、踏みつけられた形跡がなく、ほとんどまっさらの状態で十センチ近く積もっていた。
 三人は、笑いざわめきながら、雪合戦をはじめる。

 孫子は冷蔵庫にある食材を手早く切り分けて、水を張った鍋に入れ、後は火にかけるだけ、という状態にする。作り置きの総菜類をチェックし、香の物も包丁を入れて皿にもった状態で、ラップをかけて冷蔵庫に入れておく。炊飯器は昨夜のうちにタイマーをセットしているので、時間が来ればひとりでに炊きあがっている筈だった。
 一通りの仕度を終え、手を洗って自室へと引き上げる途中、香也の部屋の前を通りかかって、孫子はふと足を止める。
『……顔を、みるくらいなら……』
「別に……かまいませんわよね……」
 小声で独り言を呟きながら、何故か、孫子はきょときょとと周囲を念入りに見渡す。
 いうまでもなく、挙動不審だった。
 楓たち三人は外に出ているし、香也と羽生は、まだ熟睡している時間だから、当然のことながら、孫子自身以外に、家の中で起きている人間の気配ない。
「……お邪魔しちゃいますわよぉ……」
 やはり、小声で誰にともなく断って、孫子は、香也の部屋と廊下を隔てる障子に手をかけた。何故か、ほんのりと頬を染めている。
 すっ、っと、ほとんど音を立てずに障子を開き、素早く香也の部屋に入り、障子を閉める。
 何故こんなに「他人に見つかること」を警戒しているのか、孫子自身もよく分かっていない。
 孫子は、灯りもつけずに寝ている香也の上から、顔を覗き込む。カーテンを引いた窓越しに外から明かりが入ってくるので、薄暗いが香也の顔は判別できる。
 ……よく寝ている、と、孫子は思った。
『……あっ……寝癖……』
 反射的に手を伸ばし、香也の髪に触れる。
 そこで孫子は、ばっ、と伸ばした手を引っ込めた。
 別に、香也が身じろぎしたとか、目を醒ましそうな兆候があった、というわけではない。
 寝ている香也があまりにも無防備で……簡単に触ることが出来る、ということを意識した途端……何か、孫子は怖くなった。
 香也の方は、孫子の不審な行動に気づくことなく、相変わらず熟睡している。
『そう……少し、くらいなら……』
 しばらく香也の寝顔を覗き込んでいた孫子は、ごくり、と、固唾を飲んで、再び手を伸ばした。




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Comments

「原付」でいいかと

 ちょっとした違和感が…新聞配達にスクーターは使わないんじゃないかな?

※スクーターは自動二輪の中でも「腰掛形」の名称。

  • 2006/12/18(Mon) 00:41 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

まいどどうも。

スクーター → 原付
に修正。
……そうすると、スーパーカブはスクーターとはいわないのか……。

  • 2006/12/18(Mon) 01:27 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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