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彼女はくノ一! 第五話 (249)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(249)

 香也の部屋で、香也と孫子が睦みあっていたその時、家の外では、楓とテン、ガクの三人がはじめた雪合戦は、順調にエスカレートしていって、雪合戦以上のものになっていった。
 民家の屋根や電柱、電線の上を伝い、高速で移動しつつ、雪玉をぶつけ合う……という行為の中で、通常の「雪合戦」という概念に収まるのは、最後の「雪玉をぶつけ合う」程度である。それ以外の前半部の要素は、すでに常人にはなしえない域に達している。早朝の冷たい空気を切って、三人はびゅんびゅんと目まぐるしく飛び回り、素早く雪玉を投げ合う。三人とも今では「かなり、本気」になっているので、命中することは、ほとんどない。もちろん、念を入れて、三人とも気配を絶っている。そして、一人が他の二人を敵にする、という「三つ巴戦」ルールに、自然に収束していた。二人一組になると、パワーバランスに明確な偏りが発生し、容易に勝敗がつきやすくなるからだ。
『……二人とも……』
 勘がいい……と、楓は思う。
 本格的に投擲武器を扱いだしたのが、ほんの数日前……とは、思えないほど、キレのいい動きをみせていた。
 コントロールが良いのはテンの方で、それに加え、狙いが正確である、弾道を読むのに長けている、という特性を持っているように見えた。投げつけられた雪玉の軌道を冷静に読みとって、避けたり、逆に、投げつけた人間の方に向かってきて、間合いを詰めたりする。
 ガクの方は、若干、力任せの傾向が強かったが、その分、射程距離が長い。ロングレンジである分、「相手の攻撃範囲外から攻撃する」という安全な戦い方を、選択できた。
 テンとガクの両者に共通しているのは、自分の特性を熟知し、それを最大限に生かす方法を採用している、ということで……。
『……二人に基礎を叩き込んだ人は、かなり、できる……』
 楓は、二人の行動に、二人を仕込んだという「じっちゃん」の影をみた。あれほどの特性があれば、その長所に頼りきった戦い方を仕込んでみたくなりそうなものだが……それは、していない。
 二人には、初めて取得した「投擲武器を多用する戦い方」という技術を、短時間で自分に適した方法にカスタマイズする、「応用力」があった。こうした柔軟さは、特に二人のように若いうちは、なかなか身に付かないものだ……。
 
 楓と対峙するテンやガクの方も、楓の戦い方に、舌を巻いている。
 狙いの正確さではテン、飛距離ではガクに、それぞれ、アドバンテージが存在する。しかし、楓は、そんなことにはあまり関係なく、軽々と二人の投じる雪玉を、軽々と避けてみせる。
 雪玉そのものの軌道を読む、ということもあるが、どうも、その前のモーションで、狙いを付けただいたいの方角を察知し、雪玉の当たらない場所へ、それが無理なら、避けやすい場所へと移動する。
 逆に、少しでも隙をみせると、いつの間にか近づいていて、テンやガクが雪玉を投げる体制に入った、隙の多いタイミングで、雪玉を投げつけては即座に逃走する。
 いわゆる、「ヒット・アンド・アウェイ」という基本に拘った形で、テンとガクを翻弄した。
 これまでの戦績を確認すれば、テンとガクは楓に一つも雪玉をあてることに成功していないが、楓の方は、何発に一発か、着実に、命中させている。
 結果として、身体能力的には、楓よりも遙かに優れている筈のテンとガクは、常に後手に回っていた。
 楓の強さは、筋力や反応速度、といった直線的なパラメータに頼らない所にある……と、テンとガクは改めて実感する。
 一言でいえば、「技」ということになるのだが……テンやガクそう違わない年齢の楓が、ここまで「使える」ようになるまでに、どれだけ経験と修練を重ねたのかと想像すると……二人は、慄然としてしまう。
 楓は、テンやガクほど、先天的な資質に恵まれていた訳ではない。ほんの少し、生まれ落ちた境遇が違っていれば、今頃、ごく普通の一般人の少女として生活していてもちっともおかしくない人間だった。
 それが、ここまでの存在になるまで、楓は……それほどの努力を積み上げて、自分の体に染みつけてきたというのか……。
 なのに、楓自身は、そのような過去を苦にしている風でも、今まで積み上げてきた努力を誇るでもなく、むしろ、控えめな態度で日々の生活を楽しみ、何気なく過ごしている。
 そんな楓のことを、テンとガクは、「……大きいな……」と、まぶしく思った。
 単純に、現時点での能力のみを比べれば、荒野は楓より何歩か先に行っているだろう。装備込みの戦闘能力、という伝でいけば、孫子だって、楓に引けを取らないかも、知れない。
 しかし、荒野や孫子は、その出自により、生まれた時から有形無形のバックアップを受け、本人たちもそれを当然と思うほど、自然にあまたの恩恵を受けてきたのに比べ……楓には、そうしたアドバンテージが、まるで存在しないのだ。
 いや。なにかと血縁を重視する一族にあっては、そうしたコネクションをまるで持たない楓は、マイナスの地点から出発している……といっても、過言ではない。
 楓は……ゼロから、自分の体一つで、ここまで到達した……ということを考えると……。
「やはり……大きいな……」
 と、テンとガクの二人は、そう思ってしまう。
 楓からは……まだまだ学ぶべきものが、沢山ある、と。

 再び、香也の部屋に視線を転じる。
 香也が、裸の背中に汗を浮かべて、孫子の中を往還している。
 挿入前の前戯が長引いたこともあって、孫子の中に入った香也は、さほど長持ちせず、何度か孫子の中を往復しただけで、すぐに昇りつめる感触を得た。
 辛うじて残っていた香也の理性が、孫子の中にそのまま欲望をぶちまけるのことを躊躇わせる。
 射精感を寸前まで高まるのを感じると、香也は、すぐに腰を引いて孫子の中から分身を抜き取り、孫子の腹の上で自分の欲望をぶちまけた。
 奔出した香也の欲望は勢いよく孫子の上に飛散し、孫子の腹から顎まで、白い飛沫となって降り注ぐ。
「……あ、熱い……」
 孫子は、虚脱間と快楽の残滓に浸り、霞のかかったような瞳で、「……そのまま、中で出してもよかったのに……」と思いつつ、ぼうっと自分の上に降り注いだ白い粘液をみていた。それから、のろのろと顎にまで届いた滴を指で拭い、ちろりと舌をだして、香也から良き放たれたものを舐めとる。香也が出したものなら、孫子は汚いとは思わない。
 むっとする欲望の匂いをかぎながら、孫子は、射精した直後から、香也の表情が曇ったのに、気づいた。
『……ああ……』
 孫子は、この頃には、香也の思考をある程度、トレースできるようになっている。
 香也は……本気で好きなったわけでも、つき合うつもりもない孫子と、また肉欲に負けて交合してしまったことで……今になって、自己嫌悪を感じている……と、孫子は、即座に香也が考えそうなことを、予測してみせた。
『……こちらが無理に誘惑したのだから……』
 そんなに気に病むことは、ないのに……と、自分の欲望に正直なタイプである孫子は思う。
 孫子にしてみれば、二人の要求が一致したので、合意の上での性交渉なのだが……でも……気持ちや誠意などのメンタルな価値観を重視するタイプである香也にしてみれば、嫌っているわけではないまでも、本気ではない相手と成り行きでこうなるのは、不本意なのだろう……。
『……安心、させなくては……』
 と、思った孫子は、身を起こして、暗い表情をして荒い息をついている香也の肩を抱きしめた。 




[つづき]
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