2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(168)

第六章 「血と技」(168)

 荒野は手早く服を身につけて玄関に向かい、靴を取って再びベランダに向かう。茅も、脱ぎ捨てたバスローブを羽織って、物置代わりにしている部屋に駆け込んだ。
「荒野、これ!」
 荒野がベランダにでるのと同時に、双眼鏡とヘッドセットを手にした茅も追いすがってくる。
「携帯に、つけて!」
 荒野は双眼鏡を手にした茅をみて、その意図を即座に察知し、手渡されたヘッドセットを自分の携帯に取り付けた。
「……ははぁ、姫様は管制の方で……。
 確かに、あんだけ高速で移動していると、少し離れた所からのが状況を見渡せるか……ま、見切りさえ、確実ならってのが、前提ですが……」
 東雲目白、と名乗った男が、感心した声を上げる。
「茅の走査能力は……一言でいって、凄いぞ」
 説明するの面倒だった荒野は、茅に関しては簡単にそう告げただけで、逆に、東雲に聞き返す。
「状況は?」
「うちのお嬢は、新種の二人組についたようです」
 荒野に問われ、東雲が表情を引き締めた。
「お嬢……やたら、強い人とやり合いたがるから……」
 そう答えながらも、東雲は、遠くで展開されている四人の軌跡を、眼で追っている。
「……二宮か?」
 荒野は、短く尋ねる。
 新種二人、つまり、テンとガクに与するしたらしい……東雲が、「お嬢」と呼ぶ者のことだ。
「そうっす。
 今は、小埜澪と名乗っていますが……頭に血が昇ると手に負えない。冷静な時も、さらに手に負えない……」
 軽薄な口調でそういって、東雲は軽く肩を竦めた。よりによって、バーサクタイプか……と、荒野は思った。
 スーツ姿でも気質のサラリーマンには見えない。かといって、本格的にやばい職種の人間にもみえない。外見から東雲の職業を当てようとしたら、大半の人間が「ホスト?」といい、その後、「それも、二流か三流どころの……」と付け加えたくなるような風貌の、若い男だった。さもなくば、「ヒモ」、と推定しそうな軽薄さを、体全体から漂わせている。
「気まぐれで、酔狂で……自分の欲望に、忠実……その癖、強大な能力を持つ……」
 荒野も、自分がよーく知っている「二宮」のことを思い出しながら、軽く首を振る。
「……それは……生粋の、二宮だな……」
「ええ、そりゃあ、もう……。
 先代からの付き合いですが、扱いにくいのなんのって……」
 そういう荒野の様子を横目で見て、東雲も、にやにや笑っている。
 荒野と同じく、「二宮の悪口ならいくらでも語れる」ということは、東雲自身は二宮系ではないのだろう。
「……その辺の話しは、後回しだ。おれは、やつらを見張りに行くけど……」
「茅は、ここでみんなを見張っているの……」
 荒野と双眼鏡を覗いた茅が、遠くで「三対一、変則雪合戦」をはじめた四人の動きを眼で追いながら、そんなことをいう。一面の銀世界、という細部を視認しにくい環境の中で、目まぐるしく動き回る四人の追尾するのには、かなりの集中力が必要となる。
「……わたしも、若の方にお付き合いさせていただきます……」
 東雲が、うやうやしく頭を下げる。
「お嬢の気性はよく分かっていますし……それに、向こうも四人だ。
 こっちの人数も多いに越したことは、ないでしょう……」
「ま……このまま、雪合戦だけで終わってくれれば、なんということもないんだけどな……」
 荒野は肩を竦めて、無造作にベランダの手すりを乗り越える。
「……おっ!」
 東雲が慌てて手摺りに身を乗り出し、落下したかに見える荒野の姿を追う。
「っと……はは。
 そりゃ、そうか……」
 荒野は、すぐ下のフロアのベランダに手をかけ、そこの壁面を蹴って、数メートル先にある非常階段に飛び移り、あっという間にそこを駆け下りて姿を消した。
「って、わたしも……後を追わなけりゃ……」
 荒野の無事を確認した東雲は、ベランダの手摺りの上に立ち上がり、そこから直接、非常階段に飛び移る。

『……荒野。
 楓は、三人の分断を図りながら、河原の方に向かっているの……』
 イヤホンから茅の声が聞こえる。
「楓なりに、目撃者が出にくくて、見通しのいい場所に誘導しているんだろう……」
 人目を避けるように、物陰から物陰へと伝い走りながら、荒野はマイクに向かって答えた。
 それからふと疑問に思って、尋ねてみる
「茅。
 楓は……優勢なのか?」
 テンとガクの二人だけならともかく……もう一人、東雲が「お嬢」と呼んだ人物に関しては、荒野は何の情報も持っていない。
「……や。
 その、最強のお弟子さんが噂通りの人物なら……しばらくは、大丈夫かと……」
 荒野に追いすがてっきた東雲が、荒野の言葉を聞きつけて、間に入る。
「お嬢の性格だと……まず、新種のお二人をけしかけて、効果的な戦い方をアドバイスします。
 そうやって、最強のお弟子さんの力量を、直に自分の目で見極めた後に……」
 ……サシで、勝負を挑むでしょう……と、東雲はいった。
「お嬢……とにかく、強い方とやり合うのが、好きなご気性ですから……」
「その……オノ・ミオって人の、実力は?」
 その東雲の口調を聞いて、荒野ははじめて表情を引き締めた。
 長く海外にいた荒野は、国内の術者の消息について、無頓着な部分がある。
「そうか……若はお強いから……考えてみりゃ、わたしら下のもんの情報を、わざわざ収集する必要もありませやね……」
 そういう東雲の口調は、苦笑いの含んでいるようにも、聞こえた。
「お嬢は……現在、二宮の第三位と目されております。
 若や最強のお弟子さんが現れるまでは……若手では、最強といわれてました……」





[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび





Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ