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彼女はくノ一! 第五話(252)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(252)

「何やってるの、新種二人!」
 白いダウンジャケットの女性が、語気を鋭くする。
「足が止まったら、すかさず攻撃! 当たらずとも次の行動を阻止する!
 仁木田のにーさんにあんたらがやられたこと、そっくり返してやれ!」
 その女性の言葉に反応し、テンとガクが慌てて手近な雪を集めはじめる。当然、楓は、弾けるような動きでその場から遁走している。
 人数的に不利ということだけではなく、その女性は、その挙動と立ち振る舞いから察するに、かなりの場数を踏んでいるようだった。自分の力量を過信せず、その場その場でできること全てを実践し、最善を尽くすことが習いとなっている……プロの、匂いがする。テンとガクの二人が、あの女性の言葉に従ったのも、そうした気迫を感じ、彼女のいうことなら信じられる、という信頼感を、瞬時に敢行したからに違いない。
『……まずい……』
 身体能力では楓自身を大きく引き離すテンとガクに、楓が遅れを取らなかったのは、二人が、これまで真剣勝負を体験していなかったアマチュアであるからだ。予測が甘く、突発的な動きに即座に反応しきれないから、裏をかきやすい。
 しかし、その二人に、経験豊かな指揮者がついたとなると……それまで楓がもっていた優位は、反転してマイナスになった……と、見るべきだろう。
「……はっ、はあぁ……」
 楓のすぐ後で、声がした。
「迷わず、逃げに入った……。
 やっぱ、荒神さんが見込むだけのことはあるや……」
 楓のすぐ後に、さっきの女性が追いついている。
 どういうつもりか、その女性自身は、直接楓を攻撃するつもりはないらしい。楓は、一目散に逃げるだけで、その女性には何もしないし、話しかけない。
 攻撃してこないところを見ると……明確な害意を持つわけではないらしい。しかし、立ち止まってゆっくり立ち話しできるような、安心できる相手でもなさそうだ……という予感が、ひしひしとする。
「わたし……以前、荒神さんに弟子入り志願したことがあったんだが、体よく追い払われたことがあってねー……。
 その荒神さんが、ようやく認めた二人目の弟子が、年端もいかない女の子だっていうから、見に来たんだ……」
 その女性は、無言のままの楓に構わず、一人で滔々と話しはじめる。
「……そしたら、なんか朝っぱらか面白そうなこと、やっているし……。
 で、不利な彼女らの方に、味方することに決めたってわけ。たった今……。
 ……んー。
 でも……どーしようーかなー……。
 あれ、いくらなんでも、三体対一、ってのは戦力比的にアンバランスだろうし……
 そうだ! わたしは、直接攻撃しないってルールにしよう。実際にやり合うのは、あくまであの二人と雑種ちゃんだけ!
 で、わたしは……あの二人への、アドバイスに徹する! そんくらいで、ちょうど釣り合いがとれる!」
 楓が返答しないのにも構わず、その女性は一人でそんなことをいって、うんうんと頷いている。
「……じゃ、ルールは、そういうことで。
 雑種ちゃん! また後でねー……」
 快活にそういって、すぐに姿を消した。
『……わからない、人だ……』
 その女性について、楓はそんな感想を持った。
 明確な敵意は、ないらしい。荒神の名前を出してきたこと、それに、身体能力やさっき二人に檄を飛ばした時の様子などから察しても、それなりの実力を持つ一族の者だとは思うのだが……。
『一体、何を考えているのか……掴み所が、ない……』
 雰囲気的に……師匠に似ているな……などと思いながら、楓は、河原へと向かう。
 今の時間のあそこなら、町中よりは人目を避けられるし……それに、多人数を相手にするのなら、見通しよい場所に移動した方が、楓も様々な事態に対処しやすい。
 直接攻撃してこない……という、さっきの女性の言葉を疑う根拠もなかったが、信頼すべき根拠も、同様にないのであった。

「……って、ことだから、わたしは、しばらく口だけ出すってことで……」
 すぐにテンとガクに合流したその女性は、先ほど楓に説明したのと全く同じ内容を、二人に告げた。
「それは、いいんだけど……」
 テンが、口を尖らせる。
「おねーさん……何者?」
 その女性はにこにこ笑いながら、無言のまま、ぶん、と腕を振る。
 走っているテンの頭に、軽く拳があたって、その攻撃を予測することも避けることもできなかったテンは前につんのめって、少し足元がよろけたが、すぐに持ち直した。
「……なっ!」
 すぐ間近でその様子をみていたガクが、絶句する。
 テンを殴った……殴ることが、「可能だった」……ということは、ガクにしてみれば十分に驚愕に値する。
 テンは……例え一族の者が相手であっても、やすやすと直撃を受けるほど、間抜けではない。ガクやノリと比べれば、明らかに身体能力は劣っているのだが……それとて、「三人の基準では」ということであり……その証拠に、今まで合ってきた一族の者の中で、抜け目のないテンを出し抜けることができたのは、それだけの能力がある、と思える者は、ほんの数えるほどしかいなかった……。
「……おねーさん……」
 ガクが、その表情に、緊張をあらわにする。
「何者か知らないけど……ただ者ではないね?」
「いかにも!」
 女性は、にこにこと笑いながら、ようやく自己紹介をした。
「……次代の二宮を支える第一人者、当代の二宮で三番目に強い、小埜澪ってのは、わたしのこった!
 何なら、おのりんとかみおたんって呼んでもいいよ!」
 ……にゅうたんと話しが合いそうな性格だな……と、ガクは思った。
「それから、そこの君!
 わたし、たいした人間ではないんだけど、それでも一応年上だからさ。
 目上の人には敬意を払い、相応の口のきき方をすること。
 もう、そういうことも分かる年齢だと思うし、わたしら一族と今後もつき合うのなら、そういう所、ちゃんとしておかないと、場合によっては命取りになるよ……」
 どうやら……それが、テンをいきなり殴った理由らしい。




[つづき]
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