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彼女はくノ一! 第五話(254)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(254)

 楓が橋にたどり着く頃には、追う側と追われる側の距離は五十メートル以上、開いてしまっていた。
 一旦、橋に入ってしまえば、後は見通しの良い一本道であり、遮蔽物になりそうなものはなにもなくなるのだが、これだけの距離が開いてしまっていては、しかも、全力で走りながら、ということでは、雪玉を投げてもまず命中しない。
 これだけの距離をあけても、なお楓は油断せず、不定期に体を左右に揺すって蛇行している。
 追う側の三人のうち、先頭を走っているテンは、もはや楓に雪玉を投げつけることを諦め、走ることに専念した。
 小埜澪は、そうしたテンの見切りの良さにも好印象を覚えたが、だからといって、これだけ開いた楓との距離がいきなり縮まるものでもない。
 楓はあっというまに橋渡り終え、中州の土手に降り、河川敷へと姿を消した。
 追う側も、少し遅れて、テン、小埜澪、ガクの順に橋を渡りきる。橋を渡りきると、テンは、楓を追って土手上の遊歩道から河川敷へと、躊躇することなく
急斜面を下っていく。
 もちろん、楓は、迎撃体制を整えて待ちかまえていた。足元にいくつもの雪玉を積み上げ、片膝立ちになっている。その姿勢だと、地面に用意した雪玉にそのまま手が届き、連投が可能になるから、だろう。
 事実、楓は、テンの姿が視界に入るのと同時に、次から次へと雪玉を投げつけはじめる。
 テンは、
『これが実戦で、雪玉が投擲武器だったら……失血して動けなくなっているな……』
 とか、
『シルバーガールズの装備があれば、そんな心配もなくなるんだけど……』
 などと、思いつつ、楓が放った雪玉を一つ一つ的確に腕で薙ぎ払い、楓に向けて突進していく。
 すぐ後に、ガクが続いている。
 今、ここで楓の注意を自分に集中させておけば、その分、ガクが動きやすくなる……。
 そういうテンの計算通り、テンの背中から楓に向けて、雪玉が飛びはじめる。楓は、テンへ投げつけるのと同時に、ガクが投げた雪玉にも自分の雪玉をぶつけて、自分に当たるのを防いだ。
 テンが打ち払って粉砕したものと、空中でぶつかり合った雪が砕けたものとで、周辺の空気が白くけぶる。
 そんな中、ガクは腕を振り回しながら、楓に肉薄する。
 近寄ったからといって、今のテンが楓に、まともに対抗できるものとも思わなかったが……それでも、それなりに粘れるだろう、と、テンは想定していた。あるいは、今の時点で、どの程度、自分が楓と渡り合えるのか、知っておきたい……という好奇心も、ある。
 雪を周囲にまきちらしながら、テンが間近に迫ると、楓は一挙動で立ち上がってテンとの間合いを詰め、テンが、
『あっ。やば……』
 と思った次の瞬間には、テンの体は天高く宙に舞っている。

 雪玉を投げつつ、テンに続いて楓に向け殺到していたガクは、途中から楓の姿がテンの背中に隠れたので、雪玉攻撃を中断したまま近づいていくことになった。
 少し距離を置いた場所から、前衛で楓と対峙しようとしていたテンを支援するつもりだったが、この位置では、雪玉を投げれば楓よりもテンにぶつかってしまう。
 そんなガクも、テンと楓が接触した……と、思ったら、すぐにテンの体が宙に舞ってしまったので、いささかあっけにとられた。
 タイムラグがほとんどなかったから、まさに、鎧袖一触。組み合う間もなく、ガクが一方的に楓に投げられた、ということになる。
 楓にしてみれば、荒神に稽古を受けている時、何度も繰り返し投げられた経験により、いつの間にかこうして体で「投げる動作」についても憶えてしまっていたのだけなのだが……動揺しているガクには、そこまで想像を巡らせている余裕がない。
 そして、その楓は、テンを投げ飛ばした後も、いささかも速度を落とさず、ガクの方へと向かっていく。
 このこともまた、テンが足止めにもならなかった事実と同様に、ガクの予想をこえている。そして、テンと同様に、ガクも楓に呆気なく空中に投げ出された。

「……よくやった、子供たち……」
 足を止めて成り行きを見守っていた小埜澪は、簡潔に名乗る。
「当代の二宮、第三位。小埜澪!」
 そして、着ていた白いダウンジャケットを脱ぎ捨てて、楓に向かって殺到した。
 ダウンジャケットを脱いだ下は、鎖帷子姿。しかも、帷子のほぼ全面にびっしりと六角が固定されている。その帷子だけでも相当な重量になる筈で、並の一般人が着込んだら、それだけで身動きがとれなくなっただろう。だが、小埜澪の動きによどみはない。「当代の二宮、第三位」の呼称は、伊達ではないらしい。
 鎖帷子から六角を抜き取って、楓に向かって投じながら、小埜澪は楓に向かって突進する。その六角の速度も、確かに、楓が経験した中では、かなり速い方だった。
 しかし、楓はくないを抜き放ち、難なく、最小限の動きで、飛来する六角の軌道を、ことごとく逸らした。六角がくないに当たる感触が、ひどく重い。
 現在の楓は、最小限の武器しか身につけておらず、潤沢な武装を有する小埜澪とは対等の条件にはない。投擲武器も、節約してここぞという場所でしか使用できない有様だった。
 少し前、荒野に「これかは、楓自身も狙われる」と警告されていたのだが、楓の基本的な性分として、そのことを本気で受け止めることが出来ず、日常的に重い武器を持ち歩くことを、楓は避けるようになってきている。
 そうした自分の態度を「……怠慢だ……」と、楓は思った。
 小埜澪は、何十発かの六角を少し離れた間合いから楓に投げつけたが、その全てが楓によって弾かれると、怪訝な表情をして、何故か、手を休めた。
「……反撃、しないのか?」
 本当に不思議そうなあ表情と声で、小埜澪が、楓に尋ねる。
 楓は、答えない。いや、答えられない。
 自らの不明を告白し、自分の不利を現在戦っている相手に告げる、というのは、あまりにも、愚かな行為だ。
「……そっか……じゃあ……」
 小埜澪も、楓の返事は特に期待しておらず、確認しただけだったようだ。
「遠慮なく、行く!」
 小埜澪は、楓との間合いを一気に詰める。
 六角を多数、投擲しながら、同時に、手足による打撃を繰り出す。何しろ、「二宮」の筋力での攻撃だ。素手であるといっても、侮ることはできない。六角にしろ、手足による攻撃にせよ、まともに食らえば、半端ではないダメージを受けるだろう。小埜澪のシャープな身のこなしは、平素の密度の濃い修練を否が応でも連想させた。
 それでも……。
 楓は、くないで六角を弾きながら、小埜澪の手足をかいくぐって、懐に潜り込む。
 飛来する六角が、いくら速く重い、といっても、孫子のライフルには及ばない。
 小埜澪の体術が、如何に研ぎ澄まされたものでも、荒神の動きとは、比較にならない。
 普段から「もっと凄い攻撃」に慣れ、それをかわしている楓は、難なく小埜澪の手足を避け、かいくぐりくないを握ったままの拳を、小埜澪の水月に当て、小埜澪の突進を受け止める。
 その時の楓の両足は、しっかりと地面を踏みしめていた。
 一拍の間の後、楓は、全身のバネを使って、小埜澪の体をはじき飛ばす。
 全身の力で向かってきた小埜澪を、楓も、全身の力でカウンターに持ち込んだ。
 小埜澪の体が、軽々と宙に飛ぶ。




[つづき]
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Comments

が、がいしゅういっしょく・・・
漢字の勉強にもなってる気がします(笑

と、それだけも何なので
「楓に肉薄しく」→「楓に肉薄する」
とか普段はしないツッコミを。

  • 2006/12/28(Thu) 00:33 
  • URL 
  • にゃん #-
  • [edit]

修正完了。

このパート、出先で一度書いたデータ、操作ミスでデリートしちゃって、家に帰ってから慌てて書き直したんだよな……。
ということで、ミスは修正いたしました。
>鎧袖一触
これ、うろ覚えの単語だんたんで、帰ってから辞書で確認しました。(笑)

  • 2006/12/28(Thu) 00:43 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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