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彼女はくノ一! 第五話(255)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(255)

 目覚ましが鳴って目を醒まし、のそのそと起き出した羽生譲は、片手で目覚ましを止め、もう一方の手で愛用のどてらをまさぐる。どてらを羽織、緩慢な動作で起き上がると、台所へと向かった。
 朝食の準備は、下拵えをすでに誰か準備していて、ほんの少し手を加えれば、すぐにでも食事ができる体制が整っていた。それを確認してから、まだ寝ぼけ眼の羽生は、のろのろと洗面所へと向かう。
 顔を洗いながら、窓の外を確認し、
「……あっ。積もってら……」
 と、呟く。
 雪自体は珍しくはないが、このあたりでは、五センチ以上の積雪は珍しい。
 うがいをしてから顔を洗い、タオルを使ってから、独り言をいう。
「……ちびちゃんたちは、はしゃいでっかなぁ……」
 いつもなら、みんなで元気に走っている時間なのだが、この雪だといつもと同じとはいかないだろう。テンとガクはどっか南の保田育ったという話しだから、今頃、はしゃいで遊び回っているのかも知れない……と、羽生は思う。
 そんなことを考えていた時、ちょうど、玄関の方で物音がした。何人かの声がする。
「さて……遊び疲れて、帰ってきたかな……」
 羽生は、ぼりぼりと寝癖のついたままの頭をかきながら、玄関へと向かう。
「やっ。ども」
 そして、そこで、女性を背負ったどこか軽薄そうなにやにや笑いを顔に貼り付けた若い男に挨拶される。
「……ども」
 とりあえず、羽生は、挨拶を返して、その後、
「ええと……誰?」
 と、首を傾げる。それから、その後に立っていた、楓、テン、ガクをぐるりと見渡し、
「……君たちは、そのままお風呂に直行」
 と、廊下の奥を指さす。
 楓は比較的「まし」だったが、テンとガクは、頭のてっぺんからつま先まで、全身雪まみれ、だった。
「……あの……わたしゃあ……」
 女性を背負った男が、情けない声をあげる。
「……初対面の男を、この女所帯にあげると思う?
 常識として……」
 羽生は、その、名前も知らない男をにらみ返す。
「……ああっと……そうっすね……」
 男は、視線を上空にさまよわせる。
「じゃあ……せめても、こっちのお嬢だけでも……」
 と、背中に背負っている、白いダウンジャケットを羽織った女性を、羽生に示す。
 寝ているのか、気を失っているか、判然としないが、眼を閉じている。
「あ、あの……」
 楓が、助け船を出した。
「胡散臭いし、信用できないのも無理ありませんけど……そんな、悪い人たちではないと……思いますよ?」
 最後の最後で、疑問形になるのは、楓も二人のことをよく知らないからだった。
 しかし、楓には、小埜澪を気絶させた、という引け目があったので、少し強引になっても羽生を説得する必要を感じた。
「……この人、寝てるの?」
 羽生が、目を閉じてぐったりとしている小埜澪を指さす。
「気絶、気絶」
「楓おねーちゃんが勝ったの!」
 テンとガクが、はしゃぎはじめる。
「……つまり……やっぱ、カッコいい方のこーや君の関係者か……」
 羽生が、ぼんやりとした口調で呟く。
 日曜の朝っぱらから、このような形での来訪……まあ、そんなところだろう、と、そう羽生は納得する。
「んじゃ……詳しい話しはまた後でするとして……。
 そこののびているおねーさんは、うちで預かる。おにーさんは、しばらくどっかいっている。
 うちらを信用できなければ、そのまま回れ右して、おねーさん担いで帰る……」
「……あー……まー……。
 妥当な所っすねー……」
 小埜澪を背負った東雲目白が、頷く。
 東雲にしても、気を失っている小埜澪はどこかで介抱してやりたいが、だからといって見ず知らずの一般人家庭に迷惑をかけたいわけではない。
「じゃあ……このおねーさんの許可が出たから、お嬢はしばらく預けていきますわ……」
 そういって東雲は、小埜澪の身柄をそばにいたテンとガクに預けた。
 小埜澪の体を二人がかりで抱えたテンとガクは、「お風呂、お風呂」といいながら、廊下の向こうへ去っていく。
「ここいらで、この時間にあいてるのは……コンビニかファミレスくらいっていってたか……。
 ファミレスにでもいって、時間、潰してます……」
 そういって、玄関から出て行こうとする東雲の背中に、
「……ちょっと、待ったぁ!」
 羽生が、声をかけた。
「その……できれば、ここから一番近いファミレスも、やめておいて欲しい!」
 この家から一番近いファミレス、といえば、羽生の勤務地でもあった。
 東雲は世にも情けない表情になり、がっくりと肩を落として去っていく。
「……あの……ちょっと、かわいそうな気も……」
 口を挟めないまま、おろおろした表情で二人のやりとりを見守っていた楓が、東雲に同情的なコメントを寄せる。
「なに。
 いざとなれば、カッコいいこーや君あたりに相談するさ……」
 羽生は、平然とそう言い放った。
「で……楓ちゃん。
 君たち、朝っぱらから、一体何をやっておったのかね?」
 今度は、楓の番だった。
「……ええっ、とぉ……」
 小埜澪を運び込んできた以上、羽生も知っておいた方がいいだろう……と、思った楓は、玄関先で順を追って、「今朝の出来事」を羽生に説明しはじめる。
 なし崩し的にテンとガクとの雪合戦がはじまり、あの、気を失っている女性が、それに介入してきた。最終的には、女性と楓の一騎打ちとなり、結果、小埜澪が運び込まれることになった。さっきの男は、女性の、付き人だかお目付役だかで……。
 楓自身、あの女性とか男とかの背景を、聞いていないから、実際に説明しはじめると、表面的な出来事の羅列になってしまう。
「……ま、あの人はしばらく休ませるってことでいいけど……後は、改めて、カッコいいこーや君の説明待ちってこったな……」
 楓が説明が要領を得なかったので、羽生は、途中でそういって、説明を打ち切った。
「手当とか必要なら、先生も呼んでおいた方がいいし……」
 楓が必要だと判断するなら、荒野や三島も呼ぶべきだ、と、羽生はいう。




[つづき]
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