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彼女はくノ一! 第五話(256)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(256)

「外傷も骨折も内出血もないから、その辺は大丈夫だと思いますけど……」
 楓が、羽生に説明する。
 医者が必要かどうかは、楓も荒野も東雲も、確認していた。頭を打ったわけでもないので、静かにしていればそのうち目を醒ますだろう、ということで、見解が一致している。
「ただ気を失っているだけか……それじゃあ、お風呂にでもいれれば、眼を醒ますか……」
 蚊での説明を聞いた羽生は、そういって、小埜澪を担いでテンとガクが去っていった方向を見た。

 その風呂には、先客がいた。孫子である。
 香也との行為の後、寝直すにも半端な時間であったし、ガクの鼻を多少ともごまかせるかと思い、昨夜の残り湯を追い炊きして、一人ゆっくり入浴していた。
 そこに、テンとガクが賑やかに会話しながら、脱衣所へと入ってくる。気を失っている小埜澪は、当然のことながら声を発しないので、脱衣所の方に注意を向けていない孫子は、最初のうち、その存在に気づかなかった。
 ただ、テンとガクについて、
『調子に乗って雪遊びして、全身びしょ濡れになったから……』
 風呂で暖まりに来た、という風に解釈している。
 しかし、脱衣所で全裸になって入ってきたのは、テンとガクだけではなかった。
「……誰ですの、その方?」
 孫子は、テンとガクに両脇から支えられている裸の女性について、二人に尋ねる。
「ん。あのね、楓おねーちゃんへのチャレンジャー」
「でね、あっという間に返り討ちになったの……」
 孫子にそう説明しながら、二人は、いっせいの……せっ!、と、かけ声をかけて、小埜澪の体を浴槽の中に放り込む。
 孫子のすぐ隣に盛大な水柱があがり、タオルをもった手で顔に飛沫がかかるのを防ぎながらも、孫子は顔をしかめた。
「……わぁはぁっ!」
 と、声を上げながら、小埜澪が、慌てふためき、湯船の中で棒立ちになる。
「……どう? 目が醒めた?」
 ガクが、にやにや笑いながら、そんな小埜澪に声をかけた。
「……君、たちは……」
 小埜澪は、その声ではっと我に返り、周囲を見渡す。
「ここは?」
 当然の疑問を、目の前の二人にぶつけた。
「みての通り、お風呂。
 ボクたちがお世話になっている家の……」
 テンが、一瞬で冷静さを取り戻した小埜澪に、説明する。
「肩まで浸かって、暖まった方がいいよ。
 体、冷えているでしょ?」
「……そう……だな……」
 そんなやりとりの間にも、気を失う直前の事を思い出したのか、のろのろとその場にぺたんと腰を降ろす。
「そ……か。
 わたし……負けたんだ。
 それも、見事に……」
 ぼんやりとした口調で、そんなことをつぶやく。
 それから、傍らの孫子の存在に気づき、
「……あっ。ども……」
 と、頭を下げた。
「……だいたいの事情は、今のやりとりで飲み込めましたけど……」
 孫子は、三人の顔を見渡して、そういった。
「そろそろ、きちんと名乗り合いませんこと?」
「……そういや……」
「……ボクたちも……おねーさんの名前、ちゃんとは聞いてない……」
 孫子にそういわれて、テンとガクは顔を見合わせる。

 その頃、楓は、羽生と一緒に朝食の支度をしていた。
「……そんな、感じなんですけど……」
 そのついでに、今朝の顛末について、少し詳しく説明したりする。
「……雪合戦がモノホンの合戦みたいになっていった、ってのは、まあいいとして……」
 羽生は、コンロの火を止めて、味噌汁の鍋を持ち上げる。
「結局、後から乱入してきた二人は、どういう人か、よくわかってないんじゃん……」
「それは……そうですが、荒野様が、さっき追い返した男の人と、親しそうに話してましたし……ここにつれてくることに関しても、止めようとはしなかったから、多分、間違いとかはないかと……」
「……うーん……」
 鍋を居間に運び込んだ羽生が、腕を組んで軽く考えこむ仕草をする。
「危ない人たちでないことは確かだから、後は直接話し合えってことかなぁ……」
「確かに……あの女は……なんか、すっきりとした性格の人みたいでした。
 ガクちゃんやテンちゃんに、アドバイスなんかもしていましたし……」
 羽生に続いて、電子ジャーを居間に運び込んだ楓が、そう補足説明をする。
「さっきの男の人も……見た目、軽そうだったけど、玄関で、あっさりと引いていったしな……」
 羽生も、頷く。
「カッコイいこーや君、マンションにひっこんんでいるんだろ?」
「……ええ……」
 そもそも……そんな危なさそうな人なら、荒野が目を離す筈がないのだ……という仮定が、二人の前提になっている。
 その荒野が茅と一緒に、今、マンションにいる、ということは……あの二人が、たいした驚異ではない、と、判断したという証拠に他ならない。
 実は荒野は、「楓一人で小埜澪を制圧できるのだから、戦力差を考えれば、二人が束になってもこの家にいる連中には対抗できない」という即物的な判断に基づいて、二人から目を離しているのだが、楓は例によって自己評価が不当に低いということと、それに、マクロな視野を持とうとしない、という気質により、そうした判断には思い至らない。
「……ま。
 あまり身構えずにつき合ってみろ、ってこってしょ……」
 冷蔵庫から作り置きの総菜を取り出しながら、羽生は、結局、そんな結論をだした。
「そう……ですね。
 まあ、普通に……」
 楓も、現在のこの家の住人分、足すことの、一人分の茶碗と箸を用意しながら、羽生の言葉に頷いた。
「……よし。
 後はやっとくから、楓ちゃん、こーちゃん起こして来て……」
 羽生がそういうと、楓は、
「はい」
 と、頷いた。

 その頃、香也は、「また」成り行きまかせに孫子と関係を持ったことで、自己嫌悪に陥っている最中だった。どうして自分は、こうも誘惑に弱いのだろうか、と。
 布団の中で横になったまま、目も瞑らずににじんまりとして過ごしている。
 香也に言い寄ってくるのが楓のみ、あるいは、孫子のみであったなら、話しは単純だった。
 楓と孫子、そのどちらにせよ、香也にはもったいないほどの美少女であり、性格も、これまたどちらも若干の偏重はあるものの、香也自身の人格の欠落(がある、と、香也自身は思いこんでいる)と比べれば、問題にならない。学校の勉強も、二人とも、香也よりよっぽどいい成績を収めているし、体力とか運動とかいうフィジカルな要因は、それこそ比較する気にもなれない……。
 香也の一体どこが気に入ったのか、この二人が同時に香也にモーションをかけ、それ以上に、二人同時に既成事実を作り上げ、なおかつ、現在に至るまで香也を巡って事あるごとに対立し、張り合っている……。
 そして、香也自身は、未だにどちらか一人とつき合う気には、なれない……。
 いや。
 もっといえば、彼女たちだけではなく、特定の誰かと特別親密な関係を築いている自分、というものが、香也自身、まるで実感ができないし、香也自身にそういう濃厚な人間関係を築く能力があるとは、とうてい思えない……というのが、一番の問題だった。
 あるいは……やはり、楓か孫子、それとも、別の誰かでもいいのだが、誰か一人が香也のことを見つめてくれて、じっくりと時間をかけて関係を熟成していけば、可能な気もするのだが……こと、対人関係、という面において、香也は、極端に自身が欠けている。加えて、通常の友人関係でさえ、ほとんんど実績というものがない。
 香也には、楓や孫子の自分に対する行為が、とても過分に思えて……実の所、かなり重たく感じていた。
「あの……香也様?」
 そんなことをつらつらと考えて、香也がもんもんとしていると、襖の向こうから、楓が、遠慮がちに声をかけてくる。
「もう、起きてますか?
 ご飯が、できたんですけど……」




[つづき]
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