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彼女はくノ一! 第五話(257)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(257)

「……いやー。
 予想以上にすっぱり負けちまったもんなぁ……」
 湯船に浸かった小埜澪は、今朝の出来事を一通り話した後、さばさばとした口調で孫子にそう語った。
「小細工なしで、正面からいって……ああも実力差をみせつけられると、かえってさっぱりするよ……」
 これまでの説明で、小埜澪が、「二宮の第三位」であることも孫子は聞いていた。くだらない虚栄を張るタイプの性格でもなさそうだから、おそらく、この小埜澪に対する、衆目の、一致した評価なのだろう……と、孫子は推測する。
「あの子……あなたからみて、そんなに……」
 孫子が軽く眉を顰めたのは、小埜澪の言葉を疑ったから、ではない。
 一族の水準からみた楓の戦力評価、というものが、部外者である孫子には見当がつきにくかったので、この機会に確認しておきたかったのだ。
「……ああ。
 どう説明したら、わかりいいかな……」
 孫子が具体的にどういう説明を欲しているのか察した小埜澪は、少し考え込む。
「知っての通り……一族は、一般人と比較して、卓越した身体能力を持っている。修練の結果、というのもあるが、多くは先天的な資質により、だ」
 孫子は、頷く。
 そのことは、今までにいやというほど思い知らされている。
「……で、な。
 例えば、防犯設備のことなんか考えても……一般人の平均的な能力を見越して、作られているわけだから……一族の能力というのは、実は、この一般人社会の中では、オーバースペックなんだ。
 別に、術者として凡庸な存在であっても……一般人の基準で考えれば、一種の超人、あるいは、フリークス、なわけだから……それ以上の能力を求める必要や必然性は、ほとんどないといっていい……」
 これにも、孫子は頷く。
「術者としては並」であっても、一般人相手の仕事だけをしている限り、「術者である」というだけで大きなアドバンテージを有している。
「だから……多くの術者は、向上心がない。
 向上心を持つ必要も、ない」
 ここまで噛み砕いて説明されて……孫子も納得する。
 超絶の技巧を持つ術者、など……よくよく考えてみれば、そんな者が存在しても、その存在が有益に働く局面、というのは……ほとんど、ありはしない。
 何故なら……術者として平均的な技巧の持ち主であれば、一族の仕事は過不足なく遂行できるのだから。
「荒神さんとか、わたしとか、さっきの楓さんとか……は、一般人と比較して、オーバースペックな一族の中でも、さらに上をいくオーバースペックなわけで……。
 もちろん、修練の末ようやく獲得した能力や技能を尊重する空気は、古くから一族の中に根付いている。そうでなければ……どんどん、一族が一族として存在するアイデンティティが崩れていって、一般人と同化していっちまうからな。
 だけど……そんな、一族の中でもさらに抜きんでた存在、というのは……尊敬はされるけど、必要とされることは少ない……」
 無用の長物だよ……と、小埜澪は呟いた。若干、笑いを含んだ口調になっていたのは……自嘲する意味も含まれていたのに違いない……と、そばで聞いていた孫子は思う。
 一般人から隔たった存在である一族の中で、さらに隔たった者であり続ける、というのは……一体、どういう気分になるのだろうか……。
 孫子がそんな事をぼんやりと想像している間にも、小埜澪は、話しを続ける。
「さっき、楓さんとやりあった時……。
 納得しちまったからなぁ……。
 ああ、この子なら、荒神さん、弟子にするだろうなって……。
 荒神さん……もう長いこと、ずっと独りだから……。
 自分と同等の存在も、敵になりえる存在もなく……長年、独りっきりで歩いている人だから……そういう寂しさに耐えられる人でなくては、あの人は認めないし、弟子にしない……。
 それこそ、荒野君とか、楓さんとか……あの人の代になってから、ようやく、二人目だもんなぁ……」
 小埜澪は、憧憬と畏怖がないまぜになった複雑な表情を浮かべた。
「……あの人は……もう長いこと、寂しい思いをしている……。
 昔は、何年か前までは、あの人に対抗できる術者も、何人かはいたんだけど……」

「……んー……」
 寝ぼけている声ではない。
「すぐ、起きていくから……」
 口調は、意識がはっきりと覚醒していることを感じさせた。
 しかし、香也はそういったきり、一向に起きてくる気配がない。
「……あの…大丈夫、ですか?
 中に、入りますよ……」
 香也の様子がいつもとは違うことを敏感に感じ取った楓は、襖を開いて中に部屋の入る。
 香也は布団の中にくるまったままで、起きあがろうとした形跡がない。
 それどころか、目を閉じたまま、楓から目を背けるようにして、寝そべったままだった。
「……あっ……あの……気分でも、悪いんですか?」
 香也のそんな態度を目の当たりにして、楓は、胸を突かれたような気分になる。香也は、決して寝起きがいい方ではないが、それでも、この態度は、異常だ。
 楓は、香也に拒絶されているような気分になった。
「……なんでも、ないから……」
 顔を向こうにそむけたまま、香也は、そういう。
 香也にしてみれば、ついさっき、孫子とあんなことがあったばかりであり、きまりが悪すぎて、楓とまともに顔を合わせずらい……ということで、こうして避けている、というわけだが……もちろん、そんな事情は、楓には察することができない。
 何故、今朝に限って、そんな態度をとるのか……そう、香也に詰め寄る代わりに、楓は、顔を伏せて、力のない声をだした。
「……そう……ですか……。
 そう……ですね……。
 今日は日曜だし、ゆっくりとしたいですよね……」
 そういっているうちに、楓の声がみるみる震えてくる……。
 これには、香也の方が、焦った。
「……あっ! あの!」
 そう叫んで布団を跳ね上げ、香也は、跳ね起きる。
「本当、ないでもないからっ!
 全然、元気だしっ!」
 香也はその場で万歳をして、上に掲げた腕をぶんぶん振り回す。そのまま、ラジオ体操でもはじめそうな勢いだった。
 自分でも馬鹿みたいな格好だと思ったが、楓を悲しませるよりはよほどマシだ、とも思う。
 正直……自分の態度に対して、楓がここまで敏感に反応するとは、思っていなかった。
 それから、香也は、突然の香也の豹変ぶりに驚いて、畳の上に正座したまま凍り付いている楓の前に正座し、がばり、平伏する。
「楓ちゃんっ! ごめんっ!」
 と、いきなり謝る。
「……ええっと、その……」
 なんで、香也が謝るのか……と、楓が聞き返そうとする前に、
「実は、さっき、才賀さんと……」
 と、香也はさっきの出来事を、簡単に楓に説明する。
 楓にあんなに心配をかけて、自分もあんなに罪悪感を抱えるのなら、秘密なんて抱え込まない方がいい……と、香也は思う。
 あんな想いをするのなら……すべてを、ありのままを話して、楓に軽蔑された方が、よっぽど気が楽だ、と。




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