2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(174)

第六章 「血と技」(174)

 酒見姉妹を部屋の中に招き入れた荒野は、その場に集まった者たちを、順番に紹介していく。それぞれに、これが初対面の筈だった。

「へっ。
 やっぱり、ブラッディ・ツインズかい……」
 酒見姉妹を紹介すると、東雲目白が揶揄を含んだ声をだした。酒見姉妹は、「変わり種」ということで、一族の中でもそれなりに有名であった。
「ここで一般人の真似事をしようっていうのも酔狂なら、その格好も酔狂だ……」
 東雲は、酒見姉妹のゴスロリドレスを指さして、そんなことをいう。

「……二宮、第三位の……」
「……腰巾着です……」
 荒野が今朝の出来事をかいつまんで説明し、東雲目白を紹介すると、酒見姉妹は先ほどの意趣返しとばかりに、そんなことをいう。
 東雲自身の知名度はないが、彼がつきしたがっている小埜澪は、一族の次世代の担う人材として名を馳せている。このままいけば、将来、小埜澪が、荒神の次に二宮の長になる可能性も、かなり高い……という世評もあった。
「……所詮、一人ではなにもできない……」
「……雑魚なのです……」
 酒見姉妹は、当人を目の前にして、東雲目白のことをそう評する。いわれた東雲の方は、特に憤りを見せることもなく、にやにやと軽薄な笑いを顔に張り付けている。

 最後に荒野は、甲府太介が荒野の前に姿を現してから今に至るまでの経緯を説明した。
 太介が荒野の弟子を志願している、ということを聞くと、酒見姉妹は、
「「……身の程知らずですの……」」
 と、声を揃えて一蹴した。
 今の所、これといった実績を持たない太介は身を竦めて小さくなり、東雲は、面白そうな顔をして、太介の顔を遠慮なくじろじろと眺めた。

 自己紹介が一通り済むと、荒野が東雲に、なんで一人でここに尋ねてきたのか、と、問いかける。荒野自身は、その理由について、かなりの確実な予想を持っているのだが、この場にいる他の面子に聞かせるために、あえて東雲に尋ねてみる。
 東雲は悪びれることなく、隣の狩野家で、羽生に追い出された顛末を語る。
「……だって、女所帯に面識のない、得体の知れない男を入れるわけにはいかない……と、いわれたら……そりゃあ、道理ってもんだし、お嬢の面倒を見てもらう手前もあるし、堅気さんに逆ギレかますわけにはいかんでしょう……」
 一通り、その事情を語った後、東雲はそう締めくくる。
 年の功、というべきなのだろうか、東雲の見識は、妙な所で常識的でもあった。
 長年、小埜澪の相棒を務めているだけあって、軽薄な外見に似合わず、律儀な性格なのかも知れない、と、荒野は思う。

 そんな話しをしている間にも、茅は全員の分のお茶を用意し、酒見姉妹にも手伝ってもらって、朝食の準備をはじめた。準備、といったところで、サラダに使うレタスをちぎって盛りつけする程度のことしか、茅はやらせなかったが。
 酒見姉妹は、そもそも荒野たちと一緒に朝食を摂るつもりでこの時間に訪ねてきたらしいし、東雲も当然、まだ食事にありついていない。この中で朝食を済ませているのは、甲府太介だけだった。

「……そういや、東雲さんたちは、こっちに移住してくる予定はない、って話しでしたよね?」
 話しがひと段落すると、荒野はそう確認した。
 以前、ちらりと聞いた時には、東雲は、
「小埜澪の気まぐれで、仕事の合間に楓に接触するために来た」
 と、いっていた。
「……の、筈なんですが……」
 東雲は、そういって肩を竦めてみせる。
「ぶっちゃけ、お嬢次第、でしょうなぁ……。
 なにせ、気まぐれな方ですから……」
 東雲は、小埜澪に従う立場であり、実際の所は、小埜澪が今後どうするのか、という選択次第になる、という。
「……小埜さんが、心変わりをしないことを祈ろう……」
 そういわれたら、荒野としても、そう答えるしかない。
「それから……太介。
 お前の下宿先のことだけど……」
 荒野としては、立場上、一度挨拶に向かうつもりだった。
 しかし、太介は、荒野に話しを振られた途端、「はつ!」と背筋を伸ばし、荒野が何かいう前に、
「向こうさんから、こちらに一度、挨拶に伺いたい。
 つきましては、都合の良い日時をお教えいただきたい、と、言付かっておりますっ!」
 と、太介は、何故かしゃちほこばって一気にまくしたてた。
「……いや、それ……。
 おれの方から、挨拶に伺おうと思ってた所なんだけど……」
 先をこされた荒野は、そんなことをぶつぶつ呟いた後、
「平日の放課後とか夜なら、いつでもいいよ。
 前もって来ることを伝えてもらえば、その日、予定を空けてとく……」
 といい、それからふと気付いて、
「そういや、お前、携帯とか持ってるのか?」
 と、太介に尋ねた。
 太介はぶんぶんと首を横に振り、逆に荒野の連絡先を聞いてくる。
 荒野は自分の携帯の番号をメモして太介に渡し、
「……緊急の時、連絡取れないと不便だから、お前用の携帯を手配する」
 と、太介に申し渡した。
「……面倒見のいいこった……」
 そのやりとりを見ていた東雲が、この状況を明らかに面白がっている表情で、そういう。
「なんかね。
 こういう太介みたいなパターン、多いんで、慣れてえ来ちゃいましたよ……」
 荒野は軽くそう答えて、肩を竦めた。
 荒野が直接面倒をみる羽目になったのは、楓と、テン、ガク、ノリの三人につづいて、太介で五人目。いい加減、必要な手配にも、慣れてきている。
「……東雲に、聞きたいことがあるの」
 今度は茅が、ベーコンエッグの皿を東雲の前に置きながら、そういう。
「茅は、一族の内情に、詳しくないの。だから、不躾なこととか、タブーに触れる質問については、別に答えてくれなくても構わない。あくまで、東雲が困らない範囲で、答えて欲しいのだけど……」
 茅は、そう前置きして、ずばり、核心を突いてきた。
「……東雲は、先代という人に、小埜澪を託された……と、いってた。
 その先代、って、具体的に、誰のこと?」
 茅の口から「先代」という単語が出ると、それだけで、東雲と酒見姉妹が、目に見えて全身を緊張させる。
 太介だけが、話しが見えないようで、その場の雰囲気が何故変わったのか、よく呑み込めていないらしく、しきりに瞬きをくりかえして周囲をみわたしていた。
 荒野は、全員の反応を、興味深そうな表情をして、観察している。
「……それから、もう一つ。
 東雲は……一族の者、だと思うけど……。
 今朝、小埜澪に加勢するわけでもなく、見物していただけだった。茅がこれまで見た中で、こういう行動パターンをみせた術者は、いない。
 東雲は……どういう術者なの? 六主家の血筋? それとも、仁木田たちのような、非主流派の、特殊な術者なの?」
「……いやぁ……。
 実に的確に、痛いところをついてくるなぁ……」
 しばらく間をおいて、東雲は苦笑いを浮かべつつ、しゃべりはじめた。
 不自然な緊張が完全にほぐれた訳ではないが、なんとか平静な態度を保とうと務めている。
「……まず、前の質問ですが…。
 これは、答えるのが、かなり難しい。でも、完全にタブーってわけでもない。先代については、ある程度キャリアがある術者なら、誰でも知っているこってす。
 ですが、その事実を知っている誰もが、ある理由により、そのことについては、口を閉ざしますが……。
 あれ? そうすっと、やはりこれもタブーの一種なのかな?」
「……そっちの質問に関しては、東雲さんがいいにくいようなら、代わりにおれが答えてもいいよ……」
 荒野が、そう口を挟んだ。
「……でも、もう一つの質問、東雲さんがどういうタイプの術者かっていうのは、おれも興味があるな……。
 場合によっては、死活問題になることもあるから、答えたくなければ無理に答えなくてもいいけど……」
「その質問に関しては……茅にも、少し推測していることがあるの」
 茅は、東雲の目を見て、そういった。
「……どうぞ。
 推測なら、いくらでもご自由に、おっしゃってください……」
 東雲は、少しひきつった笑みを浮かべた。
「根拠となりうる条件がいくつか。
 小埜澪は、二宮第三位といわれる実力を持つ。
 しかも、バーサーカー・タイプ。いつ暴走するかわからない、危険性を秘めている。
 東雲は、先代という人によって、その小埜澪のセーフティとしての役割を負わされた。そのおかげで、今にいたるまで、小埜澪と行動をともにしている。
 しかし、今朝、東雲が小埜澪と一緒に楓と戦っていなかったことからも分かるように……一緒に行動をしているといっても、必ずしも小埜澪と肩を並べて共闘するわけではない。
 だから、東雲はもっぱら、暴走した小埜澪を無力化する能力を保持し、保険、ないしは安全弁として、付き従っている……」
 茅がそこで言葉を切ったので、東雲は無言で頷いて、先を即した。
「……以上の所条件から導かれる結論として、妥当な解は……東雲は、佐久間の能力を持っていると思うの……」




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび



Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ