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彼女はくノ一! 第五話(258)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(258)

 香也の口から、「つい今し方、孫子と、ここで関係を持った」ということ聞いた楓は、そのまま畳の上に平伏し続けている香也を見て、軽くため息をついた。
「……あの……それって……」
 それから楓は、顔を上げようとしない香也に向かって、声をかける。
「才賀さんが、香也様の意志を無視して、無理矢理やったことなんですか?」
「……起きたら、ほとんど裸で……裸になった才賀さんがぴったり抱きついていて……」
 香也は、顔を伏せたまま、楓に答える。
「……我慢できなかった……。
 ごめん……」
「……いや……謝られても……」
 楓は、いたたまれなくなって、香也から眼を逸らす。
「あの……香也様が好きでそうしたのなら……わたしが、何かいう権利とか、ないですし……」
 香也から眼を逸らしてそんなことを話しているうちに、楓の感情も高ぶってきて、声も震えてくる。
 楓の胸中は、複雑だった。
 香也を独占したいという気持ちは強い。だが、そもそも自分だって今までさんざん、勢い任せ、成り行き任せのまま、香也と関係を持ってきたわけで……その時々に、本当に香也の気持ちを考慮してきたかというと、それはかなり、あやしい。他ならならぬ楓自身が、そのことをよく弁えている。
 だから、香也が孫子なり他な女性なりと関係を持ったことで、楓が怒る、というは、筋違いだと思っている。
 ……少なくとも、理性では、そう納得してはいる……。
「そもそも……なんで、わざわざ、わたしにそういうこといって……なんで、ごめんって謝るんですか?
 それって……無理矢理じゃなかったら、才賀さんと香也様の問題ですよね?」
 別に楓とつき合っているわけでもないのに、香也は、何でそんなことをわざわざいうのだろう……と、楓は不審に思う。
 内緒にしていれば、いいことなのに……少なくともこんな、自分がむしゃくしゃすることはないのに……。
「……いや……そういわれれば……それは、そうなんだけど……でも……」
 香也は、ごにょごにょと不明瞭な声で、楓に反駁する。
「でも……その、楓ちゃんに、こういうこと内緒にすると……なんか、ぼく自身が……気分悪いから……。
 楓ちゃんが、こういうこと知れば、いい気分をしないのは分かっているけど……。
 こういうの……嘘でも突きとおした方が、うまくいくのかも知れないけど……そういうのって、表面を取り繕っているだけのようで……ぼくが、気持ち悪いし……。
 なんていうか、その、うまくいえないけど、こういうことで、楓ちゃんに嘘をついてたら……突きとおしてたら……ぼく、どんどんつまらない人になっていくような気がする……。
 堂々と、楓ちゃんと、普通にはなせなくなるっていうか……」
 訥々とした香也の言葉を一通り聞いた、楓は、何度か深呼吸をして、自分の気持ちを落ち着かせる。
 その正否はともかくとして……香也は香也なりに、自分に対して誠実であろうとしてくれている……そのことは、楓にも理解できた。
 口べたな香也が、ここまで長々と自分が考えていることを他人に言って聞かせる、というのも、前代未聞だろう。
 それで、楓の複雑な心境が整理されるのか、といえば、それはまだ別の問題なのだが……。
「……もう……。
 顔を、あげてください……」
 深呼吸して、気持ちを落ち着かせた楓は、しゃがみ込んで這いつくばるような姿勢のままの香也の肩に手を置いて、声をかけた。
 楓の声が意外と穏やかなのに安心して、香也は、おそるおそる、顔をあげる。
 すると、ふわり、と柔らかい塊が、香也の肩に抱きついてきた。
 無防備でいた香也の口唇に、楓の口唇が、押しつけられる。
 時間にすれば、ほんの数十秒のごく短い時間で、楓は立ち上がって香也から体を離した。
「……はい。
 これは、みんなには、才賀さんにも、内緒にしてくださいね。
 二人だけの、秘密です……」
 そういって、楓は呆然として蹲っている香也に、手を差し伸べる。
 思考が停止している香也は、のろのろと楓が差し出した手に自分の手を重ね合わせる。
 楓は、軽々と香也の体を引っ張りあげ、助け起こした。
 香也が立ち上がると、それまで香也を見下ろしていた楓の視線が、今度は、香也の目線の少し下、くらいになる。
「……さ。
 朝ご飯の用意ができてますから、居間に行きましょう……」
 そういって、楓は、香也の手を握ったまま居間へと向かい、香也は、引っ張られるまま、その後に続いた。

「……おっ」
 居間に着くまでの途中で、見覚えのある羽生のスェットを来た若い女性に声をかけられた。
「……あれ……この人が、例の?」
 香也がはじめてみるその女性は、後にいた孫子やテン、ガクたちに向かって、そう声をかけている。
 痩せてもなく、かといって、太っているわけでもない、中肉中背。
 均整のとれた、標準的な体格で、何かスポーツでもやっているのか、顔が真っ黒に日焼けしている。なぜ、日焼けと断定できるかというと、胸元とか首の付け根、手の部分の肌色が、抜けるように白いからだ。サイズの合わない羽生の服を借りているからか、その女性の胸元は少し広めに開いていて、日に焼けている箇所とそうでない箇所の違いが、くっきりと判別できた。
 すぐにそんなところをじろじろと観察するのは、無遠慮な行為だ……と、思い直した香也は、慌てて視線をそらせた。
「……そっちも色々、大変なようだけど……」
 孫子たちが頷くのを確認してから、その女性は、意味ありげなにやにや笑いを浮かべて、ばちーんと香也の肩を平手で強く叩く。
「頑張れよ! 色男っ!」
 その外見から似つかわしくない馬鹿力でいきなり肩をひっぱたかれ、よそ見していた香也は、大きく体を泳がせる。
 そのまま倒れ込みそうになった香也の体を楓が抱きとめると、香也の肩を叩いた女性の後にいたテンとガクが、
「……あっー!」
 と、大声を上げる。
 テンとガクの後にいた孫子が、引き攣ったような表情を浮かべていたのを、香也は見落とさなかった。




[つづき]
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