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彼女はくノ一! 第五話(259)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(259)

 小埜澪というお客を迎えたこともあり、その日の朝食はかなり賑やかなことになった。テンとガクも、「朝飯前」に活発な運動をしたせいか、いつもよりテンションがあがっている。楓と孫子、それに羽生は、小埜澪の質問に答える形で、ここでの生活について、特に、荒野が「一般人の中で、自分の正体を隠さずに暮らす」という選択をした経緯について、また、その事に、周囲の人々が示した反応について、詳細に語った。
「……そうか……。
 思ったより、その、無理矢理ってわけではなく……それなりに、受け入れられているんだな……」
 一通りの説明を聞いた小埜澪は、愛想よく笑いながら、頷いた。
「それについては……荒野様は、いつも、運がよかった、回りに恵まれていた……と、申しております」
 楓も、小埜澪の言葉に頷く。
「回りに恵まれていた……というより……あの学校も、たいがい、変人の集まりですから……あまり目立たなかったというだけではありませんの……」
 といったのは、孫子だった。
 おそらく、玉木や徳川のことを想起しながら「変人」という語彙を使用したのだろうが、自分のことを度外視しているのは相変わらずだ。
「いや、楽しい学生生活で、なによりだ」
 小埜澪は、真面目な顔をして、孫子に頷いてみせる。
「わたしは、学校というものに通った事がなかったからなぁ。なんか、堅っ苦しい場所、というイメージが先行していて……回りにも、通えと強要してくる大人がいなかったし……。
 そういう楽しそうな場所だと分かっていれば、素直に通ったのだが……」
「……う、うちの学校は……結構、特殊な例で……一般的な学校とは、少し違うと思いますけど……。
 生徒も先生も、ちょこっとづつ、変わっていますし……」
 楓は、少し引き気味になって、小埜澪にそういう。
 ここで、「学校」についての間違ったイメージを持って欲しくなかった。
「……普通の学校は……学生の中にマッドサイエンティストがいたり、放送部が大がかりなネット配信とかしたりしませんし……」
「……つまり、君たちの学校だけが、例外的に面白い場所だ、と……」
 小埜澪は、真面目な顔をしてうんうんと頷く。
 その、小埜澪の表情をみて、楓は、どんどんどつぼに嵌っていくような気分になってきた。本能は、楓に「危険」と告げているのだが、何がどう「危険」なのか、イマイチ明瞭にわからないもどかしさを、楓は感じている。
「……学生、いうても……おねーさんの年齢だと、大学生くらいっしょ?
 外見的に……」
 羽生譲は、小埜澪の外見から「自分より少し年下、くらいかな」と見当をつけていた。「柏の姉の方とか、この間の、グラサンのお茶おねーさんとかと同じくらいかな」と。
「……あー。
 そっかぁ……年齢的には、確かに大学に通っていても、おかしくはないなぁ……わたし……」
 当の小埜澪は、他人事のような口調で、そんなことをいう。
「っていっても、大学は、ちょっと雰囲気が違うっていう話しだし……。
 普通の社会とあまり隔たりがなさそうで、かえって面白くなさそうだ、というか……」
「……大学は大学で……普通の社会人になる前の、不完全な大人としての猶予期間としての魅力があると思うけど……」
 そういう羽生自身は、家庭の事情もあって、大学には通っていない。
「小埜さんの場合は、そういう途中過程すっとばして、立派に社会に根ざした生活をしているわけだから……それで、いいんじゃないですか?」
 そういう羽生は、自分の祖父の代まで限りなくグレーな家業に従事していたので、一族の仕事に関しても、特に賎業であるとは見なしていない。どんな汚れ仕事でも、ニーズがあるから存在できる、という考え方で、そうした仕事が存続できる社会構造のことを度外視して、実際に手を汚している者だけを蔑視するのは、あまりにも自分本位すぎる価値観だ……という考え方だった。
 荒野や小埜澪が、過去、あるいは現在、どんなことをやっていても……自分個人の欲望を解消するために世の中の規範を徒に乱すのと、「仕事」として請け負ったことを割り切って遂行するのとでは、意味や重みが異なる……と、羽生は思っていた。
「……まあ……社会に根ざしているといえば……それは、そうなんだけどね……」
 一族の仕事をそのようにいわれてしまうと、小埜澪も、苦笑いするしかない。
 小埜澪が請け負うのは、主として荒事、つまり、流血沙汰になりやすい仕事であるわけだが……一族が介入した場合と、介入しなかった場合、両者を比べてみれば、前者の方が、よっぽど「スマート」で、「全体の被害が最小限に抑えられる」、というのは、確かに事実なのだ。
 そうした事実を積み重ねて、信頼を築いて来なかったら……一族はここまで存続しておらず、当の昔に干上がっている。どんなに卓越した能力を持っていても、それを役立てる方策を持たなければ、飢え死するだけだった。

 そんな話しをしながらの朝食が済んでも、なんとなく皆で居間に居座っていた。
 ガクがテレビをつけると、ちょど「メイドール3」がはじまるところだった。時期的に、「メイドール3」は、最終回直前の、最後の盛り上がりの回だったので、見逃すことが出来ない。
 食器を片づけた羽生や楓が、そのままお茶を用意する。
 とはいって、茅や野呂静流がいれるような、凝ったり高級だったりするわけでもなく、普段飲んでいる平々凡々たるお茶を、特に工夫もなく急須で湯飲みにわけていれるだけだったが。
「……こういうの、落ち着くよね……」
 湯飲みを傾け、そのような「ごく普通のお茶」に口をつけて、小埜澪はそういう。
「それから……彼女たち、こういうのやっているんでしょ?」
 と、「メイドール3」を映し出しているテレビと、その番組を食い入るように見ているテンとガクを指さす。
「……やってる、やってる」
 番組に夢中で答える余裕のない二人に変わって、羽生が答えた。
 編集が終わった端から、ネットで配信しているので、隠しようがない。「シルバーガールズ」関連のコンテンツは、テンとガクが語学に堪能なのをいいことに、英語と中国語のナレーションや字幕をつけたバージョンも同時に複数の動画共有サイトにアップしている……ということを、羽生は知っていた。
「……なんか、全世界規模で、ごくごく狭いマニア層に受けがいい、ってタマちゃんがいっていたな……」
 その「シルバーガールズ」が、今後、どのような波及効果を生んでいくのか……この場にいる人間の中で、そのことを予測できる者は、誰もいなかった。




[つづき]
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