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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(176)

第六章 「血と技」(176)

 その朝の朝食の様子を、甲府太介は畏れと驚きをもって見守っていた。太介自身は、下宿先で朝食を摂って来たので、ソファに腰掛けてお茶だけを喫している。
 荒野が痩身に似合わぬ大食らいだ、とうことは知っていた。が、その荒野に負けず劣らずの健啖ぶりを発揮しているのが、痩せているばかりではなく、背も小さい。年下の太介とそう変わらない背格好の、酒見姉妹だった。実年齢よりも幼く見えるほどだが……実に、よく食べる。
 トースト二枚とサラダを平らげただけで「ご馳走様」とテーブルから降りてソファへと移動したのは、東雲目白だけだった。
 茅は、残りの欠食児童たちに食物を用意するのに忙しく、トースターだけでパンを焼くのが間に合わないので、フライパンを持ち出してフレンチトーストも作り出した。
 養成所にいた時、当番制で食事の用意をした経験がある太介が「手伝いましょうか?」と立ち上がると、即座に茅に「お客さんだから、いいの」と断られた。
 そうして小一時間ほどして、怒濤のような食事がようやく終わった……と、思ったら、今度は酒見姉妹が「ケーキ!」をリクエストした。自分たちが土産に持ってきたものだ。
 それを聞いた太介は、ソファの上でずっこけそうになった。
 ……まだ食うのかよっ! と、内心で叫び声をあげる。
「……甘いものは、別腹だしな……」
 荒野までがそんなことをいって、茅がいれた紅茶を啜っている。
「……お前、そんなに驚くことか?」
 太介が愕然としている様子を、東雲は面白そうに眺めていた。
「うちとこのお嬢もこんくらい食うから……これくらいが二宮系の標準だと思ったけど……一応、お前も二宮系だろ?」
 太介は、ぼんやりと頷く。
 この場にいる中で、荒野、酒見姉妹、そして、太介自身が、二宮の血を引いていることになる。
「「……傍流……」」
 酒見姉妹が、声を揃えて太介を指さした。
「……まあ、同じ二宮系でも、個人差が大きい、ということだな……」
 東雲は、そういって紅茶をすする。
「そういわれても……おれ、他の二宮、ほとんど知らないし……」
 太介は早くに両親と死に別れて、養成所で育っている。養成所にいる大半の者は、楓のように資質を認められた孤児であり、太介のような一族の出身者は、どちらかというと少数派だった。
「……二宮だ、一族だ、といっても……一人一人、違う……」
 東雲は、同じソファに座る太介を横目でみて、にやりと笑った。
「お前さんがまだ何も知らない、白紙の状態なら……余計な先入観なんか、持たない方がいいな。
 一族も一般人も……多少の差こそあれ、同じ人間だよ……。
 細かい差など、あまり気にしなさんな……」
「……それ……アドバイスってやつですか?」
 太介が、隣に座る東雲に顔を向ける。
「……そ。アドバイス。
 年上の先輩のいうことは、素直に聞いておきなさい……」
 東雲は、にやにや笑いを浮かべたままでそういったので、どこまで本気で太介に忠告しているのか、太介には判断できない。それに、先ほどの、食事前のやりとりからも分かる通り、この中で、東雲という男が一番、得体が知れない存在だった。
「……いちおう、聞いておきます……」
 太介としては、そう答えるほかなかった。
「……結構、結構」
 東雲は、そういって大仰な動作で頷いた。
「他人のいうことは、鵜呑みにしない。
 一応聞いておいて、後で真偽を自分で確かめる……正しい態度だ。特に一族の間で、化かし合いや騙し合いは日常茶飯事だからな……」
 まるで、「自分のいうことは、信用するな」といっているようにも、聞こえた。
 メイド服の茅が、そんなことを話している太介と東雲の前を通って、とことことテレビに近づき、スイッチを入れる。
 騒々しくて馬鹿馬鹿しい歌詞のテーマソングが流れ、テレビの画面に「奉仕戦隊メイドール3」のロゴが大写しになる。
 茅はそのまま、テレビの直前の床に、ぺたん、と座り込んだ。
「……この番組、茅が大好きなんだ……」
 その場にいた連中があっけにとられているのを見て、荒野がそうフォローする。
「毎週、楽しみにしている……」
「……ま、まあ……」
「……趣味は、人それぞれですし……」
 酒見姉妹は、戸惑った口調でそういいながらも、じっとお子様向けテレビ番組に見入っている茅から不自然に視線を逸らしている。
「……例のあれ、ネットでやっているシルバーなんたらってのも、この子の発案か?」
 東雲は、荒野に向かってそう尋ねた。
「あれ……一族の間で、かなり話題になってるぞ……。
 こっちの新種は、とんでもない目立ちたがりだって……」
「シルバーガールズは、おれの預かり知らないところでいつの間にか動いていた企画だから……おれは、詳しい事情を知りません……」
 荒野は、正直にそう答えておく。
「……でも……。
 どう、ですか?
 その、一族の間では、あれ……感触っていうか……」
「……賛否両論、ってところだな……」
 東雲は、荒野の眼を正面から見据えて、そういう。
「やつら新種が勝手にやっていることだから、一族には関係ない……って意見もあったが……仁木田の一党までもが、顔出しで出ているからなぁ……。
 あれ、これから、本格的なリアクションがでてくると思うぞ……」
「……そうっすよねぇ……常識的に、考えれば……」
 東雲の見解を耳にして、荒野は、そっとため息をつく。
 本心では「あいつらが勝手にしたことだから」といいわけしたい所だったが……外から見れば、荒野とテンやガクは、つるんでいるように見えるだろう。行きがかり上、とはいっても、テン、ガク、ノリの三人、いわゆる「新種」たちの世話を、荒野が焼いているのは、一族の中では周知の事実だった。
「ま……そっちの方は、できるだけ奴ら自身に始末つけて貰いましょう。
 奴らだって、それなりに考えなしってわけでもないし……」
 そういいながら荒野は、「……考えはあっても、世間知らずな所もあるよな……あいつら……」とか、思っている。
「……加納の若も……ご懸念が多そうだ……」
 東雲は、そんな荒野の考えを見透かしたようなことをいう。
「……懸念っていうか……」
 荒野は、真面目な顔をして、頷いた。
「個性的なやつらばかりで、次に何が起こるか、まるで予測がつかないので……先のことを懸念している暇もありません」




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