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彼女はくノ一! 第五話(260)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(260)

 テレビ番組「奉仕戦隊メイドール3」が終わったのを機に、まったりとお茶を飲んでいた香也が立ち上がって玄関の方に歩いていく。他の炬燵を囲んでいた他の住人たちもぞろぞろと立ち上がって、それまでののんびりとした雰囲気から、にわかに忙しない風情に移っていった。
「……なに、今日は、みんな休みなんじゃあ……」
 小埜澪が、狼狽した声をあげる。
「……わたしのお仕事は、土日関係ないっすから……」
 そういって片手を上げたのは、羽生譲である。いいながらも羽生は、身支度を整えるため、自室に引き上げていく。
「ほかの人たちも、いろいろ用事あるし……」
「みんな、すぐ出ていくから、手早く掃除だけでも……」
 テンとガクはそんなことをいいながらも、掃除機や雑巾掛けの準備をしている。二人とも、いつもやっている手慣れた作業だから、手際が良かった。
「……わたしは、お洗濯……洗濯機、回しておきます……」
 楓が、そういう。
「香也様の、お昼の用意をしておかなければ……」
 孫子が、台所に駆け込む。
 香也はおそらく、また一日中プレハブに籠もっているのだろうが、楓も孫子も、外出する用事があった。台所に食べ物を用意しておけば、この家に、他に誰もいなくても、香也が飢えることはないだろう。
「そ、そうか……」
 小埜澪は、急な雰囲気の変化に戸惑いながらも、そういって頷いた。
「じゃあ……せめても、掃除の手伝いでもしていくかな……。
 あれ、食事とか風呂とか、世話になった分でも……」
 誰も、「お構いなく」などといって、小埜澪を止めはしなかった。
 別に手を抜いているわけではないが、この家は、住人の数に比べていささか大きすぎるので、気を抜くと、どこかの隅に埃がたまっていたりする。掃除を手伝ってくれる、という申し出は、実の所、ありがたいのだった。

「……んー……」
 いつもの通り、プレハブ入って、古ぼけた灯油ストーブに灯油をくべる。イーゼルの前に座り……そこで香也は、腕を組んで、一人、うなり声をあげはじめる。
 今朝は、孫子とのアレとか、楓とのナニとかの件で、香也もいろいろと動揺していた。
 雑念が多すぎて、いつものように、平静な気分で、キャンバスに向かい合うことが、できそうもない……。
「……んんっ!」
 一人、しばらく唸り続けた香也は、自分の頬を両手でぴたぴたと軽く叩いた。
 そして、いそいそと絵筆の準備をしはじめる。
 今ここで、一人で考え込んでいても、何も解決しない……ということは、確かだった。
 そもそも、香也は、人間関係について考察する事が得意ではない。考察するのに必要な経験や知識にも、事欠いている有様だ。
 楓や孫子のことを、ここで一人、くよくよ悩んでいたところで妙案が浮かぶとは思えない。それこそ、下手な考え、休むに似たり、だ……。
 そう思った香也は、「考えること」をやめ、「今、自分に出来ること」に専念することにした。
 香也は、イーゼルの上にスケッチブックを立てかけ、鉛筆を走らせる。
『……所詮……』
 と、香也は思う。
『……所詮、今のぼくに出来るのは、せいぜい、この程度のことでしかないんだ……』
 現在の香也には、絵しか、取り柄がない……と、香也自身は、思っている。
 で、あれば……。
『……彼女たちの今を、紙に焼き付ける!』
 自分に好意を寄せている楓や孫子に対して、今の香也ができるのは、そんなことくらいだ……と、香也自身は思っていた。

 まず、最初に、勤務先のファミレスに羽生譲が出勤し、次に楓とテン、ガクの三人が「ボランティアに行く」といって出かけた。最後まで残った孫子も、「……所用がありますので……」と言い残して家を出ていく。
 庭にこの家の息子が残っているとはいえ、初対面の小埜澪一人を残して平然と母屋を空ける。この家の住民は、揃って人がいいのか、図太いのか……。
 最年長の羽生譲は、「いたければ、別にいつまでいてもいいけど……」といい、テンとガクは「ご飯食べたんだから、その分働いていって……」と遠慮なく小埜澪をこき使った。楓は楓で、家を出る間際に「昼以降もここに残るのなら、お昼の時間に、庭のプレハブに香也様を呼びにいって貰えますか? 香也様、夢中になると時間がたつのも忘れちゃうから……」と言い残し、孫子は、「もし、香也様になにかあったら、その時は……」と、意味ありげに微笑んだ。
 そんなわけで小埜澪は、まだ早い時間に一人ぽつねんと母屋に取り残される。全員が出払っても、まだ九時前だった。日曜のこの時間、ということであれば、普通の学生や勤め人の多くは、まだ起きてさえ、いないかも知れない。
 とりあえず、小埜澪は洗濯機から洗濯物を取り出し、それを風呂場の脱衣所に干す。いつもは外に干すそうだが、今日のように雪が積もったり雨が降っているときは、ここに干すのだ、と、そう聞いていた。確かに、脱衣所の天井付近に、洗濯物を干すのに適したひもが張り巡らされている。
 洗濯物を干し終えると、小埜澪は、廊下の雑巾掛けをはじめた。掃除に関しては誰に頼まれたというわけでもないのだが、ここの住人が出払っている最中に台所や冷蔵庫をいじくり回すよりは抵抗がない。それに、体を動かすことが好きな小埜澪は、この家の古風な板張りの廊下を、端から端まで雑巾掛けしていくと、無心になることができた。家自体が広いので、雑巾掛けもやりがいがある。他の住人が出払っていて、誰にもぶつかる心配がなく、のびのびと雑巾を掛けることができた。
 各部屋については、さすがに立ち入るのはばかるので、掃除をするのは遠慮しておいた。荒神も、週に何日か寝に帰る……とは、聞いていたし、荒神の部屋がどこになるのか、気にならないでもなかったが……どうせ、あの人のことだ。最小限の荷物しかなくて、がらんとしているだけだろう……とも、思う。
 廊下の掃除が終わって、居間にもはたきと掃除機をかけ終わると、ようやく昼になった。
 これまた古風な、ゼンマイ式の柱時計が「……ぼーん……ぼーん……」と時を告げたので、ふと見上げると、短針と長針が真上を指して重なっている。
「……もう、こんな時間か……」
 ひとりごちて、「そういや、この家の息子を呼びにいくんだったな……」と、楓にいいつけられたことを思い出した。
「そういや……庭にいるとか……」
 いっていたな、と思いながら、小埜澪は玄関に出て、そこで適当なサンダルを足にひっかけ、外に出る。
 玄関を空けた途端、外気の冷たさに首を竦めた。
「……寒い、寒い……」
 と首を竦めながら、小埜澪は雪を踏んで庭へと回る。一般人とは違い、寒さにもそれなりに耐性がある身だが、そういう態度をとることが習いになっている。
 玄関を出て、母屋にそってぐるりと回れば、すぐに庭に出た。大きな家、といっても、決して豪邸といえる規模のものではない。庭や敷地の広さ、標準よりは確かに広めであったが、やはりそれなりのものだった。
 物干し台の他に、ぽつねんと建っているのは、どうみても物置にしかみえないプレハブだった。
 それ以外に、「庭のプレハブ」らしきものはないから、何故かモテモテのこの家の息子は、この中にいるのだろう。
「……おーい、息子さんやー……。
 ご飯の時間ですよー……」
 そう声をかけながら、小埜澪は、プレハブの中に入る。
 香也は、小埜澪が入ってきたことに気付いたのか気付かないのか、顔も上げずに一心不乱に鉛筆を走らせている。
「……おーい……。
 聞こえてるか……」
 いいながら、小埜澪は、ずかずかとプレハブの中に入り込んで、香也の背中から香也の手元を覗き込んだ。
 これで本当に聞こえていないのなら……本当に、たいした集中力だな……と、思いながら。
 そうして香也の手元を覗き込んだ小埜澪は、
「……わっ!」
 と、驚愕の声をあげる。
 香也が広げているスケッチブックには、大小さまざまな楓と孫子の裸体がひしめき合っていた。
 それも……いわゆる、芸術的なポーズをつけた裸像ではなく、人目でそれとわかる、媚態や狂態を示した、楓や孫子が。
 おそらく……香也との行為の最中の記憶を頼りに、その時に見た二人を、紙に起こしているのだろう……。
 それ以外に解釈のしようがない絵を、真剣な顔をして、この家の息子は描いていた。




[つづき]
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Comments

笛吹き童子

絵笛?

…絵筆かな?

  • 2007/02/01(Thu) 20:48 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

筆拭き童子

絵笛 → 絵笛
っすね。
修正しました。
ご指摘感謝。

  • 2007/02/02(Fri) 01:43 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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