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第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(261)
家を出ていくらもしないうちに、三人の携帯にメールが入った。例のボランティアに登録した者、全てに配信される「お知らせメール」だ。この日は、本来、倉庫街の近辺に放置されているゴミを片づける予定だったのだが……。
「……あー……」
「やっぱりねー……」
テンとガクは、自分の携帯の画面を覗き込みながら、そう呟く。
「雪かきに予定変更」、と、そのメールは告げていた。
「……今日は……そっちの方が、先決ですものね……」
楓も、メールの文面を見ながら、いう。
周囲は、一面の銀世界。たかが十センチに満たない積雪、とはいえ、雪が降ること自体が珍しいこのあたりでは……。
「……あっ……コケた……」
たまたま、少し先を歩いていた中年女性が、雪に足を取られて転んだ。三人は、慌ててその女性に駆け寄って、助け起こす。
もちろん、三人は雪に足を取られる、などというへまはしない。
「……このあたりの人は、雪に慣れていないから……」
その女性を助け起こしながら、楓はテンとガクにそういう。
そうこうする間にも、三人の携帯に新たなメールが着信する。
「……商店街に行けってさ」
「シルバーガールズの格好で……って、一度、徳川さんの工場によらなければ駄目かぁ……」
「わたしは、直接、向かいます」
三人は、そんなことを言い合いながら、顔を見合わせる。
今度は、茅のメアドから直接配信されたメールだった。イベントの開催期間中であることあり、商店街の店舗が開く十時頃まで、駅周辺の道からきれいに雪をどけておきたいらしい。
楓は、テンとガクと別れて商店街に向かう。
その途上で、荷台に十人ぐらいの人を乗せたトラックが一度楓を追い越して、停車した。
「……松島さんも、商店街ですか?」
運転席から顔を出した女性が、楓にそう声をかけてくる。楓は、一瞬、その女性が誰だか分からなかった。
「……おい、あの子だよ」
「最強のお弟子さんだよ……」
が……にわかに荷台に乗っていた人たちが楓を指さしながらざわめきだしたのに記憶を刺激され、数日前、ほんの少し顔を合わせただけの人物を、ようやく思い出す。
「……敷島さん!」
楓が、トラックに近寄りながらそういうと、
「ご名答……」
どうみても、これから出勤するOLにしか見えないメイクと服装の女性が、自分の名前を思い出した楓に、ひらひらーっと手を振る。
よく見ると、荷台にいるのは、あの日、工場に集まっていた一族の者たちだった。
ちなみに、トラックの荷台に人を乗せるのは立派な交通法違反なので、よい子のみんなは絶対に真似しないでね。
「……なんなら、松島も乗っていくか?
どうせ、行き先は一緒なのだ……」
助手席に乗っていた、白衣姿の徳川徳朗が、敷島の体越しに、楓に声をかけた。
楓は、トラックの運転席と荷台を交互に見て、結局、
「……遠慮しておきます。
歩いても、そんなにかからないし……」
と、答えた。
「そうか」
徳川は、軽く頷いて運転席の敷島に合図し、
「……では、先にいって待っているのだ……」
と言い残して、トラックを発進させた。
トラックの荷台に乗った一族の者たちが、楓に手を振って小さくなっていく。
なんとなく、トラックに向かってぼんやりと手を振り返していた楓は、トラックが見えなくなると、ポツリと呟いた。
「……いつの間に、あんなに仲良くなったんだろう……」
「……楓!」
それからしばらく歩いていると、後の方から声をかけられる。振り返ると、茅が、酒見姉妹の二人を従えて駆けてくる所だった。
茅たち三人に少し遅れて、荒野や甲府太介、東雲目白が後を追ってくる。
「今、トラックが停まった所、見えたの」
楓が足を止めていると、追いついた茅が息を切らしながら、いった。
「楓の方が、先に出ていたみたい……。
どうせ行くのなら、家の前から一緒に出て行けば良かった……」
頬を上気しさせ、切れ切れにそういう茅を見て、楓は、
『茅様……こんな表情出来るんだ……』
と、思った。
楓の、茅に対する印象は、「表情の乏しい、人形みたいな」少女、というものだったが、最近の茅は、めっきり表情豊かになっていっている……ような、気がする。
「テンちゃんやガクちゃんと一緒に出たところで、メールが着いたんですけど……」
楓は、口に出しては、そういう。
「今の軽トラ、徳川のだろ?」
楓のいる場所まで追いついて来た荒野が、楓に話しかける。
「そうです。
徳川さんと敷島さん、あと荷台に、この間の一族の人たちが乗ってました」
楓は、簡潔に答えた。
「……商店街の方は、あれだけいれば十分だと思うの」
茅が酒見姉妹に合図すると、酒見姉妹は、抱えていたノートパソコンを開いて茅に示す。
ノートパソコンの画面には、この周辺の地図が表示されており、地図に重なっていくつかの光点が瞬いていた。
「この光点が、今、実働しているボランティアの所在を表しているの。点が大きいほど、大勢の人が集まっている。
商店街にはこれだけの人数がすでに動いているし、それに、まだ朝早いからこの程度だけど、現在稼働している人数は、ボランティアへの登録者数の数分の一だから、もう少し時間が経てば、人数も増えると思うの。
だから、わたしたちはこのまま、学校に行くの」
[
つづき]
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