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彼女はくノ一! 第五話(262)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(262)

 楓に説明をしながら、茅は足を止めない。酒見姉妹のどちらか(楓は、この双子の見分けが未だに出来ていなかった)が、ノートパソコンを抱えて茅の前に差し出した格好で、茅の動きに合わせて移動していている。
『……茅様……ひょっとして、アドリブで……リアルタイムで……一人一人の人員の配置を決めているんだろうか?』
 と、その光景を見ていた楓は、思った。
 よく見ていると、茅は黄色い光点にカーソルを合わせてクリックしてては、青色に変える……という操作を、繰り返している。地図上には、白、黄色、青の三種類の光点が点在し……より具体的に分類すると、大半が白、少しづつ増えている青、茅が片っ端から色を変えているので、短い時間しか存在しない黄色……という内訳になる。
「白いのが、お知らせメールに返信がない人か、不参加の表明をした人。
 黄色いのが、参加希望の返信をした人……」
 楓の視線を追っていた、ノートパソコンを抱えていない方の酒見姉妹が、楓に説明する。

「……おーい、トクツーくーん。
 こっちこっち……」
 同時刻、駅前商店街アーケードの出口付近で、玉木珠美は徳川徳朗が乗った軽トラに向かって手を振っていた。
 待ちかまえていた玉木のすぐ傍で停車したトラックの助手席から出てくるなり、徳川は、足を滑らせて転けそうになる。運転席にいた敷島丁児が徳川の背中から手を添えて、あやうく転倒を防いだ。
「……相変わらず、どんくさい……」
 敷島と同じく、徳川に手を差し伸べようとして間に合わす、代わりに敷島と眼を合わせてしまった玉木は、ぶつぶつと呟く。
「トクツー君、だれ、この人……」
「敷島丁児と申します」
 トラックを運転していた、スーツ姿のいかにも「大人の女性」といった雰囲気の人が、玉木に自己紹介した。
「成り行きで、徳川さんの秘書役を務めさせていただいてます。
 といっても……玉木さんとは、前に一度お会いしているんですが……」
 徳川が足場を完全に踏み固め、体制を立て直したことを確認すると、敷島は、「では、ご挨拶代わりに」と、小声で呟いた。
 しかし、その声は、玉木の背後で聞こえたわけだが。
「……はいっ?」
 慌てて、玉木は振り返る。
 玉木の背後に立っている敷島が、にこやかな表情で片手をあげていた。
「え?」
 玉木は、慌てて、再度軽トラの運転席をみやる。
 そこにも敷島が座っていて、玉木に向かってにこやかに手を振っている。
「……ええっ!」
 玉木は、自分の周囲を見渡す。
 いつの間にか、数人の敷島が玉木を取り囲み、にこやかに手を振っていた。
「……あ、あの時の、分身の人かぁー!」
 こうまでされれば、納得しないわけにはいかない。
 徳川の工場で、テンとガクを相手にしていた人たちのうち、一人だ……。
 あの時は、遠目でしか目撃しなかったこと、それに、あっという間に退場したことから、記憶が薄かったが……確か、襦袢を着ていた人が、同じような術を使っていた……。
「はい。ご名答……」
 運転席にいる敷島が頷くと、いつの間にか「他の敷島たち」は姿を消している。
「なんでこういうことができるのかっていうのは、聞かないでください。企業秘密ってやつですから……」
「……良かったなぁ、トクツー君……。
 こんな別嬪の秘書さんが向こうから来てくれて……」
「秘書が別嬪で、何が嬉しいのか」
 玉木に話しを振られた徳川は、仏頂面だった。
「仕事をしてくれれば、文句はいわないだけなのだ。
 で、どこからはじめればいい?」
「はいはい」
 徳川の、「自分が興味を持てないことに対する淡泊さ」に耐性が出来ている玉木は、すぐに持参した紙を広げる。ネットで検索した商店街周辺の地図を、プリントアウトをしたものだ。
「では、早速、用件に入るね。
 この地図で、マーカー入れた雪をどけて欲しいんだけど……。
 それも、もうじき駅からイベント目当ての人出が出はじめるから、できれば、駅前から順に……」
 玉木の経験からいっても、徳川には本題をずばりと切り出した方が、話しが早くまとまる傾向がある。
「のけた雪はどこに置けばいいのだ? それに、その、イベント目当ての人が来はじめるまで、あとどれくらいの時間があるのが?」
 いいながら、徳川は玉木が差し出した紙にちらりと視線を走らせ、荷台に乗っていた人たちに合図して、ガスボンベを降ろさせていた。
「ええと……雪は、駅前の広場に集めてくれれば……あとは有志で雪だるまでも作ろうかと……。
 それと、時間の方は……あと、一時間ちょいくらいは、大丈夫だと思うけど……」
 玉木は、腕時計を確認しながら、答える。
「……って、ちょっと、こんなところで一体、何をおっはじめるのかっ!」
 白衣のポケットからゴーグルを取り出して、ガスボンベのノズルを手にした徳川に、玉木が問いただす。
「何って……雪かきの、効率的な道具を、これから作るのだ」
 徳川は、ノズルの先で、トラックの荷台から降ろしはじめた、大きな鉄板を指した。
「これを、適当な大きさにぶった切って、一気に駅前まで、積もった雪を押していくのだ……」
 そういって徳川は、玉木の手から地図のプリントアウトをもぎ取った。
「……ふん……。
 では、手近なこの道からはじめるから……」
 徳川は、分厚い鉄板を抱えた男たちに合図して、地図を片手に近くの十字路に移動する。
「……この道は、駅前までまっすぐ続いている。
 最初はここからいくのだ……」
 そういうと徳川は、男たちに鉄板を押さえさせ、バーナーに火をつけて、目分量で、一辺が高さ一メートル、横二メートルほどの大きさに切り出す。
「足の速いのは、先行して通行人がいないかどうかの確認。
 力があるのは、鉄板を押して雪を駅前まで押し出していくのだ……」
 トラックの荷台に乗ってきた男たちは、徳川がいった通りのことを、何の苦もなく実行に移した。
 軍手を手にしただけの男たちが鉄板を押していった後には、あれだけ積もっていた雪はほどんど見られず、アスファルトの地の上に、うっすらと雪が残っているだけだった。
「……に、人間ブルトーザー……」
 その「後」を見た玉木が、呆れたような声を出した。




[つづき]
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