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彼女はくノ一! 第五話(263)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(263)

「……っと、いけないっ!」
 玉木ははっと我に返って、「トクツー君、すぐに戻るからっ!」と声をかけて、自宅へと駆けだした。
 自宅に戻った玉木は、ハンディカムを抱えてすぐに徳川たちが作業している現場に、とって返す。
「……ちょっと、撮影させてくださいねー……」
 とか声をかけつつ、カメラを廻しはじめた。
 徳川の指示に従ってここまで来た一族の者の中で、手の空いていた者が、玉木に「なんで撮影しているのか?」と質問してくる。
「……これはねー。
 皆さんがここでうまくやっていくまでの記録なんですよー……」
 待ってました、とばかりに、カメラを廻しながら、玉木が答えた。
「後で詳しくご説明しますが、皆さんがうまくやれた後……きちんとした形で編集して、ドキュメンタリーとして公表させてもらうつもりでぇーす……」
 玉木の言葉を聞いた一族の者たちの間に、動揺が走った。
 彼らは、玉木が、自分たちの事情をある程度詳しく知っている……と、認識している。
 徳川の工場内で、荒野と一緒にいて、親しく話しをしていたからだ。
「……はい、そこ! この程度のことで、がたがた騒がないっ!」
 玉木は、ざわめいた一団にカメラを向けながら、一喝する。
「もともと君たちは、日陰者から脱出したくてここに来たんでしょうがっ!
 それが成功した時しか公表しないし、だとすれば公表できる時には、君たちの立場も良くなっているわけだから、この程度のことでぐだぐだ動揺しないっ!
 この程度のことで動揺するくらいだったら、こんな所に来ないっ!」
 玉木より年上の男たちが、玉木のような小娘にいきなり大声を出されて、凍り付いていた。
 正論を持ち出されて反論できない、とか、気を呑まれた、とか、迫力に負けて……ではなく、ただ単に、自分たちが想像だにしなかったシュチュエーションに直面し、ぽけん、と思考停止をしているだけである。
 その場にいる誰もが、一族の仕事を何年か勤め、場合によっては死線も潜ってきたプロフェッショナルだった。
 まさか、平和ボケした日本の田舎町で、こんな年端もいかない小娘に、こんな理由で怒鳴られようなどとは……その場にいた者の中で、想像できた者は、皆無だった。
「ま、まあ……このお嬢ちゃんがいうことも……間違っちゃ、いないよな……」
「……いや……いきなりだったから、驚いただけで……なぁ……」
「おれたちは、おれたちの仕事をチャッチャとやっときゃあいいんじゃないの?
 難しい事は、あとで加納の若に考えて貰ってさ……」
 ざわめきながらも、男たちは「とりあえず、仕事だ、仕事!」という順当な結論に落ち着いて、それぞれに動きだす。
 徳川が切り出した鉄板を二人とか三人単位で抱えて、徳川から地図を受け取った敷島の指示に従って、周辺に散っていった。

「……と、いうわけで……」
 少しして荒野たちが到着した時、すっかり雪がなくなり、濡れたアスファルトが露出した路面を指さして、玉木はそれまでのやりとりをざっと説明した。
「……せっかく集まって貰ったけど、駅前周辺半径三百メートルほどの主だった道路から、雪は駆逐されつつあります……。
 いやぁー、手順さえしっかりと組んでおくと、ニンジャの皆さん、仕事、早いや……」
「いや、仕事が早く片づくのは、いいことだと思うけど……」
 荒野は、玉木にそう答える。
「結局、おれたちは……ここで、やることないの?」
「……あるのだ……」
 玉木ではなく、トラックの上にいた徳川が、答える。
「鉄板でざっと道を作っただけだから、路肩とかにはまだ雪が残っているのだ。
 それと、駅前広場にとりあえず集めておいた雪も、どうにかして欲しい。
 さらに余裕があるのなら、こいつでなにか炊き出しでもしてくれるといいのだ。
 この寒い中、でばってくれた皆に、何か暖かいものでも振る舞うがよかろう……」
 そういって徳川は、こんこん、とトラックの荷台にあるドラム缶を手で叩く。
 より正確にいうのなら、何日か前に工場で使用した、ドラム缶を加工した炭火コンロだ。
「……それか……」
 荒野も、頷く。
「そりゃ、いい考えだと思うけど……その、材料とかは?」
「……それは、わたしが何とかするー!」
 玉木が片手を上げた。
「この週末が、今回のイベントの最後の書き入れ時だし、駅前とかで、お客さんも含めてみんなに振る舞おう、っていえば、材料分くらいは、商店街に負担して貰えるよ……。
 甘酒とかだったら、大量に作ってもそんなにコストかからないし……」
「……じゃ、玉木は、その交渉、と……。
 徳川たちは、どうする? なんにするにせよ、鉄板部隊は、まとめて動いた方が効率いいと思うけど……」
 荒野がそういうと、
「……近くの小学校で、スコップを借りて欲しいの。
 その交換条件に、校庭と、主要な通学路の雪を片づける……」
 茅が、口を挟んだ。
「……茅が、一緒にいって交渉するの。
 今日は日曜だし、校務員さんくらいしかいないと思うから、これくらいの人数で押し掛けて、校庭と通学路を整備するから……といえば、学校の備品くらいは貸して貰えると思うの……」
「……親切の押し売り強盗だな、まるで…ー」
 荒野が、そう感想を呟いた。
「……スコップなら、町内会のも何本かあるけど……わたしは、さっきの炊き出しの手配もかねてそれやるっ!」
 玉木が、しゅたっと片手を上げた。
「……わたしたちは……」
「……茅様についていきます……」
 酒見姉妹は、そういう。
「……じゃあ、おれと楓は、こっちに残って、細かい雪の始末と、その後、材料が調達できたら、炊き出しの用意、っと……」
 荒野がそういっている間にも、一族の者たちがトラックの荷台から、ドラム缶製のコンロを降ろしていた。

「……何を、やっていますの?」
 それから約一時間後、スーツ姿で駅から降りてきた孫子は、移植ゴテ片手に巨大雪だるまによじ登っていた楓に、そう声をかけた。
「……ええっとぉ……」
 楓は、自信がなさそうな声で返答した。
「ボランティア、です……多分……」
 楓がよじ登っている巨大雪だるまの周囲には、いつの間にか集まってきた近所の子供たちが、我が者顔に走り回っている。
「……最初は、雪かきってことだったんだけど……」
 孫子の後ろから、荒野が声をかける。
「……集めた雪を、こうして再利用しているわけだ……」
 そういう荒野は、何故かエプロン姿でおたまを手にしていた。
 孫子は、そんな荒野を不思議そうな表情で、眺める。
「おれは……今、あっちでやっている炊き出しを、担当している。
 もう味は整ったから、後は火をみながら配膳すればいいだけだけなんだど……」
 孫子の不審げな表情を予想していたのか、荒野はそういって、おたまですぐそばにあるドラム缶コンロを指さした。
 コンロの上には、かなり大きな鍋がのっかって湯気を立てている。
「……なんか、すごいぞ……。
 例のボランティアなんだがな、たかが雪かきが、何故か電撃作戦みたいなことになっている……。
 このペースで行くと、午前中には町内の主だった道は、雪を踏まずに歩けるようになっているんじゃないかな……」




[つづき]
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