第六章 「血と技」(180)
アーケドが途切れるあたりの十字路にトラックが停車していて、そこにハンディカムを持った玉木とトラックの荷台に乗った徳川がなにやら話し込んでいた。
荒野たちが近づいていくのに気づくと、玉木は「こっち、こっち」と手招きし、徳川と交互に、つい今しがたの出来事を、荒野たちに説明した。
徳川が、持ち込んだ鉄板を適当な大きさにぶったぎって、一族の者が数人がかりで、一気に根こそぎ雪を持っていった、という。
「……と、いうわけで、せっかく集まって貰ったけど、駅前周辺半径三百メートルほどの主だった道路から、雪は駆逐されつつあります……。
いやぁー、手順さえしっかりと組んでおくと、ニンジャの皆さん、仕事、早いや……」
「いや、仕事が早く片づくのは、いいことだと思うけど……」
荒野は頷きながらもそう尋ねずにはいられなかった。
「結局、おれたちは……ここで、やることないの?」
「……あるのだ……」
トラックの上にいた徳川が、答えた。
「鉄板でざっと道を作っただけだから、路肩とかにはまだ雪が残っているのだ。
それと、駅前広場にとりあえず集めておいた雪も、どうにかして欲しい。
さらに余裕があるのなら、こいつでなにか炊き出しでもしてくれるといいのだ。
この寒い中、でばってくれた皆に、何か暖かいものでも振る舞うがよかろう……」
徳川はトラックの荷台にあるドラム缶を手で叩く。何日か前に工場で使用した、ドラム缶を加工した炭火コンロだ。
「……それか……」
荒野は頷いた。
「そりゃ、いい考えだと思うけど……その、材料とかは?」
「……それは、わたしが何とかするー!」
玉木が片手を上げる。
「この週末が、今回のイベントの最後の書き入れ時だし、駅前とかで、お客さんも含めてみんなに振る舞おう、っていえば、材料分くらいは、商店街に負担して貰えるよ……。
甘酒とかだったら、大量に作ってもそんなにコストかからないし……」
「……じゃ、玉木は、その交渉、と……。
徳川たちは、どうする?
なんにするにせよ、鉄板部隊は、まとめて動いた方が効率いいと思うけど……」
荒野がそういうと、
「……近くの小学校で、スコップを借りて欲しいの。
その交換条件に、校庭と、主要な通学路の雪を片づける……」
茅が、口を挟んだ。
「……茅が、一緒にいって交渉するの。
今日は日曜だし、校務員さんくらいしかいないと思うから、これくらいの人数で押し掛けて、校庭と通学路を整備するから……といえば、学校の備品くらいは貸して貰えると思うの……」
「……親切の押し売り強盗だな、まるで……」
荒野が、そう感想を呟いた。
「……スコップなら、町内会のも何本かあるけど……わたしは、さっきの炊き出しの手配もかねてそれやるっ!」
玉木が、しゅたっと片手を上げる。
「……わたしたちは……」
「……茅様についていきます……」
酒見姉妹は、そういった。
「……じゃあ、おれと楓は、こっちに残って、細かい雪の始末と、その後、材料が調達できたら、炊き出しの用意、っと……」
荒野がそういっている間にも、一族の者たちがトラックの荷台から、ドラム缶製のコンロを降ろしている。
代わりに、茅と酒見姉妹が、荷台に乗り込み、周囲の道をかけ巡って、一通りの道を片づけていた鉄板部隊も続々とトラックに戻ってきた。鉄板部隊が全員帰投したのを確認してから、徳川と敷島も、助手席と運転席に乗り込んで出発していった。
残った荒野たちも突っ立ってそれを眺めていたわけではなく、徳川が、
「何かの役にやくに立つかと思って、ネコを積んできたのだ」
というので、その「ネコ」を荷台から降ろした。
「……この一輪車、ネコっていうのか?」
荒野が、訝しげな表情で聞き返した。
「語源は良く知らないが、ネコと呼ぶのだ」
徳川が、頷く。
……日本語は、難しい……と、荒野は思う。
「……工事現場とかで、よくみかけるよねー。
これ……そうか、ネコっていう名前なのか……」
玉木も、感心したように頷いている。実物を目にする機会はあっても、それを何と呼称するのか知らなかったようだ。
……ネイティブでも、知らないような隠語だったのか……と、荒野は少しショックを受けた。
ともかくも、徳川のトラックが出た後、残った面子は降ろした二台のネコにドラム缶コンロと炭の入った袋を押して、一旦駅前まででる。鉄板部隊が一通り掃除していっただけあって、ネコを押していても、特に通りにくいということもなかった。
駅前の広場まで出ると、
「……まだ、だいぶん、残っているな……」
後に残る荒野たちの分を残しておいた……というわけではないだろうが、いく条かの通り道を作っただけで、それ以外の場所の雪は、ほとんど手つかずで残っている。
最低限の通路は確保しているから、あとはゆっくり片づけても支障ないようなものだが……。
「……玉木、スコップを借りよう……」
荒野は、玉木に向かって、そういった。
ネコからドラム缶コンロを降ろし、そのまま玉木に案内させて、町内会の倉庫前までネコを押していく。
「……町内会の人たちに相談してくる」
といって一旦、姿を消した玉木は、五分とかからずに戻ってきた。
「代わりに雪かきをやってくれるなら、スコップなんていくらでも使ってくれって……」
そういって玉木は、倉庫の鍵をかざして見せた。
荒野と楓が駅前広場に戻ってスコップを使っているうちに、近所のボランティアメンバーが続々と集まってきた。
学校でみた顔もいれば、ずっと年上の人もいる。
年齢も性別もバラバラで、荒野はボランティアの登録メンバーが、すでに校外にも広がっていることを実感した。
スコップを使う力仕事は優先的に男性陣にまわし、女性陣には、ドラム缶コンロで炭火を起こしたり、集めた雪を適当に飾り付けたり、といった仕事をしてもらう。
そうしたボランティアのメンバーと前後して、シルバーガールズの装備を身につけたテンとガクも駆けつける。どこかに消えていた玉木も、大きな鍋を抱えて戻ってくる。
テンとガクの姿を認めると、
「おお。来た来たっ!」
と叫んで、甘酒の入った大鍋をコンロの上に乗せて、すぐに去っていった。
……と、思ったら、ハンディカムを抱えて、弟と妹を引き連れて、すぐに戻ってくる。
「……はいはい。
一号と二号、ちゃんと遊んで!」
ハンディカムを抱えた玉木は、テンとガクに向かって、そういう。
商店街の大多数の店舗は、朝十時に開店することになっていた。その十分前くらいに、駅前広場の雪は、一カ所に集積することができた。
後は、集めた雪で、雪だるまを作るといかいうことだったが……。
「……もう、こっちは人数、そんなにいらないなぁ……」
荒野は携帯を取り出し、少し考えてメールで、その旨を茅に伝える。
「……ええと。
駅前での仕事は終了しましたので、一時解散とさせていただきます。
引き続き、仕事をしてもいい、という方は、周辺の道に残った、路肩などの雪を片づけていただきます。
強制ではありませんので、ここまでで終わりたい方は、その旨メールで連絡だけをして、そのままお帰りください……。
残る意志のある方は、班分けして動きますので、こちらにお集まりください……」
茅から、折り返し返信のメールが来たので、集まっていたボランティアのメンバーに、その内容を告げる。
[
つづき]
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