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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(181)

第六章 「血と技」(181)

「……ん?」
 携帯に着信したメールをみて、ガクは首を傾げた。
「行き先、商店街から小学校に変更、だって……」
 かって知ったる徳川の工場に入り、事務室で管理してある「シルバーガールズ」の装備を身につけたところだった。
「……行き先変更……にしても、早いなぁ……」
 テンが首をひねりながら、呟く。
 楓と別れた時間から換算しても、楓が駅前に到着してから、さほど時間がたっていない筈だった。
「茅さん……。
 見込みがついたから、先まわりしていろ、ってことかな?」
「……それはいいんだけど……」
 ガクは、鏡で全身を点検しながら、テンに話す。
「基本装備の実験もひと段落したし、そろそろ予備をいくつか家の方に置いておいた方がいいんじゃないかな……。
 必要になるたびに、ここまで着替えにくるっていうのも、効率悪いよ……」
「……そうだね。
 どうせ、多めに作っているし……」
 テンも、ガクの言葉に頷く。
「シルバーガールズ」の装備、特にプロテクタの部分は着脱式であり、互換性がある。つまり、塗装を気にしなければ、テンの装甲部をガクが身につけることも、その逆も可能な仕様となっていた。
 これは、装甲を破損した時に、短時間で新しいものに付け替えるのを可能にするため、ということと、それに同じものを数多く作ることで、一つあたりのコストを下げるためでもある。
 シルバーガールズの装甲部は、本体である着用者の身体を保護することが第一義であり、また、今までの経緯が証明しているように、磨耗率も激しい。
 原材料そのものはありふれた素材を使用しているが、それらを複雑に織り込んだりしてみかけの重量以上の強度を出す工法は、素材屋として経験を積んできた徳川の技術が結晶したものであり、将来の損耗も見越して、一度に大量に作っておく方が、何かと都合がよかった。
「防御は、これ以上重くなると、動きが鈍るから……」
「後は……武装だね……」
 テンとガクは、頷きあう。
「シルバーガールズ」の装備開発は、ほとんど徳川の土壇場だったが、だからといっテンやガクも、指をくわえてただ見守っていいたわけではない。使用者としての意見をフィードバックさせているのはもちろんのことだが、それ意外にも細かい意見を徳川に提出して、部分的に採用されている案もある。
 徳川の開発手法の実例を、間近に見ることができた……というのは、二人にとっては、かなり大きな意義を持つことになった。
 企画し、必要な仕様を決定し、設計し、試験を重ね、改良する……という、物作りに必要な一連の工程を最初から最後までつぶさに見学したようなものだった。
「……小学校かぁ……」
 何やら、感慨が籠もった口調で呟くガクを、
「ん?
 ボク、場所なら分かるけど……」
 テンが、不思議そうに振り返る。
「いや、そういうことではなくて、さ……」
 ガクは、珍しく口ごもる。
「その……この格好で、堂々と外にでるのも……初めてだなぁって……」
「……ああ……」
 そういわれて、テンも、感嘆の声をあげる。
「そういえば……この格好するのは……今まで、ほとんど、工場の中だけ……だったっけ……」
 実際には、あの襲撃の日、一度だけ商店街のアーケード上で、秦野の女たちと限りなく実戦に近い演習を経験しているのだが……あの時は、どさぐさまぎれにやってしまった、というのが正直なところであり、今回のように周囲の者に期待されて出たのでは、ない……。
 茅が、「この格好で外に出ろ」といった、ということは……いよいよ、この「シルバーガールズ」が試作段階を越えて、実用段階に入ったことを意味する。
「……いよいよ、だね……」
「うん。最初のうちは、マスコット役だけど……」
「将来、どんなことが起きても……」
「この力は、悪用しない……」
 テンとガクは、今まで何度も確認してきたことを交互に言い合い、最後に、
「「……シルバーガールズを、悪役にはしない!」」
 と、声を揃えて、工場の外に向かう。

 茅からのメールで呼び出された有働勇作以下放送部有志は、この積雪の中、近所の小学校へと急いでいた。
 なにぶん、雪が積もっているのでチャリンコでの移動もままならず、全員が徒歩、である。それもあってか、茅が召集したのは、全員が男子生徒だった。
『……気が利くというか、利きすぎるというか……』
 ビデオカメラとバッテリー、レフ板などの撮影機材を担いでえっちらおっちら集合して来た放送部員たちの胸中は、複雑だった。
 あちこちに散らばっている自宅から、くるぶしまで雪に埋めつつ、苦労して、いつもの倍以上の時間をかけてのろのろと進んできた放送部員たちは、集合地点に指定された小学校に近づくにつれて、きれいに除雪されている歩道が多いことに気付いた。
 車道は雪が積もったままで、歩道だけがきれいに除雪されている……という風景も、有働たちの目には、奇妙にうつった。除雪車が車道の雪を処理するところは、何度か見ているが……その逆は、あまりない。
 もちろん、除雪されていない道を歩くよりは、除雪された道を歩く方が楽だから、放送部員たちが一人、また一人、と集合するまで頃には、この「現象」を不可解に思う声が続出する。
「……これ、ひょっとして……」
 ボランティアの成果か?
 という言葉を出そうとして、飲み込んだ。
 放送部員たちも、登録しているので、遂一、茅が配信する同報メールにより、現在の状況は、かなり正確に把握している。
 人数は確保できても、除雪のための道具が不足しているため、先に人数を集中的に投入して短時間で片づけた(茅の公式発表では、そういうことになっていた)駅前付近などの例外を除けば、現在のところ、除雪作業は点在する地点で散発的に行われているだけ……の、筈、だった。
「……いったい、誰がやったんだ、これ……」
 というのが、集合してきた放送部員たちが、共通して抱いた疑問だった。
「……まあ……先を、急ぎましょう……」
 有働が、怪訝そうにお互いの顔を見合わせる部員たちの先頭にたって、小学校の校門を目指す。
 有働には、誰がこんな真似をしたのか、ほぼ推察がついていたが……どのみち、ここまでくれば、集合場所の小学校まで、いくらもかからない。
 ここで推測を口にするよりは、茅にあって、直接真相を聞いた方が早いだろう……と、有働は思う。
 そんな感じできれいに除雪された道を、有働たちがぞろぞろ歩いていくと、
「……やっほっー……」
「……おにぃちゃんたちー……」
 と叫びながら、「シルバーガールズ」のコスチュームを身につけたテンとガクが、軽やかな足取りで、
「「……先にいっているねー……」」
 と叫びつつ、有働たちを追い越していく。
 二人の速度は、決して非常識なものではなかった。二人の年頃の子供たちが、はしゃいで駆けだしている時の速度程度に抑えられては、いた……。
 が、それでも、二人が駆け抜けていったのが、雪の降り積もった車道であることを考えると、十分に不自然だった。
『……あの子たち……』
 なんか……はしゃいでないか?
 と、有働は不審に思う。
 撮影に関わっている関係で、有働たち放送部員たちは、二人の身体能力についても知っているのだが……それでも、白昼堂々、二人があの格好ではしゃぎ回っている光景にも……奇妙な、感慨を覚えるのだった。
『……そう、か……』
 準備が整ってきたから……一連の事態は、次のステージに移ったんだな……と、有働は不意に悟る。
 おそらく……茅が、そう判断を下し……一族やあの子たちを、徐々に人目にさらしていくように、仕向けているのだろう……と。




[つづき]
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