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彼女はくノ一! 第五話(264)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(264)

「……それで才賀、お前の方はどこへいってたんだ。こんな朝早くから……」
 荒野は、たった今、駅から出てきた孫子の全身をじろじろと眺めまわして、そういう。
 まだ、大半の商店街の店舗が開店する前だというのに、孫子は、珍しくもフォーマルな服装をきっかりと着込んでいる。しかも、駅「から」出てきた、ということは、日曜の早朝から、どこかに出ていた、ということだった。
 荒野でなくとも不審に思うだろう。少なくとも、その場にいた楓も、同じ事を疑問に思った。
「……ちょっと、うちの者たちが聞き分けがないので、待ち合わせをして、会議をしてきました……」
 それから行われた孫子の説明を聞いて、荒野と楓は軽い……どころではない、目眩を感じた。
「……するってえと、何か?
 才賀は……日曜の朝っぱらから、才賀グループの大物たちをこんなど田舎まで呼びつけたってか?」
 一通りの説明を聞いた後、荒野は眉間を軽くマッサージしながら、孫子に確認をする。
「……呼びつけた、なんて人聞きの悪い……」
 孫子は、例によって澄ました顔で答える。
「待ち合わせ、です。
 わたくしも近くのターミナル駅まで足を運びました。
 それに、それだけの価値があると思わなければ、わざわざご足労願いませんわ……」
 一口に「待ち合わせ」といっても……才賀グループの重役連中がここまで来るのと、孫子がこの駅から快速で二十分強で到着するターミナル駅まで移動するのとでは、移動するためにかかる時間と手間に、かなり格差があるだろう……と、荒野は思う。
 時間や手間、もそうだが……そうした人々の収入を考慮すれば、たかだか一学生にすぎない孫子と比較した場合……そもそも、「時間当たりの単価」が桁違いの筈だ……。
「……あの……そうまでした、用件、というのは……」
 楓は楓で、自分の祖父の世代と同年代の企業人を平気で呼びつける孫子の剛胆さに、ど肝を抜かれている。
「……ええ。
 本当に古い世代は、頭が硬いというか、提出した資料で優位性が明らかになっていても、なかなか認めようとしないというか……」
 などという前置きを長々としゃべってから、孫子は、
「……ガクが開発した特定個人の身体的特徴を識別するシステムを、売り込んでまいりました……」
 と、ようやく結論を述べた。
 荒野と楓は、なんといって良いのか判断しかねて、顔を見合わせる。
「……ちゃんと、外部の企業に評価試験をしてもらい、その結果もつけて売り込んだというのに、何かと理由をつけて決断を回避しますので、呼び……ではありませんわね、待ち合わせをして、軽く脅し……ではなく、ことわりを含めてきましたの……」
 ……実際に顔を合わせてみますと、みなさま、実に素直に快諾なさってくださいましたわ……と、孫子は、上機嫌に付け加える。
 ……これは、あれだな……と、荒野は思った。
 翻訳すると……「才賀本家の出」という、孫子の出自からくるコネクションをフルに使って……重役連中に、ゴリ押ししてきんたな、と。
 楓は楓で、
「……ふぁー。
 凄いんですねぇー……」
 などと、素直に本気で感心している。
「……十分以上に役に立つソフトなのですもの。
 どんどん活用しなくては……」
 と、孫子は昂然と胸を張る。
「……別に、才賀が作ったわけではないだろ……売り込んだだけで……」
 荒野は内心で「売り込むだけで、そんなに得意そうにするなよ……」と思いつつ、苦笑いを浮かべた。
 そして、真剣な面もちになり、
「それで……採用されそうなのか?」
 と、尋ねる。
「当然です」
 孫子は、得意顔で頷く。
「既存の警備システムに、ガクのソフトを付加する作業も、うちの会社で受けてきました」
「才賀の会社っ、て……、もう、動けるのか……」
 登記などの事務手続き関係が終わった、とも聞いていなかった荒野は、軽く驚く。
「いくつかの手続きは申請中、というところですが、必要な条件はすべてクリアしているはずですし、違法な事はなにもしていないので、フライングで業務を開始することには、なんの支障もありません。
 と、いうか……徳川の会社が所有する特許やパテント類から、もっと効率的にお金を稼ぐための工夫など、もう仕事をはじめています……」
 孫子の説明によると、そうした知材関係の事情は国や地域により微妙に扱いがことなるそうで、現地の事情に詳しい専門家を地域ごとに雇って、対策を講じさせている、という。
「その専門家も、多くは個人ではなく、企業単位なのですけど……」
 そうした専門家に対策をまかせることで、徳川の会社は、それまで取りはぐれていた報酬も得ることになるのだ、という話しだった。
「……あの子も……」
 孫子の話しによると、徳川は、開発するまでの課程には興味を持つが、それ以降の、開発した技術やアイデアを換金する課程に関しては、あまり興味を持たない。
 それまでが、必要最低限の収入さえ得られればそれでいい、という姿勢で、どんぶり勘定もいいところだったから、かなりの増収が見込めるはずだ、という。
 孫子の会社は、徳川の会社が所有する知材の管理……というより、知材を管理する能力のある専門家を捜し出してきて、仲介する業務を請け負っていて、すでに相応の成果も出しつつある……というより、という。
「そうすると……、ガクのやつも、お金持ちの仲間入りかな……」
 荒野が、ぼんやりという。
 実際のところ、実感がわかないのだ。
「……しばらくは、試験運用になりますけど……。
 それで問題がなく、正式に採用されれば……系列外の会社にも売れるでしょうから、軽く億単位の取引になりますわね……」
 孫子は、平然と答える。
「……億……ですか……」
 楓が、呆然と反復する。
 楓に至っては、「実感がわかない」どころではないのだが……この時の孫子の予測は、いい方向に大きく外れることになる。
 と、いうのは、ガクのソフトを組み込んだ監視システムが、相次いで逃亡中の、変装したテロリストや凶悪犯逮捕の決め手となり……結果、全世界規模で、一種の防犯標準ソフトになってしまうまでに、一年と要しなかったからだ。
 孫子の顔が利く才賀グループの施設の多くが、主として海外で事業展開をしていた……という要因により、その実効性を早い時期に証明し、また、才賀グループ外にその存在をアピールすることに繋がった。
 数ヶ月後に、ガクは、この時、孫子が予測した額とは桁がいくつか違う報酬を得ることになるのだが……それはまだ、もう少し先の話しになる。
「それで……そのガクたちは、今どこにいますの?」
 孫子が尋ねる。
「今……茅様たちと合流して、町のどこかで撮影していると思います……」
「……シルバーガールズの日常素材、だってさ……この辺で雪が降るなんてめったにないからって、雪かきがてらに、張り切っていろいろなパターンを撮影しているって……。
 あの派手な格好で出歩いていると、子供の受けがよくて、みんな寄ってくるそうだ……」
 荒野は、肩を竦める。
「シルバーガールズ」の動画がネットで配信され、商店街のディスプレイで繰り返し流されているこの時点では、あの格好をした二人が出歩いていても、カメラを担いだ何人かが付きしたがっていれば、特に不審にも思われない。
 それどころか、いざという時……すなわち、二人の装備が撮影のためのハリボテなどではなく、本来の目的として使用される時のためにも……あの格好の二人を、この付近の住民の目に晒して慣れさせておいた方が、何かと都合がいいのであった。




[つづき]
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