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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(182)

第六章 「血と技」(182)

 有働たち放送部員が除雪された歩道を経由して小学校に入った時、そこではすでに、近所の子供たちと「シルバーガールズ」の格好をしたテン、ガク、それに酒見姉妹までが一緒になって、雪合戦を開始していた。
 テン、ガク、それに酒見姉妹の四人は、実に無邪気な様子で近所の小学生たちと戯れている。
「……ええと……あれ……」
 放送部員の一人が、戸惑った表情で嬌声をあげながら無心に遊んでいる子供たちを指さす。
「……録って、おきましょう」
 有働は、落ち着いた声で答える。
「ぼくは、ああいうのにあまり詳しくありませんけど……シルバーガールズに、ああいうシーンが入っていると、それだけ感情移入しやすくなるんじゃないでしょうか?」
「……なるほど……」
 放送部員たちは納得した表情で頷きあい、撮影の準備をしはじめる。
 しかし、子供たちにとって、放送部員たちの事情などは知ったことではなく、それ、新しい標的が来たぞ、とばかりにカメラやレフ板を構えた放送部員たちに雪玉を投げはじめる。ひどいことに、テン、ガク、それに酒見姉妹の四人までがそれに乗じて放送部員たちに雪玉を投げつけはじめた。
 逃げまどったり、めげずに撮影の準備を続行したり、雪玉を投げ返したり……と、放送部員たちの反応は、それぞれだったが、しばらく時間が経つうちに、雪合戦をしていた子供たちに混ざって適当に雪玉を投げ返したり、レフ板を盾にしたりしながら、時折、散発的にカメラを廻すようになった。

「……ま、いいか……」
 少し離れたところでみていた有働は、事態がそのように推移したのを見届けてから、独り言をいって頷いた。
 ……距離を取りすぎるよりは、当事者の一人として、現在進行形のこの事態に関わる……というスタンスの方が、おそらくは……正しい、のだ……と、そう思う。
 それに……テン、ガク、それに酒見姉妹を含めた四人は、すっかりリラックスした表情で、他愛のない遊びに興じている。
 テンとガクはともかく、酒見姉妹は……有働も、せいぜいここ数日の姉妹しか知らないわけだが……それでも、はじめて顔を合わせた頃のあの双子は、とても張り詰めた、硬い表情をしていた。
 自分たち以外は、全て敵だ……とでもいいたいような眼で、周囲を見渡していた。それが、今では……周囲に感化されたのか、すっかり表情が軟らかくなっている。
 テンやガクも含めて……あんな活き活きとした表情なら……多少、乱れたカメラワークでも、編集次第では、いい映像素材になるだろう……と、有働は思う。
 しばらく、その騒ぎから距離を置いて校庭の隅をぶらついていた有働は、しばらくしてからようやくシャッターを開け放した倉庫の中で茅が蹲っているのを発見し、近寄っていく。
 距離を詰めると、茅が膝の上に広げたノートパソコンを、猛烈な速度でタイピングしているのに気づいた。タイミングからいっても、茅は、ボランティア関係の人員配置作業を行っているのだろう……と、容易に見当がついた。
 一人で……それも、こんな所で……。
 と、思いながら、有働は茅に声をかける。
「……なにか、手伝えること、ありますか?」
「今は、ないの」
 茅は、顔も上げずにそう答えた。
「なにかして欲しいことができたら、呼ぶから……」
 そういいながらも、茅は、手を止めようとはしていない。
 茅ははっきりとは口にしなかったが、今は話しかけて欲しくない……という緊迫した雰囲気を放っていた。
「……そうですか……では、ぼくは……」
 ……向こうへいってます。何かあったら、声をかけて……と、いいかけた時……。
「……おおっー。
 すっげぇ、早いね……手の動き……」
 有働の背後で、軽薄な調子の声が聞こえた。
 有働が慌てて振り返ると、有働にとっては面識のない若い男が、立っていた。年齢的には、二十代半ばから後半、というところだろうか? 職業の見当がつけにくい雰囲気だったが、何となく、
『……どっか、都会の方から来たのかな?』
 と、有働は思う。
 垢抜けている……というのとは、少し違うのだが……この辺の素朴さとは馴染まないような複雑さを、その有働はその男が纏っている雰囲気から感じた。
「……いやぁ、商店街の方で、メイド喫茶っていうのに入っても良かったんだけど、もう列ができてて順番待ちだったし、考えて見りゃ、今朝のうちにメイドさんにはおいしいお茶ご馳走になっているかなぁって、思ってね……」
 相変わらず手を休めようとしない茅にも構わず、有働の背中を追い越してその若い男は、茅に近寄る。
「……戯れは、そこまでにしておきなさい、道化……」
 茅は、顔も上げずに呟く。
「茅は……今、もっと重要な、別のゲームを行っているの。
 道化の遊びにつき合っている余裕はないの……」
「……ほぉ……」
 その男は、大仰な動作で肩を竦める。
「姫様は……このわたくしを、道化とおっしゃいますか……」
「……一族のくびきから放たれ、己の欲望のままに動く存在……。
 ともすれば、危険な存在になりそうな者に、先代という人は、小埜澪の守り役という枷をはめた……。
 茅は、東雲目白という得体の知れない男のことを、そう考えているの……」
 茅は、作業の手を休めずに、淡々とした口調で話す。
「しののめめじろ」……というのが、この男の名前らしい……と、有働は思う。
 もちろん、この男と茅たちとの間に、今までどういう経緯があったのか、までは、有働には予測できない。
「……はっ、はっ……そいつぁ、買いかぶりだぁ……」
 茅に「しののめめじろ」と呼ばれた男は、茅の言葉を一笑に付する。
「わたしゃあ、お嬢のお守りくらいにしか、役に立たない男ですよ……」
「そういう謙遜は、今朝、荒野たちをまとめて相手に出来る、と公言した時の態度と矛盾するの」
 茅は、男の韜晦を一蹴した。
「自信家の癖に、自分の能力を見せびらかさない……。
 おそらく、東雲は……自分なら、たいていのことは切り抜けられる……と知っているから……ひどく、退屈しているの。
 先代、という人が、何らかの方法で、東雲に小埜澪という重しをつけたのも……放置しておけば、どこでどういうことをしでかすか、予測がつかないと感じたからだと思うの……。
 事実……今、東雲の姿は、テンやガク、酒見姉妹には、知覚されていない……」
 有働は、慌てて背後を振り返る。
 茅の言葉通り……不審な男が茅に近づいているというのに、四人は、相変わらずこちらの様子に気づかぬ風で、遊びほうけていた。




[つづき]
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