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彼女はくノ一! 第五話(266)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(266)

 校庭開放日、ということで、近所の子供たちが集まってきたこともあり、そのまま雪合戦になだれ込んだ。派手なコスチュームに身を包んだテンとガクはいい標的だったし、一緒にいた酒見姉妹まで巻き添えを食らい、否応なしに引きずり込まれる。校庭開放日に集まってくるのは、この小学校に通っている生徒たちや、その子たちの弟や妹なわけで、当然のことながら、年齢が下にいくにつれて遠慮とか分別というものがなくなってくる。
 母親と一緒に商店街に買い物にいったことのある子供たちにとって、「シルバーガールズ」のコスチュームは見覚えのあるものだった。普段、ディスプレイの中でしかお目にかかれない、派手なコスチュームが目の前に現れたら……いろいろ構いたくなる……というのが、子供なりの心理というものである。
 加えて、この日は、珍しく雪が積もっており、子供たちの心も一様に浮き立っている。結果、テンとガク、それに一緒にいた酒見姉妹は、一緒くたにいい標的になり、標的になった方は、まさか子供のすることに本気を出して避けたり反撃をしたりすることもできず……結果、力や速度を意図的にかなりセーブした上で、反撃する、ということになる。
 いつの間にか、テンとガク、それに酒見姉妹を加えた四人、対、近所の子供たち、という構図が、できあがっていた。
 時間が経過するうちに、子供たちの数が増え、少し後には、放送部員たちも合流した。

「……注目っ!」
 校庭の隅にある備品倉庫でノートパソコンを広げていた茅が、よく通る声で全員の視線を集めたのは、集まってきた子供たちが少し疲れてきて、雪合戦から脱落し、校庭に積もっていた雪で遊びはじめた頃合いだった。校門と校舎入り口を繋ぐラインは除雪していたが、それ以外の場所は手つかずのまま放置されているので、雪には不自由しない。
「このおじさんが、みんなと遊んでくれるそうなの……」
 茅はそういって、傍らで硬直している東雲目白を指さした。
「……有働。
 このおじさんを、みんなの前に連れて行って。
 手を引けば、自分で歩るけるから……」
 そういわれた有働は、少しの間躊躇うようなそぶりをみせたものの、茅にじっと目線を合わせられて、しぶしぶ、といった感じで、東雲の手を引いて校庭の真ん中の方に導いていった。
 有働に手を引かれて歩いている間にも、東雲は、茅と有働の間で忙しく目線を彷徨わせていた。有働に引かれるままに歩いているのも、その感の何か言いたい、けど、何もしゃべらないし出来ない……といったな表情も、見ていて、実に奇妙な感じだった。
「的にするといいの。
 当たると、がおぉーって吠えるの……」
 茅がそういうと、相変わらず抵抗らしい抵抗をしない東雲の顔が、さらに引き攣った。
「このおじさんは……茅の仕事を邪魔しようとしたから、運動野だけを麻痺させたので、反撃できないの……」
「……そういう、ことか……」
 茅のその言葉を聞いて、テンが納得したような表情になった。
「……どういうこと、です?」
 酒見姉妹のうち一人が、不思議そうな顔をして、テンに尋ねる。
「あのおじさん……茅さんにちょっかい出そうとして、逆に、ああなった」
 テンは、解説する。
「茅さん……見よう見まねで、佐久間の技も一部、使えるんだけど……。
 そのこと、あのおじさん、知らなかったんだね……。
 だから、思いっきり油断した状態で、無防備のまま、ちょっかいだそうとし……そのまま、返り討ちにあったんだと思う……」
 茅さん……怒らせると、怖そうだからなぁ……と、テンは嘆息する。
「……見よう見真似……」
「佐久間の技の一部、って……」
 酒見姉妹は、二人揃って別なところで呆れて絶句している。
「「……わたしたち……それ、初耳ですけど……」」
「……そうだろうね……」
 テンは、呆気なく頷く。
「そのことは……ほとんど、知っている人、いない筈だし……」
「ボクも……すっかり忘れてた……」
 ガクも、酒見姉妹に劣らず、驚いている様子だった。
「確かに……ずっと前、見たことは忘れない、分析して、何度も頭の中で練習して……そして、出来るようになる……って、そんなこと、いっていたような気がするけど……」
「そのこと自体は……ボクにも、できるんだけど……」
 テンは、ガクの言葉に補足する。
「ボクの場合、頭の中で反復するより、実際に体を動かした方が、早いんだよね……。
 体ができてないと、とっさの時、うまく動けないし……」
 ……そうだろうな……と、ガクと酒見姉妹は、テンの言葉を、素直に飲み込む。
 自分自身でも、そうした反復練習で技を身につけてきた三人には、実際に体を動かすことの重要さを、「体で」知っている。
「ただ……佐久間の技の場合、反復練習することで身につくような技なのか、ボクたちにはよく分からないし……それ以上に、その手のことを学習するのに必要な感受系が、ボク自身は、まだ育っていないらしい……。
 神経のどこかのスイッチが、まだ入っていないというか……」
 その辺のテンの呟きは、ほとんど独白に近いものであった。
 自分と茅との一番大きな違いは、そうした「センサーの精度と質」だと、テン自身は考えている。
 以前、茅が話してくれた所によると、佐久間の技は……言語などに置き換えて教えることが難しい性質のものらしかった。
「……頭の中で……」
「何度も、反復……」
 酒見姉妹は、テンとは別のことを考えている。
 以前、自分たちが、身体能力では数段劣る茅に破れた理由……あのときも、茅は……そんなことを、いってはいなかったか?
 確かに……思考の中で、どんなにシミュレーションを繰り返しても……体は、その通りに動いては、くれない。
 しかし、逆にいうと……身体能力に頼らない方法であれば、データさえ揃っていれば、事前に何度もリハーサルを行って事態に臨むことができる茅は……多くの局面で、かなり有利に事態を進められるのではないか?
 特に……相手が、茅のことを見くびって、油断している場合は……。
 今回の東雲目白のように……あるいは、以前の酒見姉妹のように……。

 四人がそんな会話をしながら、それぞれ、物思いにふけっている間にも、子供たちは、為す術もなく立ちつくす東雲目白に、容赦なく雪玉をぶつけている。
 東雲目白は、雪玉を避けもせずに、自分の体に冷たい塊がぶつかるたびに、世にも情けない表情のまま、両腕を掲げて、「がおぉ。がおぉ」と声を上げている。
 すっかり、茅の術中に嵌っているようだった。

 東雲目白の体は、すぐに雪で真っ白になった。





[つづき]
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