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彼女はくノ一! 第五話(267)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(267)

 茅の意識のほとんどは、現在、この町を盤面にして進行しているゲームの方に集中している。
 投入可能な人員が、いつ、どこに発生するのか、分からない。また、一時は協力してくれた人がどういうタイミングで離脱するかも、まるで読めない。ボランティアとして行っている以上、命令や強制はするべきではなく、去就のタイミングは参加者個個人に任されている。加えて、参加者各位の現在地や移動範囲もバラバラ。
 作業の進行状況も、そうした各種条件により変化してくるわけだが、その「各種条件」を決定するためのパラメータは膨大であり、また、相互に影響しあっている。
 例えば、現在二手に分かれて稼働している鉄板部隊が通った後なら、徒歩での移動は比較的容易になっているが、その他の地区はまだ雪が放置されているため、車両などを使わない限り、長距離の移動には向かない。
 そこで、鉄板部隊には、できるだけ広範囲に動いてもらって、まず移動をスムースにしてもらい、各所に散らばって即席の班を編成しつつある参加者には、手近な歩道や路幅の狭く車両の通行量が少ない道、余裕があれば、周辺世帯の玄関先から行動までを、順次片づけて貰っていた。車通りの多い道は、多少雪が残っていても、すぐに踏みつぶされるだけで、放置していても問題は少ない。
 人通りや車通りが少ない道で、雪がそのまま凍り付く、というパターンが、歩行者転倒事故の原因になりやすいので、雪が新しいうちに片づけるのが望ましい……。
 茅は、そうした複雑な条件を考慮しながら、刻々と着信する膨大な「作業報告」に返信し、その報告に基づいて手持ちのデータに修正を加え、そうして修正した情報に基づいて新たな指示を送る、という行為を繰り返す。

 その途中、茅が「東雲目白」として認識している存在が、茅の知覚圏内に侵入し、周囲の人々の感覚に干渉して、自身の存在をくらましている……のを、茅は関知した。
 茅は、以前から想定していた「佐久間系の術者が干渉してきた場合」の対処法を検索し、数羽種類かある中から、即座に現状に最も適したものを選択、若干のアレンジを加えて実行する。
 目下のところ、茅の判断処理系リソースのほとんどは、ノートパソコンとメールを通して行われているゲームのために裂かれている。そのため、茅は自分の処理系リソースを無理に分割し、以前より用意していた対処法サブルーチンを自動的に走らせる。
 つまり、茅は、意識のほとんどをボランティア活動の管制に集中させながら、東雲目白に気付かれないように、その処理系に接触、ろくに内部を操作しないまま、東雲の意識下に「他者への攻撃行動の禁止」、「茅との距離が五メートル以内になったら、その場で、自力で移動すること禁止」、というコマンドを書き込む。
 以前、茅の目の前で佐久間源吉がしていた事を、少しアレンジして再現しているだけなので、この程度の処理なら、あまりリソースを裂かずに実行できる。
 また、予想していた「東雲目白」の抵抗も、なかった。
 東雲は、茅が佐久間系の資質を持っている、という情報を握っていないのか、それとも、そうした情報を得ていた上で、なんの教育も受けていない茅が、そのまま佐久間の術を使う、ということを「ありえない出来事」としてはなっから除外しているか……とにかく、まるで警戒していなかったの明らかで、おかげで茅は、そうした仕事を拍子抜けするほどやすやすと実行することが出来た。
 そうした東雲の無防備さと、以前、佐久間現象がみせた反応からみても、「術者としての教育を受けていない佐久間」が、佐久間としての技を行使する、というのは、「ありえないこと」である、というコンセンサスがあるのではないか……と、茅は推測し、その事項を記憶に止めた。
 予測していた東雲の抵抗がなかったので、茅はさらに、東雲の意識に「雪玉が当たったら、両腕を上げて鳴き声をあげる」というコマンドも書き加える。

 そんなわけで、東雲目白が実際に茅のそばに来てて、東雲自身がそうと意識しないまま、茅が書き込んだコマンドに従って足を止めた時も、茅は安心して作業に集中することができた。
 茅の中では、その時点で「東雲目白の案件」は「処理済み」として区分されていた。

 その後の推移も、茅の予測を越える事態は起こらず、これまた予測の範囲内の反応を示した有働との会話の後、茅は、「東雲目白が佐久間系の術者として水準的な能力を持つのなら、佐久間の術者の知覚半径は、茅よりも狭く、また、感度も鈍いのではないか?」という疑問を、脳裏に書き込む。
 他の佐久間系の術者に接触するまで、実証が不可能な仮説だったが、この仮定が「真」であるとするならば、今後、茅は佐久間系の術者に対して、大きなアドバンテージを得ることになる。
 今後、検証する機会があったとしても、その結果に関しては、出来るだけ秘匿すべきだ……と、茅は判断する。
 手の内は、可能な限り晒さない。手持ちのカードは伏せたままの方が、ゲームをこちらの有利に進行する事が出来る。

 こちらの「大きなゲーム」の方は、茅と荒野の未来がかかっているのだから、茅としてもそれだけ真剣に取り組まなければならない、のだった。

「……有働……」
 有働との会話が一通り終わると、茅は、ひとかたまりになってなにやら会話しているテン、ガク、酒見姉妹を指さす。
「……シルバーガールズ、ちゃんと撮影して。
 今なら、子供たちの注意が、東雲に向いているの……」
「……はい」
 有働は茅に軽く頭を下げて、放送部員たちを呼び集めながら、校庭の中央に向けて駆けだしていった。上背がある割に、機敏な動作だった。有働は、体が大きくおとなしい性格をしているからそう見られることが少ないのだが、実は運動神経も、そこそこいい。
 有働が呼び集めると、周辺に散らばっていた放送部員たちはすぐに集合し、しばらくなにやら話し合いをした後、機材やレフ板を構え直し、改めて本格的に、テンとガクを撮影しはじめた。
 今度は子供たちも邪魔をするということがなく、興味を持って撮影を見物する子たちが若干いた程度で、撮影は滞りなく進行した。

 それから小一時間ほどは、特に何事が起こるということもなく、おだやかに過ぎ去っていく。
 雪かきボランティアは、時間が経つにつれて参加人数が飛躍的に増大し、そうした人々の何割かは自宅からスコップなどの道具を持ち寄ってくれたから、状況はどんどん良くなっていった。
 何より、早い段階で鉄板部隊が主だった道を通してくれたことが、大きなはずみとなった。これがあったので、様子見をしていた人たちも、結果として多く参加してくれたのではないか……と、茅は推測する。
 ノートパソコンで進行状況を確認した茅は、頃合い良しと判断してこの小学校から持ち出したスコップを回収するよう、メールをうった。

 それと前後して、滞りなく校内での撮影を終えた一団が、茅に「後、何か撮影しておくものないですか?」と聞いてきたので、茅は「校庭での撮影が一通り終わったのなら、シルバーガールズが実際にボランティア活動をしているシーンを撮影して置いて欲しいの」と答える。
 この時点で、茅は、「シルバーガールズ」の件に深く関わっている訳ではなかったが、自主勉強会などの影響もあって、同じ学校に通う生徒たちの間では、「何か困ったことがあったら茅に聞け」という風潮が形成されつつある。
 また、茅がボランティア活動の実質的な指揮を取っているのは、この場にいる者にとっては周知の事実だった。
 茅の返答を聞いた放送部員たちは、
「……そうか……。
 もともと、そっちの方のマスコットだもんな……」
 と頷きあう。
 テンとガクは、ちょうど、スコップを担いで帰ってきた一族の者から、それを受け取り、撮影部隊を引き連れて、意気揚々と校門から出ていった。
「茅の護衛」を自認する酒見姉妹は、茅と一緒に残り、この頃には子供たちにも飽きられ、しかし、自分で動くことを封じられ、立ち尽くすばかりだった東雲が、ようやく茅にコマンドを解除された。
「……姫さんは、並の術者よっりもよっぽどたちが悪いや……」
 自由を取り戻した東雲は、その場にぐったりとへたり込んで、疲労がにじみ出る口調でそういった。




[つづき]
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Comments

披露…疲労ですかね

  • 2007/02/01(Thu) 21:20 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

疲労がたまるとニアミスが多くなる。

毎度ありがとうございます。
修正完了いたしました。

  • 2007/02/02(Fri) 01:47 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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