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彼女はくノ一! 第五話(268)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(268)

「……はい。茅?
 うん。そっちは一段落ついたのか。そうか。
 うん。うん。
 ああ? ああ……そう、だな。
 確かに、そろそろ、人が多くなってきたし……うん。うん。
 わかった。そういっとく。
 じゃあ、徳川はもう少しで来るんだな……ああ。うん。
 わかった。
 え? 
 まあ……茅がそういうのなら、おれは別に構わないけど……うん。うん。
 じゃあ、そういうことで……」
 通話を切って携帯をポケットにしまうと、楓と孫子が何かいいたそうな顔をして荒野を見つめていた。
「……茅から。
 雪かきの方は順調に進んでいる。
 もう終わりが見えてきたから、これ以上の増援は必要ない。
 徳川が、このドラム缶もって、あと三十分くらいこっちに来る。
 予算が足りないのなら、必要な費用は徳川が持つそうだから、みんなに振る舞うこれみたいなのを、もっと用意してくれ、って……」
 荒野は、その場にいた楓と孫子に、ドラム缶の炭火コンロとその上に乗っている甘酒の鍋を指す。
「……それ、無料で差し上げていますの?」
 まだここに着いたばかりで事情をよく把握していない孫子が、荒野に問い返した。
「そうなんだよね」
 荒野は、頷く。
「……これは、玉木がかけ合って商店街に原料の実費、負担して貰っているわけけど、徳川は、この際だから、金に糸目をつけずにどんどんやれ、といっている……」
「……乗りましたわっ!」
 孫子は、いきなり大声を出す。
「……なんだよ、いきなり……」
 荒野は、少し身を引き気味にしながら、尋ねた。
「その話し、わたくしも便乗しますわっ!」
 孫子は、勢い込んで荒野に説明する。
「せっかくイベントですものねっ!
 最後の週末くらい、景気良く大盤振る舞いいたしましょうっ! うちの会社の宣伝も兼ねてっ!」
「……才賀の場合、後半のが主目的なんじゃあ……」
 荒野の呟きは、孫子に無視された。
「……楓も手伝いなさいっ!
 そうと決まれば、今から、材料の買い出しに行きますわ……」
 孫子は、「あの、えっとぉ……」とか口ごもっている楓の腕を引いて、商店街の方向にずんずん歩いていく。時刻的に、多くの店舗は店を開けたばかりであり、人通りはまだ、本格的に多くはなっていなかった。
「……大丈夫かな、あいつら……」
 荒野は、アーケードの奥に消えていく二人の背中を見つめて、鍋につっこんだおたまを廻しながら呟く。

「……あ、あの……」
 孫子に強引に連れ去られた楓は、戸惑い気味に孫子に声をかける。
「材料……向こうと同じものでも芸がないから、お汁粉にでもしようかしら……それと、大きめのお鍋もいくつか……」
 楓の腕を引きながら、ぶつぶつとそんなことを呟いていた孫子は、楓に声を掛けられて振り返る。
「なに?
 みんなの役にたつのが、不満なの?」
 心底怪訝そうな顔をして、孫子は楓を振り返る。
「……いえ……そういう、わけでは……」
 楓にしてみれば、孫子がわざわざ自分を引っ張ってきた、という事実が不審なわけだが……楓の性格だと、当の本人に面と向かってそういうわけにはいかないのだった。
「あっ!
 でも、何をやるにせよ、玉木さんに連絡して、了解をとっておいた方が……」
 そこで楓は、慌てて話題を変える。
「……やっほぉー! 呼んだかぁいっ!」
 ちょうどその時、スコップを担いだ玉木が近寄ってきた。後ろに、数人のボランティアスタッフを従えている。
「商店街周辺部隊、無事任務完了して、荒野君ところに帰投して、甘酒で乾杯しようと移動していたところなんだけど……」
「……いいタイミングですわ……」
 と、孫子は勢い込んで、玉木に説明しようとする。
 が、玉木は掌をかざして、
「ちょっと、待ってね……」
 と孫子を制止して後ろを振り返った。
「みなさーんっ!
 今日はご苦労さまでしたぁっ!
 おかげさまで、商店街周辺の道はすっかりきれいになり、お年寄りでも安心して歩けるようになりましたぁ!
 駅前広場のステージ脇に、心尽くしの甘酒を用意していますので、そこでスコップを置いて、多少なりとも体を温めてお帰りください。
 大きな雪だるまの脇で、白っぽい髪をした男の子が鍋をみているので、すぐに分かると思います!
 今日は、本当にどうもありがとうございました……」
 玉木は深々とボランティアスタッフたちに頭を下げる。
 ぞろぞろと玉木や孫子、楓の脇を通って駅前広場に移動していくボランティアを見送ってから、玉木は、改めて、孫子に向き直った。
「……で、なんの話だったっけ?」

「……ん。
 わかった。多分、問題はないと思うし、むしろ歓迎されると思う……」
 孫子の話しを一通り聞いた玉木はそういって、頷いた後、
「問題があるとすれば……もうちょいとすると、ぎっしりと人が集まって、そのドラム缶コンロの置き場所を確保することが難しくなるってことだねー……。
 トクツー君、いつくるって? あと、それ、いくつ持ってくるの?」
「……ええっと……」
 楓は、先ほどの荒野の話しを思い返す。
「……さっき、話ですと……三十分前後、とかいってましたから……あと、二十分くらいですか?」
「……今、確認してみます……」
 楓が答える間にも、孫子は携帯で徳川を呼びだしている。
 短い応答の後、すぐに通話を切り、孫子は玉木に振り返った。
「到着は、十分後。ドラム缶の数は、あと五個」
「十分なら、なんとかなるでしょっ……」
 玉木は、頷く。
「わたしは、交渉して置き場所を確保してくるから、お二人は、アーケードの入り口でトクツー君を出迎えて……。
 んで、到着したら、連絡くらはい……」
 早口でそういうと、玉木はきびすを返して去っていった。

「……後、は……」
 玉木が去ると、孫子は再び携帯電話を取り出して、どこかにかけながら、アーケードの覆いが尽きるはずれの場所まで歩き出す。
「あ。おはようございます。才賀です。
 今日は、折り入って頼みたいことがありまして。
 いえ。そんな大層なことではないんですよ。ええ。ちょっと商店街の方で……」
 などという調子で、孫子は二回、通話をしていた。
 そして、通話を切ってから、
「今……柏と飯島を呼びました。
 あの二人を呼べば、男子二名も来る筈なので、五カ所のカバーは十分に出来る筈です……」
 と、楓に説明する。
 五カ所、というのは、新しく到着するドラム缶コンロの数のことだろう。
 それからいくらもしないうちに、徳川のトラックが到着する。
 トラックが停車する前に、孫子は素早く携帯を操作しメールで玉木に「徳川、今、到着」といった内容を送信し、それから、楓と一緒にトラックの荷台からドラム缶を降ろすのを手伝う。
 荷台から路面まで板を渡し、その斜面をひとつひとつ、徳川、敷島、楓、孫子の四人掛かりで転がして降ろしていく。
 実は、徳川を除く三人にとっては、中身の入っていないドラム缶程度なら、特に問題なく担いでいけるのだが、人目がある場所でそういう行動を行うわけにもいかない。
 ましてや、孫子と敷島は、スーツ姿だった。
 虚弱な徳川など比較の対象にもならない身体能力を持つ少女二名と性別不明一名は、せいぜいか弱い素振りをしてみせねばならなかった。




[つづき]
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