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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(185)

第六章 「血と技」(185)

 小学校を出て、自分の学校へと向かう途中、トラックの助手席で、徳川は孫子からの電話を受けた。
『こちら、才賀ですが』
「用は何なのだ? どうせ、急ぎなのだろう?」
 ちらりと液晶を確認したので、誰の携帯からかかってきているのかは、電話にでる前の段階で判明している。それに、孫子も徳川も、用事もないのに電話をかけあってだべるような性格でもないのであった。
『では、手っ取り早く用件をいいます。
 可及的速やかに、ドラム缶を商店街に持ってきなさい。
 早ければ早いほど、都合がいいです』
「了解なのだ」
 徳川は、あっさりと頷き、隣の運転席にいる敷島に顔を向けて、
「鉄板班を学校で降ろして、一旦工場に戻って商店街でドラム缶を降ろし、その後、鉄板班を回収にいくのだ」
 と告げ、再び携帯に向かって、
「他に要望はないのか?」
 と確認した。
『他に要望はありません』
 孫子はすぐに言い切った。
『どれくらいでこっちに着きますか?』
「ドラム缶を積み込む時間もあるので、十五分ほどみておくのだ」
 徳川は、答える。
「それ以上、早くなることはあっても遅くなることはない」
 もう学校が見えてきている。工場へも、工場から商店街へも、トラックを使えばすぐに着く距離だ。
「他に何もなければ切るのだ」
 そういって徳川は通話を切って白衣のポケットに収め、シートベルトを緩めにかかった。
「あなた方は……いつも、そんな調子なんですか?」
 気づくと、敷島がバックミラー越しに徳川の表情を確認している。なにやら、おもしろがっているような表情をしていた。
「才賀との会話は、他の連中と違って冗長性がないので快いのだ」
 徳川は、敷島の表情の変化に気づかない風で、用件だけを告げる。
「鉄板班を降ろしたら、すぐにでるのだ。
 本当なら教員か学務員に事情を説明してから行きたいところだが、時間がないそうだからそれは省略するのだ。
 何、この学校の大人どもも、この程度の生徒の強引さには慣れたものなのだ……」
「着きました」
 校門前で、敷島はブレーキをかける。
「急ぐなら、ここから手持ちで行きましょう。
 荷台に乗っている連中なら、わけない筈です」
「それでは、任せるのだ」
 徳川は、一度緩めたシートベルトを再び締め直す。
 代わりに敷島がシートベルトを外してドアを開け、半身だけ外に乗り出して、荷台に乗っている男たちに声をかけた。
「野郎ども!
 予定変更だ。そのまま荷物持って飛び降りて、即刻作業に取りかかれっ!
 少ししたら、また回収に来るっ!」
 敷島が吠えると、即座に複数の人影が荷台から飛び降りた。
 敷島は、何事もなかったようにシートベルトを締め直し、トラックを発車させた。
「工場でも、この調子でいきます。
 ドラム缶の五個や六個なら、号令一つで居残っている連中が積んでくれますよ。それこそ、あっとういう間に……」

「……あの……」
 一方、小学校の校庭では、雪まみれになった東雲目白が寒そうに自分の肘を抱いて震えていた。
「どっか、ここいらに……着替えて、体拭いて、暖まれる所、ないっすか……」
「国道沿いに、ビジネス・ホテルが……」
「商店街の外れの方に、カプセル・ホテルが……」
「町外れに、サウナがあるの……」
 以上、順に、酒見純、酒見粋、加納茅の回答である。
 何故か、後に行くに従って、グレードが落ちていく。
 ……おれ、とことん甘く見られているな、この餓鬼どもに……と、東雲は思った。
「いや……そういうところでも、いいっすけど……できれば、若のマンションとかでシャワーくらいお借りしたなぁ、って……」
 内心の思惑とは裏腹に、東雲は下手に出た。
 何かと悪評の高い酒見姉妹は論外だが、一見大人しそうな茅でさえ、平気であのような真似をする、ということを、身をもって知ったばかりだったからだ。
「……そう……ね……」
 茅は、少し思案顔になったが、すぐに、
「……いいの。
 管制作業も、落ち着いてきたし……」
 そういって、左手で抱えていたノートパソコンを、素早くタイピングした。
 そして、すぐに、
「純……。
 これ、来た時と同じように、持って……」
 と、そのままノートパソコンを、傍らの「酒見の片割れ」に手渡す。どうやら、茅は、双子の見分けがつくようだった。
「……はい。それは、かまいませんけど……」
 茅からノートパソコンを受け取った酒見純は、怪訝そうな表情で茅に聞き返した。
「こんな胡散臭いの、あのマンションに入れちゃって、いいんですか?」
 ……お前がそれをいうか……と、東雲は思ったが、もちろん、そんなことを考えているとは、口にも態度にも出さない。
「いいの」
 茅は、簡潔に答える。
「下手な真似をしたら、三人がかりでお仕置きなの」
 茅のその答えを聞いた途端、酒見姉妹は声を揃えて、
「……おおー……」
 と、
「……ああー……」
 の中間のような、感嘆の声を上げる。
「「……そうですね。
 それは、楽しみなのです……」」
 そういって二人は、東雲には理解できない理由で、しきりに背中に片手を回した。
 ……いったい、何がどう楽しみだというのだ……と、東雲は思った。




[つづき]
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