2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(186)

第六章 「血と技」(186)

 帰って来るなり、茅は、
「これ、着て。
 見苦しい格好で、うろうろしないように……」
 といって、荒野のスポーツウェアを東雲目白に手渡し、バスルームに放り込んだ。
 そのまま、キッチンのテーブルにノートソートパソコンを置いて猛烈な勢いでキーをタイプする。
 やることがなくなり、かといって、茅の側から離れるわけにもいかない酒見姉妹は、交代で着替えながらお湯を沸かし、「試しに」紅茶をいれてみる。
 わざわざ「試しに」と入れたのは、酒見姉妹は、これまで、紅茶どころか普通の緑茶でさえ、自分でお茶を煎れた経験がなかったからで、でも、茅が紅茶をいれる所は何度か見ていたから、見よう見真似で何とかなるだろう、と思っていた。
 茅に「キッチンを使っていいか」と尋ねたところ、茅が生返事で「構わないの」といったので、ケトルを火にかけ、交代で別室に着替えに行く。茅の元に最低一人いるようにしたのは、東雲のことを完全に信用しきっていないからだった。
 二人が元のゴスロリドレスに着替え終わった頃、ちょうどお湯が沸いたので、二人して、茅のポットに茶葉とお湯を入れ、蒸らしてみる。
 一応、茅がいつも行っている動作を反復してみたし、お湯や茶葉の量も、大きくは間違っていない……筈だ、と、酒見姉妹は顔を見合わせて頷きあう。
「……雪かき作業、コンプリート……」
 茅がそう宣言した時、荒野のスポーツウェアを着た東雲が、バスルームから出てきた。東雲と荒野は体格差がほとんどなかったので、ラフな格好をしている、という意外に、特におかしな所はない。
 しかし、荒野が同じ服を着ているのを何度も見ていた三人は、いっせいに、
「……似合わない……」
 といった意味のことをいいだした。
「いや……若みたないなルックスのと比べられても困るんだけど……」
 そういわれても東雲は、特に怒ることはなかった。むしろ、本気で困惑している。
「君たちね……若みたいなのを見慣れてアレがデフォになっちゃうと、半端に妥協できなくて、いつまでも彼氏できないよ……」
 と、酒見姉妹に顔を向け、真面目な顔をしていう。
「……そんなもの、別に……」
「……欲しいとも、思ってませんし……」
 平然とした表情で素っ気なく答えながら、酒見姉妹はポットのお茶を人数分のカップに均等に注ぐ。
 これも、茅の動作の見よう見真似だ。
「……って、姫さんは、相変わらず、忙しそうだし……」
 三人のやりとりに興味を示さず、相変わらず忙しそうにキーを叩いている茅に、東雲がいった。
「相変わらず、忙しいの」
 茅は、手も休めずに返答する。
「今朝の経験を、プログラムに移植している所なの。
 全ての判断を機械任せにすることは原理的に不可能だけど、長期的な視野に立てば、省力化の努力は怠るべきではないの……」
「……本当……しっかりしてなぁ……ここの姫さんは……」
 そんなことをいいながら、東雲は、酒見の一人が手元に置いたカップを引き寄せる。
 同時に、茅も自然な動作でカップを手にとって、口につけた。
 不意に……東雲と茅の顔がこわばり、全身が硬直する。
「「……えっ?」」
 二人の反応を見て、酒見姉妹は目を見開いて驚愕の表情を形作った。
「……お前ら……」
 東雲目白は、ゆっくりと時間をかけて口に含んだ紅茶を嚥下した後、二人にこういってみた。
「……自分の分、飲んでみ……」
 そういわれた酒見姉妹は、顔を見合わせて頷きあい、固唾を飲んでから、カップを傾けた。
「……渋い……」
「……苦い……」
 そして、同時にそう呟く。
「たかが紅茶を、ここまでまずく入れられるのも……一種の才能だよな……」
 ため息をつきながら、東雲はそう感想を述べた。
「……お湯の温度と、蒸らし時間が全然、違うの……」
 俯きながら、うっそりとした口調で茅がいった。
「茶葉の種類によって、最適な温度と蒸らし時間というものが、あるの……」
 茅は、こころもち怖い顔をして、やおら立ち上がる。
 唐突な茅の動作に、酒見姉妹は「「……うひぃっ!」」と小さな悲鳴を上げて、寄り添って両手を繋ぎ合った。
「……来るのっ! 酒見たちっ!
 紅茶の精髄を教えてやるのっ!」
 どうやら茅は、姉妹のいれた紅茶を、「紅茶という飲料に対する冒涜だ」と受け止めたらしい。表情は真剣そのものだったし、その目をみれば、闘志のほどがみてとれた。
 酒見姉妹は、こくこくと頷きながら、ぴょこん、と椅子から立ち上がり、茅の後に従った。
 茅は、懇切丁寧な解説付きで、「おいしい紅茶のいれ方」を実演する。
 酒見姉妹は、これ以上はない、というくらい真剣な面持ちで、茅の講習を聞いている。
「……それにしても……」
 そんな三人の背中を半眼でみつめながら、東雲は気の抜けた声を出す。
「……平和だねぇ……ここ……」
 東雲は……こんなに平和で、いいんかいな……とか、思っていたが……その後、一時間以上にわたって、「酒見姉妹がいれた紅茶」の毒味……いや、試飲役を延々と強要されるとは、想像だにしていなかった。
 つまり、茅が付きっきりで指導していても……酒見姉妹は、なかなかまともな紅茶をいれることができなかった。
「……いや、本当……ここまで、できないってのも……珍しい……。
 これはこれで、一種の才能だぞ……」
 香りが飛んでほとんど白湯に近かったり、逆に濃すぎて飲めたものではなかったりする紅茶を飲み過ぎて腹をたぷたぷにしながら、東雲はそう呟く。
 酒見姉妹は、東雲に申し訳さなそうな顔を向けたが……完全に「本気モード」に入っている茅の手前、中途半端な所で止めることもできないのであった。
『……ここの姫様って……あれで、怒らせると怖いんだな……』
 と、東雲は、肝に銘じた。
 銘じたからといって、何がどうなるという問題でもないのだが……。




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび

無修正アダルトビデオ イッテル
アダルトアフィリエイト
盗撮動画のデバガメ<br>
無修正アダルト動画 Onacle.tv

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ