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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(178)

第六章 「血と技」(178)

 茅はノートパソコンを操作して画面に近辺の地図を表示させ、その地図上に、いくつかの白い光点を表示させた。白い光点は、地図上にまんべんなく広がっている。
「……あまり、正確なものではないけど……現在、登録中の、ボランティア要員の所在地を表示させてみたの……」
 茅はカーソルを操作して、光点の一つをクリックしてみせる。すると、ウィンドウが開き、メールアドレスや年齢、性別などの個人情報が閲覧できるようになる。
「この間から作っていた、インターフェース。
 まだ試作品だけど、リアルタイムに誰がどこにいるか、だいたいの位置が把握できるの……」
「その位置情報って……どの程度、正確なの?
 あと、どうやって現在地を判断しているの?」
 ノートパソコンを覗き込んでいた荒野が、茅に尋ねる。荒野も知らない間に、茅がこのようなシステムを作っていた……ということは、まあ、よしとしよう。
 おそらく、放課後、学校のパソコン実習室でごそごそやっていた時の合間にでも作っていたのだろう。また、「何故、こんなものを作ったのか?」という動機も、荒野には十分理解できる。今回のように、広範囲で行われるボランティア活動には、確かに便利なシステムだろうが……本来の目的からいえば、もっと緊急を要する時に使用するではないのか?
「残念ながら……今の時点では、位置情報は、さほど正確ではないの」
 茅は、荒野が考えていることを察したような表情で、首を横に振る。
「一部の機種では、携帯の位置情報を特定できるけど……大半は、自己申告の現住所を、機械的に表示しているだけ……。
 そのへんの機能の充実は、今後の課題なの……」
「……そっか……そのへんは、今後のバージョンアップに期待、ということだな……」
 荒野が茅の言葉に頷いた時、荒野の携帯が鳴った。
「……はい、加納ですが?」
『……徳川なのだ。
 たった今、敷島からの伝言を受け取った……』
「早いな……。
 ついさっき、電話を切ったところだぞ」
『トイレに行っていただけなのだ。
 用件は、敷島から聞いた。商店街はこっちに任せるのだ。
 ぼく自身も行くし、敷島も、何人か心当たりを連れて行くといっている。材料とバーナーを持参して、現地でもっとも効率的な道具を作るのだ……』
「……ちょっと待って、今、茅と変わる。
 できれば、その引き連れていく人たちの情報も、茅に渡して欲しい……」
『……それでは、こちらも敷島に変わるのだ……』
 荒野は茅に自分の携帯を手渡し、茅がそれを耳に当てるのと同時に、氏名と登録番号を復唱しながら、ノートパソコンの光点を、地図上の徳川の工場に移動させていく。白い光点が集まって、一回り大きな光点になると、茅はその光点からウィンドウを開き、光点の色を白から青に変える。
「……ボランティア活動に入った、という連絡が入った者は、色が変わるの。
 青が稼働中、黄色が待機中。徳川たちは、商店街に向かった所だから、商店街でも仕事が終わるまで、青色のままなの……」
 茅が、ノートパソコンのディスプレイを指さす。
 地図上では、徳川の工場を出た少し大きめの青い点は、道沿いに駅前商店街へと移動しはじめている。
「……他に、先の同報メールに、参加しますという返信した人の分も、色が変わるの……」
 荒野は、茅から受け取った携帯を操作して、メール画面を表示。着信していた同報メールを開けて、「参加しますか? Yes/No」のという文面の、「Yes」の部分にカーソルを移動させ、クリックした。
 すると、確かに、地図上でマンションにある光点の色が、黄色に変わる。そこにはいくつかの光点が重なっていて、判別しにくかったが……確かに、白い光点の中に、黄色い光点が混ざっていた。
 まだメールを出してから間がないためか、黄色い光点の数は、白い光点の数分の一ほどでしかない。
「……隣の人たちは、もう、外出した後みたいだな……」
 荒野は、隣の狩野家に光点がないのを確認した。
「……楓たちは……」
 茅は、狩野家から倉庫街に向かう道を指でたどり、そこに重なっている白い光点をクリックして、ウィンドウを開いた。
「楓と、テンとガク……見つけたの。
 才賀は、どこか別な場所にいるみたい……」
 話しながらも、開いたウィンドウを操作して、何やらタイピングをはじめた。
 そしてすぐに、茅がウィンドウを開いていた光点の色が、白から黄色に変わって、二手に別れた。
「テンとガクは、一旦、工場にいってシルバーガールズの装備を取ってから商店街に、楓は直接商店街に向かったの……」
 いいながらも、茅はなおも操作を続ける。
 商店街に近い黄色い光点のウィンドウを片っ端から開き、
「……今、商店街に近い待機者は、道具を持って商店街に集合させたの。
 残りは……さっき荒野がいったとおり、近場で集合させて、自分たちの近所を雪かきをして貰うの。
 この積雪だと、移動するのにも苦労しそうだから……」
「……なあ、若……」
 それまで、半ば呆然と成り行きを見守っていた東雲目白が、荒野に話しかけた。
「……これで、未完成だって?
 それから、ここいらの一般人は、この子は……いつもこんな真似やってんのか?」
「さっきも話していた通り、このシステムは未完成で……そして、おれの知る限り、これが実際に稼働したのは、今回が初めてだよ……。
 少なくともおれは、今、はじめて見た……」
 荒野はせいぜい真面目な顔を作って、東雲に返答する。
「最初の稼働実験としては、いい機会なの」
 いうと、茅は立ち上がり、
「着替えてくるの」
 と言い残し、物置にしている部屋に消えた。
 酒見姉妹も、慌てて茅の後を追う。
「……荒野さん……。
 おれも、早く携帯欲しくなりました……」
 そういったのは、甲府太介である。
「……ああ。
 なるべく早く、手続きを済ませてやるよ……」
 荒野はそう答えた。




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