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彼女はくノ一! 第五話(271)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(271)

 孫子により、コンテスト出場者のために用意された控え室に引っ張り込まれた楓は、そこで待ちかまえていたゴスロリなおねーさんたちに一斉に襲いかかられた。
「……この子が、例の……」
「なるほど、スタイルいい……」
「肌もすべすべ……」
「はいはい。女同士なんだから、ちゃっちゃと脱いで……」
「……このぷにゅぷにゅの感触が……はぁはぁ……」
 一斉に襲いかかられた楓は、一般人相手に本気で抵抗するわけにもいかず、「わひゃっ」とか「ちょっ、何、どこ触っているんですかっ!」とか騒ぎながらも、結局はなすがままになっている。
「……せっかく、素材がいいんですから、たまには着飾りなさい……」
 そんな楓に向けて、孫子はこっそりと呟く。
「せっかくそのような風貌に生まれついたのですから、有効に活用にないのは、社会的な損失ですわ……」
 年末、孫子と楓の二人だけで、この商店街にあれだけの人を呼び込んだのだ。
 客観的に観ても、二人にはそれだけの存在感があるということで、孫子の価値観に照らしあわせれば「手持ちの資産を有効に使いきらないのは損失」なのである。
 つまり、孫子にとっては、自分自身や楓の外見が他人に与える影響までも含めて、「資産」として認識していることになる。
 楓の準備が整うのを待つ間、孫子は携帯電話を取り出して、あちこちに電話をかけて連絡をとっていた。

 約二十分後、楓は、どピンクのふりふりドレスに身を包んでいた。もちろん、メイクもばっちりである。
 コスプレめいた、これだけ極端な扮装を身にまとっていても、それなりに様になっているのは、着ている楓に確とした存在感があり、衣装に着られてはいないからだった。
 もちろん、客観的にみれば、滑稽は滑稽であるのだが……その中にも、凛としたものも、感じさせた。
「……準備ができたら……」
 孫子は、再び楓の腕を引く。
「……行きますわよ!」
「あの……行くって、どこに……」
 楓は、孫子に腕を引かれながら、そう尋ねる。
「……もちろん、商店街の皆様に、サービスを行うのです!」
 孫子は張り切って答えた。
「……わたくしたちの美貌も、有効に活用しないないのは、損失というものですわっ!」
 孫子の本心からの言葉であり、素でそういうことをいえるのが孫子の強みでもあった。

 堺は商店街のアーケドが終わる場所で数十分、待ち続けていた。その間にも、周囲の人出はわらわらと増え続ける。それも、「商店街へ集まってくる人」よりも、「アーケードの中から溢れてくる人」の方が、多い。それはつまり、駅からでてきた、町の外からやってきた人が多い、ということで……。
『……年末の時、みたいだな……』
 と、堺は思っていた。
 商店街に人を呼ぶのが今回のイベントの目的だ、と聞いている。堺の目から見ても、その目的は十分に達しているように思えた。
「……まぁくーん!」
 この寒空の下、長時間に渡って待たされていた堺雅史のもとに、鉄製のバケツを手にした柏あんなが、人の間を縫って近寄ってくる。あんなの背後には、何やら大きな袋を担いだ飯島舞花と両手で鍋を抱えた栗田精一が続いている。
「……ごめんねー。待たせちゃって……。
 なんか、バタバタしちゃって……」
 柏あんなが、バケツを地面に置きながら、堺にそういった。
「……ちょっと、待ってな……。
 今、すぐに暖かくなるから……」
 舞花がそういって、担いできた袋の封を切り、ざらざらざらっーと中身を堺の前にあるドラム缶コンロにあける。
 炭、だった。
「で、これが、種火……」
 柏あんなが、バケツの中身をその上に持ち上げる。
 さらにその上に金網の蓋をして、栗田精一が、持参した鍋を置く。
「……扇いで。
 火の周りが良くなるし、火が燃えればすぐに暖かくなるから……」
 柏あんなが、ベルトに差し込んできたうちわを、堺に差し出す。
「……う、うん……」
 堺は、それを受け取って、気弱に頷いた。
「また、すぐに後で来るから。
 自転車、ここにおいておくと邪魔だから、玉木先輩の家の方に置いてくるね。
 それから、他の助っ人の人たちもおっつけくると思うから、その時は、よろしく……」
 そういって三人は、乗ってきた四台の自転車のハンドルと取って、すぐに去っていった。堺が留守番をしていたので、鍵はかけていなかった。
「……一体………」
 何が起こっているんだろうか、と思いながらも、堺はいわれた通りに、炭を扇ぎはじめる。
 風を送ると、種火の炭から徐々に周囲の炭へと、火が移っていく。そちらからの熱と、それに運動による体温の上昇とで、堺はすぐに汗をかきはじめた。
 なるほど、舞花のいうとおり、これは、暖まる……とか、思いはじめた時、
「……堺……」
 と、声をかけられた。
 顔をあげると、コートに裾の長い、黒っぽいスカート姿の茅が、自転車に乗ったまま、堺の顔をみていた。
「他のみんなは?」
「……奥の方に」
 堺は、答える。
「ぼくはずっとここにいいるので、そっちの状況がよくわからないんだけど……玉木さんあたりに聞けば、そっちの様子はよく分かるんじゃないかと……」
「堺は、一人でここにいるの?」
 茅が、尋ねる。
「……う、うん……」
 堺は、頷いた。
「そうなの……」
 茅は、一拍の間を置いた後、後ろに振り返って、
「……酒見たちは、ここで堺の手伝いをするのっ!」
 と、言い残し、しゃーと自転車を走らせてアーケードの中に去っていく。
 アーケードの中は、この時点では、まだ辛うじて、自転車で通れるほどの混雑だったが、もうすぐに徒歩でしか移動できなくなるだろう……と思わせる、混雑ぶりだった。
 堺は、後に残された二人をみる。
 まったく、同じ顔、同じ服装をした女の子が二人、取り残されていた。その服装も……いわゆる、ゴシック・ロリータだった。ただでさえ、異様な印象を受けるというのに、「同じか顔の二人が、同じ服を着ている」ということによって、その「異様な」感覚が増幅される。
 おそらく、双生児だろうとは思うのだが……堺は、その子たちのことは、遠目に見かけることはあっても、正式に名乗りあったり会話を交わしたことがない。
「……あ、あの……」
 とりあえず、堺がそう声をかけると、
「「……とりあえず、なにをすれば……」」
 その双子が、ユニゾンで、堺に尋ねた。

 炭の袋とバケツ、それにステンレスの鋏が残っていたので、双子には、通りの向こうに置いたままになっているドラム缶で、火を起こして貰うことにする。堺が見ていた方のドラム缶は、もう十分に火が回っていたから、うちわも、双子に渡した。
 堺自身は、再びすることがなくなったわけだが、さてどうしようかな、と考えはじめた途端、
「……こちらには、他に、誰もいませんの?」
 と、今度は盛装した孫子に、声をかけられる。
 一瞬、堺が返答に詰まったのは、孫子が白と黒を基調にした、見事なゴスロリ・スタイルを着こなしていたからだ。
「……う、うん。
 でも、またすにすぐにこっちに来るようなことをいっていたから……」
 堺は、孫子の背後にいる人影をみながら、そういう。
 孫子のすぐ後ろにももう一人、ひときわ派手などピンクの似たようなドレスを着た娘がいて、その人が恥ずかしそうに俯いていることもあって、最初は誰か、なかなか気がつかなかったのだが……しばらく、「誰かに似ているなぁ……」と訝しく思いつつ、みていたのだが……よくよくみてみれば、それは、楓だった。
 普段の楓のイメージとその格好と、あまりにも落差があったので、なかなか気付かなかったが……似合っているのかいないのか、でいえば、もちろん、似合っている。
 ただ、典型的な日本の田舎町である周囲の景観に、孫子とか楓のファッションが似合っているかというと、それはまた話しが別になるのだが……。

「……あれ? おねーちゃんたち……」
「……どうしたの? こんなところで……」
 今度は、銀ピカのプロテクターを着込んだテンとガクが、声をかけてくる。
「……ボクたち、雪かき終えて、スコップ返してから、こっちに来たんだけど……」
 二人は、背後に有働勇作をはじめとする放送部の撮影隊を引き連れていた。
 モノクロの孫子とどピンクの楓、それに銀ピカの「シルバーガールズ」に前後をとられ、堺雅史は、「どんどん、複雑なことになっていくな……」と、思った。




[つづき]
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