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彼女はくノ一! 第五話(272)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(272)

 アーケード出口に陣取った一団が、火を起こし、実際に鍋の中身を配りはじめる頃になると、徐々に多くなっていた人出はいよいよ本格的に凄いことになってきた。
 当初は人目を引く派手な扮装をした楓、孫子、テン、ガク、茅、酒見姉妹が配布係を、それ意外の者が鍋や燃料を補充する、という役割り分担を行っていたが、孫子が声をかけておいたコンテストの出場者たちの中で、予想外に協力を申し出てくれる人が多く、人の多いアーケード周辺はそちらに任せて、ということで、楓たちは自発的な志願者に押し出される形で、より人が少なく、アーケードという天井がない、北口方面へと移動することになった。コンテスト出場者にしてみれば、より多くの人々に自分の存在をアピールしておきたい、という欲望があるのは当然であり、コンテストにエントリーしていない楓たちが座を譲るのは当然だし、それに、本来ならこの町に対してなんの義理も義務ない自発的な協力者の便宜を考慮するのは当然だ、という考え方である。
 また、人手の増加とともに、消費される物量も当初の予想外に広がり、最初のうち、玉木の家で行っていた仕込み作業もだんだん間に合わなくなり、数カ所の心当たりに玉木が交渉して、分散して準備を行うようになっていった。材料を補充する場所が数カ所に分散したことにより、それを運ぶ裏方連中の移動距離と負担はかなり軽減され、また、地元民である舞花やあんな、玉木らは、常時、顔見知りを見つける度に声をかけ、「暇なら少し手伝っていって」といった具合引っ張り込み、その「手伝い」がさらに別の人々を引っ張り込む……という連鎖も往々にして発生し、それに加えて、雪かき作業から引き続き手伝いに参加しているボランティア組、または、テンやガクに随行してきた放送部員たちも、撮影の合間に交代で手伝いに向かいったりしており、仕事量が多くなっただけ、それを処理する側の人手も増え、なんとか均衡を保ちながら推移したのであった。
 そうして自発的に協力してきた人々は、「この賑やかさな騒ぎに乗じて、多少なりとも参画したい」という欲求を満足させる為に手を貸す事が多く、その心理を分析するのなら、「苦役的な労働」である、というよりも、「お祭り騒ぎに便乗する野次馬根性」といった側面が、より強い。
 そうした地元の有志と一族の者が一緒になって、忙しそうに往来を往復している。一見して各個の出自を言い当てられるのは、完璧な記憶力を持つ茅とテンくらいなもので、傍目には、外見だけから一般人と一族の出身者を見分けることは不可能だった。ものもと、ボランティアにせよ、たまたま知り合いに見つかって引っ張りこまれた人にせよ、今日初めて知り合った者同士が共同作業をする、という局面の方が、むしろ普通なこの場にあって、一般人と一族の区別も、ほとんど意識する必要もないわけだし、また、実際に体を動かしていればそんなことを意識するような余裕もない。
 特に、その出自を絶えず意識していた一族からの移住組は、こうして一般人との共同作業を行う機会を与えられたことで、一時的に、ではあるにせよ、自分たちの出自など、別に関係ないじゃあないか……という、感触を得た。
 当初、テンやガクを中心に撮影をしていた放送部の面々も、次第に周囲の熱気に当てられ、次第に、「シルバーガールズ」というコンテンツに使用するための素材としてなら「背景扱い」であるはずの、「周囲にいる人々」を撮影する時間が長引いていく。それら、「市井の人々」の表情が思いの外生き生きとしているしていることに気付いたから、自然にカメラを据える時間が長引いてしまうわけだが、そうした逸脱行為を、玉木や有働も「良し」として承認した。
 実際に公表する段になると、肖像兼などの問題があり、いろいろと難しいのだが……「荒野たち、居異能の者たちが、いかにこの地元社会にとけ込んでいくのか」とテーマを持ったドキュメンタリーの素材としては、十分に活用できる素材なのであった。

 そうして、誰もが忙しく働いている間に時間はあっという間に過ぎ去り、午後に予定のある荒野は、たまたま見かけた甲府太介を手招きし、紙幣を渡して、
「駅前の牛丼屋で、弁当、買ってこい」
 と、命じた。
 荒野、茅、太介、楓、孫子、テン、ガク……それに、玉木と、玉木の弟と妹に、徳川の分……プラス、余分に買っておけば、誰かが食うだろう、と、とっさに勘定し、
「十五人分な。
 それと、帰りに茅に声かけて、交代で食事をするようにいってくれ」
 と、申し渡す。
 茅への連絡はメールでも良かったのだが、忙しくて手が放せない状況である、ということは分かっていたから、太介に言付けるのが確実だろう、と、判断した。
 時計をみると、十一時半を少し廻っていた。
 牛丼屋も込んでいるだろうから、多少待たされるにせよ、食事をして家に帰り、着替えて学校に向かっても、一時半からの手作りチョコ講習には十分に間に合いそうだった。

 その太介が弁当の袋を抱え、茅を伴って帰ってきたのは、十二時を少し廻った時だった。
 荒野は、玉木の兄弟や徳川にも、
「昼にしよう」
 と声をかける。
 すると玉木は、お茶の用意をしはじめて、他の皆も手を休めた。
 玉木の両親は、家業が忙しいらしく店にでずっぱりで、こちらにはたまにしか顔を出さない。それだけ盛況だ、ということでもあり、実に結構なことだ、と、荒野は思う。
 持ち帰りの牛丼をかき込みながら、荒野はその場にいた人々に、
「……おれ、午後に学校で用事があるから、一旦抜けるから」
 と告げる。
 そこのことを知っていた茅は、特に反応を示さず、玉木は「ああ」と納得した表情をする。事情通の玉木のことだ。おそらく、チョコ講習のことも耳にしているのだろう。徳川は、
「人数はもう十分に足りているから、こっちは心配することはないのだ」
 と、いってくれた。
 荒野は続いて、茅に、
「そちらの様子は?」
 と、尋ねる。
「盛況で、成功なの」
 茅は、箸を持ち替えて荒野にVサインを送った。
「下手すると、アーケードのある南口よりも、人が来ているの」
 紙コップを配布している人員目当てに、そちらに人が集まりつつある……という、ことらしかった。




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  • 2007/01/14(Sun) 13:28 
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