2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(188)

第六章 「血と技」(188)

 茅と酒見姉妹が商店街に向かっていた頃、荒野は、玉木の家の勝手口から何カ所かあるドラム缶コンロの所まで鍋をあげさげする仕事を担当していた。人出が多くなってきていたこと、それに、数カ所で同時に、通行する人に無料で配っていること、などの条件が重なり、鍋の回転率はかなり早かった。玉木の家で暖める分だけでは足らないので、中身だけを補充した鍋を、直接、ドラム缶のコンロで暖めてもいる。
 支給役は、孫子が声をかけて集めてくれたコンテンスト出場者のゴスでロリなおねーさんたちが、率先して協力してくれた。孫子にいわせると、その協力してくれる動機も、
「顔を売るため、表を集めるためですわ」
 とのことだが、例え動機が利己的なものであっても、手を貸して貰えばそれだけこちらが助かることにはかわりがないのだ。
 そうしたおねーさんたちに加えて、盛装した孫子自身と孫子に半ば無理矢理駆り出された形の楓、シルバーガールズの売り込みを兼ねて、あのコスチュームで駆けつけたテンとガク、やはり孫子に連絡を受けて駆けつけたメイド服姿の茅、ゴスロリ服の酒見姉妹なども加わって、かなりの盛況となっている。
 テンやガク、茅や酒見姉妹が駆けつけたのと前後して、徳川の工場に一旦戻っていた軽トラックが、新たにドラム缶のコンロを積んで戻ってきた。
 そのことを見越していた玉木は、パソコンでプリントアウトして設置場所に印をつけた地図を、駆けつけてからすぐに挨拶に来た茅に持たせておいた。
 茅は、一緒にトラックに乗り込み、商店街の北口方面、つまり、線路の反対側にある側を中心にして、地図にある場所にコンロを設置させていく。商店街の北口方面にはアーケードがなく、人通り的にも、南口方面よりは若干少なく、より閑散とした雰囲気に包まれている。
 そういう場所にこそ「賑やかし」は必要であり、アーケードのある南口方面は、コンテンスと出場者のおねーさん方に任せることにして、孫子や楓、テン、ガク、茅や酒見姉妹などの地元組は、もっぱら北口方面に出没して、耳目を引きつける役割を果たした。
 年末に活躍した楓や孫子の顔を記憶している地元住民は多く、紙コップに入れて暖かい飲み物を配布している間にも、始終、声をかけられることになった。
 楓や孫子ほではないにせよ、茅やテン、ガクの顔も、それなりに知られはじめていて、あまり頻度は多くないものの、たまに声をかけられもした。
 茅は、「マンドゴドラ」のCM映像と、年末のイベントで飛び入りしていることで知られていたし、テンとガクは、ここ数日、商店街に設置されたディスプレイの中で、その姿が繰り返し、放映されている。
「お披露目」してからまだまだ日が浅い、「シルバーガールズ」は、「広く知られている」とまではいかないものの、段々とその姿が認知されはじめているところで、今回、「実物」を多くの人の目に晒したことで、地元での知名度は一気に上昇した。
 何しろ、このコスチュームのまま、あちこちで雪かきに精をだしたりしてきて、その上、人通りの多い商店街に出没して、こうして紙コップを配っているのだ。
 これで、人々の記憶に残らなかったら、そっちのほうがおかしい。

 盛況になり、人が集まってくれば……それだけ、鍋の中身の消耗も早くなる。
 と、いうことで、玉木と一緒に、玉木の家の台所で補充作業を行っていた徳川は、独断で金物屋と食料品を扱っている店、何件かに連絡をつけて呼び出し、金物屋からは新たに鍋をいくつか買い入れ、食料品の店には、在庫にある使えそうなものは、片っ端から持ってこい、と命じた。
 すべて、即金払いのまとめ買い(ただし、領収証は、切ってね)、だったから、進んで、玉木の家まで配送してくれた。そのどれもが、商店街内にある店舗だったから、配送、とはいえ、「ご近所さん」なわけだが。
「……こうして、地元に派手に金をばらまいていれば、防犯カメラの設置もしやすくなるのだ……」
 と、徳川は、玉木と荒野に説明した。
 例の、「試用品の防犯カメラを、この近辺にばらまく」という話し、だった。
 確かに……派手に金を使えば使うほど、地元では、こちらの話しを真剣に聞いてくれるだろう……とは、荒野も思う。
 しかし、同時に、
「でも……お前個人の勘定でいえば、それって割に合わないんじゃないのか?」
 と、確かめずにも、いられない。
「加納は、アレの商品価値を過小評価しているのだ」
 荒野の問いに答えて、徳川はそういいきった。
「それと、あの子らの可能性を……。
 ここで多少散財しても、すぐに元は取れるのだ」
 徳川のいう「あの子ら」の中には、テン、ガク、ノリの三人組に加えて、ひょっとすると茅も入っているのかも、知れない。
 荒野には、その言葉が……徳川が身銭を切って、また、自ら出張ってきて協力しているのは、決して、同情心だけからではない……と、いっているように思えた。
「……別に、いいんじゃない?」
 二人の会話を聞いていた玉木は、そういう。
「カッコいいこーや君にいろいろ事情や思惑があるように、トクツー君にはトクツー君なりの計算や損得勘定があるんだよ。
 わたしだって、こういう状況を利用して、好きなことやっているわけだしさ……。
 それは、才賀さんや楓ちゃんだって、同じだと思うよ……。
 っていうか……他人に言われたからやる……って、そんな主体性のない人……うちらの仲間の中には、いないんじゃないかなぁ……」
 そんなことを話し合いながら、荒野たちは、せっせと鍋の準備をし続けた。

 その鍋を、玉木の家と配給係の間を結んで運搬していたのは、飯島舞花、栗田精一、柏あんな、堺雅史などの学校の仲間と、甲府太介や、一族の移住組の中から、自主的に協力を申し出てくれた人たちだった。
 一族の者たちに関しては、こうした運動が、長い目で見て、「自分たちが目指す共生」に対して、大きく寄与する……ということを理解した上での協力、だった。
 もっとも、そうした「理念」だけではなく、こうして「荒野や新種たちが、率先して荷担している」という「現実」を認め、その後を追おう、という群集心理もあるのだろうが……それでも、やはり、「労働力は労働力」、なのだ。
 助かるか、助からないか……といったら、非常に、助かる。
 だから、荒野も彼らの協力を、素直に感謝した。
 これは余談になるが、荒野はものの試しに、飯島舞花と柏あんなに向かって、
「……お前らも、ああやって着飾って、配る方に廻らないか?
 それなりに、似合うと思う……」
 と尋ねてみた所、
「……ああいうひらひらした、動きにくそうな服……できれば、着たくないんですけど……」
 と、柏あんなは少し不機嫌な表情になりながら答え、
 身長百八十オーバーの飯島舞花は、
「ああ。でも、わたしの場合……合うサイズ、ないと思うぞ……」
 恬然と、そう答えた。
 それに続けて、二人とも、「あんな恥ずかしい格好で表にでるくらいなら、肉体労働に勤しんだ方がまだまし」といった意味のことを付け加える。

 荒野も、まったくの同意見だった。




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび



12カ国語達人のバイリンガルマンガ。言語学者の考えた発音つき英語学習法。

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ