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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(190)

第六章 「血と技」(190)

 荒野が昼を用意した、というメールが来たので、茅を先に行かせた。すでに孫子も、駅前のステージでなにやらイベントがある、といって抜けている状態だった。三人ほどゴスロリ服のおねーさんが応援に駆けつけてきたので何とかなっているが、それでも、楓とテン、ガクは、買い物客の対応に追われていた。
「……こっち、なんか、アーケードの方より、人多くない?」
 応援で来たおねーさんたちは、そんなことをいいながらもテキパキとお客さんたちを捌いてくれる。
「向こうは、これほどでもないんですか?」
 手を休めずに楓がそう聞き返すと、
「似たようなもんだけど……向こうは、こっちほどには、家族連れはいなかったなぁ……」
 なるほど……と、楓は、小さい子供たちに「熱いから気をつけてねー」とかいいながら、紙コップを渡しているテンとガクを見る。
 二人の「シルバーガールズ」の格好は、確かに子供受けする。
 事実、二人の周囲は小さな子供を連れたお父さんやお母さんでごった返していた。中には、新手のテレビ番組か何かのプロモーションと勘違いして集まってきた人たちもいるのではないか、と、楓は思った。

 商店街の放送が駅前広場の特設ステージで行われているイベントの模様を中継しはじめる。名誉実行委員長の肩書きを持つ孫子の挨拶が終わり、コンテストにエントリーした人たちの持ち時間に移行する頃に、茅が帰ってきた。
「荒野は、学校にいったの。
 昨日と同じ、チョコを作りに」
 帰って来るなり、茅はそういった。
 より正確にいうのなら、「チョコの作り方を教えに」だが、応援に来てくれたおねーさんたちとお客さんを除いけば、ここにいるのは、昨日、一緒にその講習を体験していた人たちだけだったので、そこまで詳細に説明をする必要もなかった。
「次は、楓がお昼、食べてきて」
 茅は、続けて、楓に簡潔に告げる。
「わたしは、後でも……」
 楓は遠慮したが、
「……今、こっち、手が離せないから……」
「ボクたち、ご飯よりもこの子たちの相手している方が、いいし……」
 テンとガクに続けてそういわれてしまったので、しぶしぶ、といった感じで引き下がり、皆に一礼してから玉木の家に向かう。
 人通りが多い……というより、人がぎっしりと道を埋めている感じで、なかなか前に進まず、普段の倍以上の時間をかけて、ようやく玉木の家の裏口にたどり着く。
「……おじゃまします」
 といいつつ、裏口のドアを開けると、
「来た来た。
 そこに座って、ゆっくり食べていってよ。わたしたちはもう済んだから……」
 と、玉木が椅子を勧めてくれた。
「はい。これ。
 カッコいいこーや君からの差し入れ。牛丼、好き?」
 玉木がプラスチックのケースを楓の前に起きながら、新しい湯飲みにお茶をいれはじめる。
「牛丼は……あまり、食べたことないので……」
 ごにょごにょと不明瞭に答える楓。
「……どうも、カッコいいこーや君、こんなジャンクな物が好きらしくてさあ、食べている時も、顔が崩れていたよ……。
 ま、コンビニ弁当よりは、少しはましだと思うけど……」
 楓の答えを聞いているのかいないのか、そんなことをいいながら、玉木は湯飲みを楓の前に置く。
「そういえば、玉木さん……。
 こんな所にいて……駅前の、司会は……」
「いいの。いいの。
 あんなもん、必要なのは最初と最後だけ。後は、各出場者が勝手に入れ替わってくれるし……。
 時間、超過しそうになったら、次の出場者がせっつくんで、自然に入れ替わるようになっているのよ……」
「……はぁ……。
 そういうもん……ですか……」
 楓は曖昧に頷いて、牛丼弁当の蓋を開いた。
「あの……いただきます」

「……なかなか、盛況じゃないか……」
「そうっすね……。
 人も、こんな場所にしては、多いし……」
 その頃、小埜澪と東雲目白は、商店街に近づきつつあった。
「それに……一族の者も……ちらほら……」
 一般人に混じって、「気配を絶った」一族の者が、少なからず行き交っている。
 それは、まだいい。
 多くの一族の者が、この土地に流れ込んでいる、という情報を二人とも握っていたから、まだしも、納得がいく。
 小埜澪と東雲目白の二人にとって、理解できないのは……そうして、気配を絶って行き交っている者のほとんどが、鍋を抱えていること、だった。
「……新手の新興宗教の儀式かなんかか、あの鍋は?」
「さあ……そういう情報は、掴んでいませんが……」
 二人で首をひねったあげく、「顔見知りを見かけたら、捕まえて声をかけてみよう」という、ありきたりな結論を出して、先に進む。
 小埜澪は、特に二宮系の術者の顔を、多く知っている。これだけの人数が行き交っている状態なら、どこかで知り合いに出くわす可能性も、決して少なくはなかった。
「あ、あの……」
 しかし、思いがけないことに、二人が誰かに声をかける前に、二人がある人物に声をかけられる。
「……そ、そこに、いらっしゃるのは……お、小埜澪様と、その従者の方では……」
 白い杖をつき、犬を連れたサングラスの女性……。
「……野呂の静流御前かぁ……。
 久しぶりだなあ……」
 二人とも、以前からの顔見知りだった。
 頻繁に顔を合わす、という間柄でもなかったが、年齢的にも近いし、合えば奇妙に馬が合った。
 性格的にはまるで違っていたから、かえって話しが合うのかもしれない。




[つづき]
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